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九十二話「死の魔人」



 ■:中央都市アリシア・南中央街道



 ソーニャ視点。



「下を向いて、歩こおよ……」

「……どう、して」


 私たちが中央エリアへ到着した時、その男は不気味にも立っていました。

 すると、アリィは混乱の顔から一転、

 歯を出し威嚇するような、明らかな怒りをその男へ向けました。

 クラシスさんはそれを見て「?」を浮かべながら、

 その手に構えている短剣を構え前を見る。


「ソーニャ。クラシスさん。戦うよ」

「う、うん」


 私は良く覚えていないけど。

 その歌には、聞き覚えがあった。


「――血を、見るためぇえエに」



 男は、ニヤリと笑った気がした。



「不気味な人だね……」

「………」


 アリィは男を睨み、クラシスは後ろの方で男のオーラに汗をかいていた。


 男の外見は、脱力した両腕、右手に握っている黒いガイコツの棍棒には血がついており。

 常に負のオーラを醸し出しているその男は。

 私たちの前に、明らかに通せんぼするように立ち尽くしていた。

 足は短かった。

 胴体は大きかった。


「……ソーニャ」

「なに? お兄ちゃん」


 するとお兄ちゃんは声を震わせながら言った。

 声が怖かった。

 とても堕ちた声で、何か恐ろしい感情が籠っているのを感じた。


「………何も考えずに、あいつを殺す事だけ考えて」

「え?」


 その時のお兄ちゃんの顔は見えなかったけど。

 多分、物凄い形相をしていたと思う。

 お兄ちゃんの口癖の『なのだ』が、無かったのだ。

 そしてお兄ちゃんははっきりと言い放った――殺すと。


 その場所は開けた街道だった。

 横幅4メートルくらいあるその道、真ん中にはベンチや街灯が点々と設置されている。

 人は居なかった。地面の散らかり具合から、多分逃げたんだと思う。

 そしてここを真っすぐ進めば、中央エリア『アリシア像』へ到着する。


 そんな中、私達と男は睨みあっていた。


「……お兄ちゃん?」




「――【上級連鎖魔法】タケミカズチ」




 刹那、目の前に男に赤い光が爆音を鳴らしながら落ちた。

 上級連鎖魔法タケミカヅチ。それをお兄ちゃんが使用するのは、私でも初めて見た事だった。

 雷、だろうか。

 光属性の魔法? それか、火属性で生成した雷らしき物なのかもしれない。

 どちらにせよ、この魔法が開戦の合図だと言う事だった。


「――【連鎖魔法】氷の城!!」


 冷たい空気が腕に集まり。氷の城を形成する。

 防御にも足場にも使える。言わば領域系の魔法だ。

 二三本生えた氷のツララの上にお兄ちゃんは飛び乗り。

 杖を構え攻撃を開始した。


 私が繰り出した氷の城。

 それを生成している間に、不気味な男の周りを漂っていた煙は消え――。


「アー……」

「……無傷?」


 男は無傷だった。

 平然とした態度でその場に立ち尽くし、私達の様子を伺うように。

 いいや、ただ傍観しているだけにも見えた。

 どうしてなのだろうか?


「ッ。ソーニャ!! 早く攻撃をするなのだ!!」

「え……う、うん!」


 どうしてお兄ちゃんは焦っているのだろうか。

 私には分からないけど。

 もしかして、あの男と面識でもあるのだろうか?

 ……私は何も覚えていない。


 けど。


「――【魔法】絶対零度!!」


 空を切り、地を凍らせ、目に捉える事すら難しい斬撃が男へ直進した。

 青白い霧が空を回りながら男に命中した。


 魔法使いの欠点は近距離攻撃をされると対処が難しい事だ。

 魔法には詠唱が必要だ。省略する事も無詠唱でも出来るけど、魔法の方が安定する。

 言葉と想像力。それが魔法を使う術式なのだ。

 杖はあくまで魔力を上手く操るためのツールだ。

 別にやろうと思えば腕からも魔法を使える。


 魔法使いの戦い方は基本的に距離を保つ事。

 さっき私たちが戦ったオダマキは距離を詰める事が上手かった。

 オダマキがもしゲーム感覚じゃなく、本気で私たちを殺しに来ていたなら。

 きっと今ここに私たちは立っていない。


 クラシスさんは最低限の武器として短剣を持たせてある。

 一応戦いで出来る事はあるかと聞いたが、


『ごめんなさい。私、多分結界の中だと無力なんです』


 と言う事だった。

 この結界がクラシスさんに何らかの作用をしているのだろうか?

