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九十一話「くらやみ」




 ■:中央都市アリシア・中央マーケット


 ナターシャ視点。




 少しだけ、足が重くなってきた。

 だからと言って。止まるわけには行かなかった。

 大体、結界が張られてから5時間程が経過したと思う。

 今日だけで色んな事がありすぎた。ほんと、色々だ。


「…………」


 でもまだ根を上げる時じゃない。

 魔解放軍は今もまだ人を襲っているのだ。

 私も戦わなければいけない。


 じゃなきゃ、こんな事態を起こした私を、私は許せないからだ。

 でも、やはり現実は残酷だった。


「疲れているようだぁね」

「――!?」


 突然、上空からそんな声がした。

 気だるげな言葉と共に。ゾワッとした寒気が背筋に走るのを感じる。

 私は真っすぐとした道のマーケットで足を止めると、上から大きな音を出しながら。


「いやはやだよ。ここまで来ているとは想定外だよナターシャくん」

「……どちら様? 私はあなたに、名前を教えた覚えはないわ」


 濃い土煙がそこに舞った。

 その男が降り立った衝撃で地面が揺れ、私は咄嗟に杖を構えた。

 土煙から分かるシルエットは、言ってしまえば人じゃない何かだった。

 6本の長い足がうようよとしているのが分かり。その付け根に人型が立っていた。

 土が落ちると共に、

 その男は鋭い目をニヤリと笑った。


「始めまして、僕の名前は機械士アボット。魔解放軍:幹部。要は、君らの敵さ」

「ああ、そう。じゃあやりやすいわね!!」


 先ほどと違い。ここら辺にもう逃げ遅れた人はいなかった。

 だから私は息を大きく吸い。魔力を指先に集めてから。


「――【魔法】漆黒波動ッ!!!」


 杖の先に紫の光が集まり。私は杖の先を思いっきり下へ向けた。

 すると激しい金切り音が勢いよく響き、

 地面を伝いながら、黒い波動が亀裂を走らせながらアボットへ進む。

 するとアボットはニヤリと不気味に笑い。


「ミーシア。止めろ」


 ――ドンッ!