 正直クラシスさんがどうゆう戦い方をする人なのか知らないから。分からなかった。


「ソーニャ! フォーメーション:2!!」

「分かった!! ――【連鎖魔法】氷の城!!」


 フォーメーション:2。

 私が後衛となり氷の柱を生成させ、そこにアリィの火魔法『爆発』で柱を破壊する。

 目くらましと共に爆散した氷を再度凍結させ、歪な氷の足場を形成する。

 巨大な氷の迷路に対象を閉じ込め。

 避ける場所もなくした後にお兄ちゃんの大規模魔法攻撃でとどめを刺す。

 それがフォーメーション:2。

 迅速に敵を倒す作戦だ。


「――【魔法】爆発!!!」


 声と共に連続して爆発が発生する。

 眩い閃光が眩しい程点滅し、氷が割れる音がそこら中に響き渡った。

 耳が痛くなる金属音を私は耐えながら。

 私はもう一度杖を向けて。


「――【連鎖魔法】氷の森」


 小さい、冷たい空気が生成される。

 それは風に流れ、勢いを増し。一度割れた氷の柱にツララを走らせた。

 耳障りな音を出しながらツララは伸び、3メートル程のツララが爆散した氷の柱を掴んで。

 歪な氷の森。


「……アー」


 男に動きは無かった。

 ただやはり、そこで立ち尽くしていた。

 とにかく不気味だった。

 不気味で、怖くって、覚えがあって。


「――世界のマナよ、業火な炎を立て、赫怒の発色を零度に注ぎ給え。

 ――その際生まれるエネルギーを大気に流し、空を、紅い物に変え給え!!」


 ぐるると、赤いドロドロとした物が。氷の上に生成される。

 赤黒く光り輝くそれは、一瞬強く光ると共に。


「――【上級連鎖魔法】エクスプロージョン!!!」


 刹那、大地が割れるような重低音が地面を伝い。

 氷のツララを破壊しながら、混合しながらそれは強大なエネルギーを秘め。

 大きな爆発音が響き渡った。

 轟音が響き、地面は揺れ、巨大なクレーターが生まれた。

 ――――。


 ――――だが、男は立っていた。


「……アー?」

「なんで、しなない、なのだ」


 男はユラユラと体を揺らしながら、白い目で私たちの事を見た。

 グルッ、と。

 グラッ、と。

 グリッ、と。

 男は擬音を出しながらカクカクと体を動かし。

 そして聞き覚えのある声で男はガイコツの棍棒を振り下ろした。


「――【キン忌】ダぁーク*フぃールド#」


 男、否、死の魔人『死堂』はニヤリと笑い。

 私達は気を失った。



――――。



「……ここは」


 私、クラシス・ソースは暗闇に立ち尽くしていた。


 やけに寒かった。

 体の芯が凍る気分で、息を吐くと白い何かが広がった。


 先の戦闘で何が起こったのかさえ分からなかった。

 私は基本的に何もしていないし、出来なかったけど。

 あの不気味な男が使用した魔法が関係しているとしたら。

 これは危険な状況だと考えられる。


≪ねえ、どうすればいい?≫

『俺に聞くな。自分で考えろ』


 やっぱり。彼はいじわるだ。


≪……禁忌魔法って私達無事なの?≫

『さあな。とにかく、あの双子でも探してみれば良いんじゃねぇのか』

≪探すにしても……どうすれば≫

『自分で考えろと言っているだろ。俺はお前に従うと』


 ……あっそ。ならいいよ。


 取り敢えず、少し歩く事にしてみた。

 かと言っても暗闇なので特に変化はない。

 どこまで歩いても、そこは知らない暗闇で。ずっと路頭に迷っていた。


「領域系の魔法……かしら」


 もしそうなら早めにここを出たい所だし。

 あの二人と分断されてしまったのは、心細い。

 とにかく、早く出なければ――――。


「――お前誰だ?」

「……え?」


 私の目の前に、ロンドン・ティザベルが立っていた。