 と、アボットの言葉に反応するように。

 アボットの背中から伸びていたアームが地面を思いっきり叩く。

 すると、青い衝撃波が走り。私の漆黒波動とぶつかった。

 衝撃波に衝撃波がぶつかり私の魔法は相殺された。


「気持ち悪いわね、それ」

「可愛いだろう? 全員に名前があるんだ」


 嬉しそうに、薄く笑う。

 そしてアボットは両手を広げながら。


「――グレイト、マーチ、ロメオ、ミーシア、ザレ、クレーネット。

 僕の子供達さ? 僕らは一心同体。僕と子供たちは一緒に生を共にするパートナーさ!!」


 6本のアームを操りながら、ひょろひょろとした体を曲げ、

 ブカブカな白衣を羽ばたかせながら。ボットは大声で笑った。


「……機械? それ、どうゆう仕組みなのかしら」

「作り方は企業秘密さ。君が騎士団じゃなければ教えたんだけど、やめとこう」

「あっそ。一生を共にするって、人間の友達は居ないのかしら?」

「人間は良く裏切る。君の様にね」

「………あっそ」


 少しうるさいな。


「――【魔法】ネガティブ・バースト」

「マーチ。魔法マジックシールド」


 黒い液体が溢れ、廻り、勢いよくアボットへ発射された。

 マーチと呼ばれていたアームは円形へ変化し、青色の盾を作り出し。

 グチョ、と言う擬音と共にナターシャの魔法は魔法マジックシールドに防がれたと思われたが。


「――お?」

「爆裂――!」


 その瞬間、盾にへばり付いていたナターシャの魔法は収縮し、黒い炎を上げ爆発した。

 ネガティブ・バーストは任意の位置で爆発させることが可能な魔法だ。

 一度の使用する魔力は多いが、この程度なら問題ない。

 爆発で怯ましている間に、私は中央マーケットを抜けたい。

 だが、多分だけど。


「面白い技じゃあないか」

「……そう安々は行かせてはくれないわよね」


 土煙から再度、佇んでいるアボットが笑った。

 魔法までもアームで使用できるとは。実際、彼の化学は本物らしい。

 だけど、いつまでもここで時間を稼がれるわけには行かない。


 早く終わらせるためにも、私は覚悟を固めた。


「――世界のマナよ、黒き漆黒の世界を写し、終わりを書き換える事象の変換地へ。

 ――黒よ黒よ黒よ。誘いたもうせし暗黒に、その男を捉え給え」


 黒い球体が私の杖から生成される。

 それは周りの光を吸いこむ様に、空気を吸うように蠢きながら大きくなり。

 私は大きな声でそれを言った。


「――【上級連鎖魔法】ブラック・ホール」

「グレイト。打ち消せ」


 アームがうねり。アボットの前へ勢いよく繰り出される。

 すると、黒い球体がアームを飲み込み。


「――――くっ」


 大きな音割れがその場に響き渡り。

 地面が揺れ、暗闇は一瞬収束し、衝撃波を生み出し爆散した。


「……グレイトを消したな?」

「まずは一本です。あと、五本ですよね? 楽勝です」


 【上級連鎖魔法】ブラック・ホール。

 収束と爆散を繰り返し、闇の亀裂を生み出す魔法。

 亀裂に入れてしまえばどんな物もこの世から消えてしまう危険な魔法だ。

 危険だけど、これでやっとダメージを入れることが出来た。

 少しだけだけど、やっと勝利の糸口が――。


「クレーネット。音波攻撃」

「――あ、アァ!! くっ、うぅ!」


 刹那、大きな耳鳴りが、私の頭を殴ってきたと錯覚した。

 その音はまるでザラザラの石に爪を立てているような音だった。

 耳が痛くなり。胃が気持ち悪くなり。私はいつの間にか顔が真っ青になっていた。

 自然と腰が抜けて、気持ち悪くなって。


「オエッ」

「うわ、汚い」


 私は吐いていた。

 何を吐いたか分からないけど、とにかく永遠と気持ち悪かった。


「悪いけど、ここで足止めさせてもらうよ」

「…ッ……まけ、アッ、ない」


 音波攻撃……。

 体の自由が……。


「いや負けるんだよ。君はここで負ける。仲間を裏切って、そして負けるんだよ」

「………うる、さい」

「僕はね、君みたいな人が大っ嫌いなんだ。仲間を裏切る君は、とても薄情で自己中だ」

「…………」


 ……。

 うるさいなぁ。


「何か言ったらどうなんだい。……あ、気絶しちゃった? 威力間違えたかなぁ。出来れば精神的に消耗させて――」






「――【絶対魔法】」






「う?」



――――。




 今、もしかして絶対魔法って言ったぁ?


 ナターシャくんを少し侮ってたかもなぁ。

 絶対魔法は記憶と生命力を犠牲にして発動する魔法だ。

 発動する魔法はある程度発動者の意思で決めれるが、まずまず意識を保つ事が難しい筈だ。

 厄介だ。


「ナターシャくんは闇魔法の使い手だよね」


 闇魔法の絶対魔法か。

 ……ここは、どこだ?


 アボットは周りを見回した。そこは黒い空間だった。

 アボットの足元には黒い液体が関節まで溜まっており。無音の空間に一人立っていた。


 でも、子供達の感覚は感じる。


「ロメオ。魔法査定」


『上級連鎖魔法【ブラック・ホール】。データなし。推定危険度8□:d。、c。至急脱出してください』


「……なるほど。危険度8か。それに、絶対魔法で拡張された魔法ねぇ」


 冷静に分析しているが、このままじゃマズイ。

 絶対魔法は別名『拡張魔法』と呼ばれている。一個の魔法を拡張、要は強化させる。

 今回は先ほどグレイトを破壊したブラック・ホールだが。


 拡張されたブラック・ホールは、どんな効果を持つのだろうか。


 本来なら下手に動かない方がいいのだろうけど。

 でも、今は魔法が発動しているど真ん中だ。それにこれ、領域系の魔法だ。

 領域系の魔法は言ってしまえば結界魔法と同じだが。

 閉じ込めて、ハメ殺す。

 それが領域系魔法の特徴だ。

 幸いまだ魔法は発動途中と見受ける。早めにここから出てしまえば。


「ザレ。破壊しろ」


 僕がそう命令すると、後ろのアームがうねり出した。

 破壊と言っても、どこまであがけるかは試さなきゃわからない。

 兎にも角にも。どうすればいいのかデータがいる。

 実験をしなければ――。


「――――時を、喰らえ」


 その瞬間、僕の後ろで動いていたアームが静止した。


「………え?」

「――――色を、喰らえ」


 実験……え?