 白い蝶が飛んでいた。甘い花の匂いがしてきて、体が懐かしい気持ちと共に鬱屈感を思い出した。


 ――その瞬間。私はいつの間にかあの家の中庭に座っていた。


 中庭で座って、白い椅子に座って。その前に、花を踏みつぶしているロンドンさんが居た。

 目は死んでいた。と言うか、顔が陰で見えなかった。

 でもなぜかそれはロンドンさんだと感覚で理解できた。

 これは、何だろうか。

 夢だろうか。


『――――――!!』

「私はクラシス・ソースです」

「誰だ? 覚えていないぞ」

「………」

「…………」

「嘘よ。そんなはずないわ」

『――――!!』



 ―#―#―#―



「外出はぁ、許しません。あなたは、私が、命を賭けて守ります」

「……嫌だよお母さん」


 場所が移動した。

 そこは、懐かしい母の部屋だった。

 嗅ぎ慣れたミルクの匂いが部屋を支配し、疲れた目をした母がどこかを見ながらそう言った。


 そして増していく、鬱屈感。


『――――――!!!』



 ―#―#―#―



 炎が揺らぎ、建物が崩れる音がして、人が燃える声がした。

 そんな中、奥に立っていやらしい笑みを浮かべている。――白髪の女性が居た。


「――私は、お前の事を許さないからな。死神」


 あれ? これは私じゃない。

 ……誰の、記憶?


『――――気を保て!!! お前の名前はクラシス・ソースだッ!!』



 ―#―#―#―



「あ、え?」


 私は気が付くと、暗闇に佇んでいた。

 何もない、最初の空間。私はそこでただ立っていた。

 だけどすぐ、脱力して地面に手を付いた。


「……はっ、はぁ」


 何を見せられていたのだろうか。

 いや、体験していたのだろうか……。

 私には分からなかった。


『精神に干渉する禁忌魔法。俺が居なかったら、お前は壊れていたよ。クラシス』

「あ、ありがとう」


 精神に干渉する禁忌魔法。そんな物があったと今初めて知った。

 ……。

 死神に助けられた。

 私もまだまだだと言う事だ。


「ここは――」

「――イヤアアアアアアアア!!!!」


 その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。

 私はすぐさま前を見ると、そこには。


「アリィさん……?」


「ア、アアア!!! イヤアアアアアアダアアアアアアアア!!!」

「……ッ、っつ……!」


 双子が二人ともその場で苦しそうに叫んでいた。

 一番ひどかったのはアリィさんだ。

 苦しそうに、と言うより既に発狂しているくらいのレベルだった。

 まだソーニャさんは苦しんでいるだけだったが。


 そして、私は見てしまった。

 二人が見ている先。そこにはあの男が立っていた。

 魔法を使い。私達をこの場所に閉じ込めた。あの男が。

 そして――。


「お、おと、お父さん……??」


 それは、ソーニャさんの声だった。

 すると。男の姿にノイズが走り――――。

 優しそうだけどやつれている男性の顔が、男の腹から現れた。

 それを見てアリィさんとソーニャさんは。


「ッ……い、いい、いやだいやだいやだいやだ!!!」

「あれは……だれ? お、おとうさん?」


 私はどうする事も出来なかった。


 ――また、何も出来ないままだった。




 死の魔人『死堂』。

 その正体は、一体何なのだろうか。

 人魔騎士団は魔解放軍に勝利することが出来るのだろうか。



――――。




 ■:中央都市アリシア・中央噴水前



 ケニー視点。








 余命まで【残り●▲■日】




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