 あれ、

 なに、

 これ、


 その瞬間、僕は個性を失った。


「……あ」


 アボットは小さく口を開け、よだれを垂らした。

 両腕をぶらんとし、脱力させていた。


「――――自を、喰らえ」


 その瞬間、青年は青年になった。


「………。」

「――――命を、喰らえ」


 黒い世界で、黒い空間で。廻り混ざり喰らい。

 青年を形成していた物が黒と変換され。

 青年は青年、名のない存在へと変換された。

 変換。理の変換。

 闇へ誘う暗の声は、青年を静かに破壊した。



 ――私は、だれ?



――――。



 中央マーケットはその日、音も立てずに消滅した。

 更地になった場所を歩きながら、私は腰を抜かした。


「――――はっ」


 やっとの思いで息を吸った。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて。それを繰り返して。

 危なかった。

 アボットはどうなったか自分でも分かんないけど、もし私が気を失っていたら。

 もしかしたらアリシアごと消滅させていたかもしれない。

 ……何か忘れたかな。

 わかんないけど、裏切った事は覚えていた。

 重要な事は忘れないんだね。


 私は私を見失う所だった。

 【絶対魔法】のブラック・ホールは危険だ。

 あんな体験、もう一生味わいたくない。


「……う、オェ」


 一度私は嘔吐した。

 あの感覚、表現できないけどとにかく気持ち悪かった。

 アボットは、どこにいるのだろうか。

 でも私の前に道がある。つまり、アボットは今私の邪魔を出来ない。

 い、行かなきゃ。

 純魔石を破壊しなきゃ、終わらせなきゃ。


『僕はね、君みたいな人が大っ嫌いなんだ。仲間を裏切る君は、とても薄情で自己中だ』


 ……私は、その場で動けなくなった。

 頭を両手で抱えて、カタカタと歯を鳴らしながら震えた。

 頭にこびりついた言葉だった。

 薄情で自己中。裏切り者。

 うら、裏切り者。


 もしかしたら【絶対魔法】で拡張した魔法がブラック・ホールだったからかもしれないけど。

 物理的攻撃の魔法が、精神にまで行くなら説明が良く。


「――――――」


 私の今の状況。これはとてつもなく、マズイ。

 自分でも制御が出来ない。


「――――――」


 何がって?


「裏切り者裏切り者裏切り者うらっ。裏切り者はくじょ、薄情じこ、じこ、自己中ぅ」


 口が止まらない。

 思考がぬりつぶされる。

 頭は冷静なのに、私は私を制御できない。

 まさしく半狂乱。狂っている。

 おち、落ち着かなきゃ。

 でも………。


 私が裏切り者で、裏切りのせいで関係のない一般人の犠牲者が出ているのは事実だ。


「あ、あぁ。あああ」



――――。

―――。

――。




 ■:中央都市アリシア・南中央街道



 ソーニャ視点。



「下を向いて、歩こおよ……」

「……どう、して」


 私たちが中央エリアへ到着した時、その男は不気味にも立っていました。

 すると、アリィは混乱の顔から一転、

 歯を出し威嚇するような、明らかな怒りをその男へ向けました。

 クラシスさんはそれを見て「?」を浮かべながら、

 その手に構えている短剣を構え前を見る。


「ソーニャ。クラシスさん。戦うよ」

「う、うん」


 私は良く覚えていないけど。

 その歌には、聞き覚えがあった。


「――血を、見るためぇえエに」



 男は、ニヤリと笑った気がした。




 余命まで【残り●▲■日】



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