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■:中央都市アリシア・貧民街エリア
ケニー視点。
「こんな事になるとはな……」
暗い世界。つい先日までの楽しい光景は、
一変とし、静かで陰鬱な空間へと変わっていた。
外の光がないそこはまるで曇り空の夜の様で、
とにかく、居るだけで焦りが湧き出るような感覚になった。
「――――」
貧民街の横を歩きながら。俺、ケニー・ジャックはそう呟いた。
死のバトルロワイヤル。理不尽の嵐だ。
この都市全体を巻き込み、こんな事を実行してしまうなんて。
予想も出来なかった。
出来るわけないか。
魔解放軍とはそうゆう連中だ。
とにかく、俺らの予想を容易に超えてきてしまう。
見誤っていた訳じゃない。
ただ、奴らが五歩先くらいを一気に走り抜けた感覚だ。
「アーロンは怪我無いか?」
つい先ほどアーロンとは合流した。
その時の怪我の具合と、汚れ具合から思いっきりコケたのは何となく知っているが……。
「一応……ですが、先ほど話した事を」
「メロディーと言う女の子の話だよな、さっきは遮ってすまなかった」
つい先ほど、雑貨屋コーディーを後にしたばかりだ。
時間稼ぎをしに来たと思われるあの二人、
グレゴリーとダドリューはいつの間にか消えていた。
その捜索を二人でしていて、アーロンの話を聞く暇がなかったのだ。
そう言えば、ティクターはどこへ行ったのだろうか。
確かサリーの話では、ティクターを追ってナターシャとアルセーヌが向かったと聞いたが。
あの二人もどこに居るか、現在になっては不明だ。
雑貨屋コーディーの爆破で、俺の通信用の魔石はどこか行ってしまった。
今や他の人魔騎士団への連絡ルートは絶たれてしまい。
このままじゃ、接敵した場合マズイ事になる。
まあだが、かといってサリーも俺も今戦える。
俺は先ほどの戦いで腕を負傷したが、それ既に治癒済みだ。
強いて言うなら、頭を強く殴られたサリーが心配だ。
だが追加でアーロンとも再会した。
負けなしと思いたい。
だが、敵の数すら分からないのは。
あまりにもこっちに不利すぎるんじゃないのか?
「じゃあ、話しますね――」
兎にも角にも、アーロンが体験した出来事を聞く事となった。
――――。
アーロンが話してくれたのは悲劇だった。
語り口調から察するに。
それについてアーロンはとても凹んでいる様に見受けられた。
そりゃ、目の前の女の子を救えなかったんだ。
同情するよ。
だが、この話で大事な点が。
「ドミニクはメロディーと言う少女を何かしらに利用したと考えてもいいだろう」
とは、サリーの言だ。
「確かに状況から考えて、
ドミニクはわざわざ逃げ出したメロディーと言う女の子を探しに来たった感じだな」
「ふん……つまり、今後の作戦に、そのメロディーが必要不可欠と言う事だろうか?」
「そうかもしれねぇな、そんな子供を使う作戦……想像も出来ねぇけど」
議論を尽くそうと思えば尽くせる。
だが問題は、時間がない事だ。
現在俺らだけではなく、沢山の人間の命が危険だ。
無関係の人間が無残に殺されるのは胸糞が悪い。
できれば助けに行きたいのだが、大本を叩かなければこの殺戮は続く。
とにかく、他のメンバーと会えれば。
それだけで選択の余地が増える。
今は考える事が多すぎる。
最優先を人命救助にしたいが、どのくらい被害が出来るのかさえ分からない。
情報が少なすぎるのだ。
「外部と連絡とか取れないのか?」
「流石に不可能だと思うぞ。
確認する時間はないが、ドミニクの言う事が事実なら、外からの干渉からの不可能な筈だ」
やっぱりそうだよな。
ていうかさ、
「つうか、それほどの結界を作り出せる物なのか? なんか、簡単すぎね?」
「きっと何らかの方法で制御しているのだろう。
先ほどのアナウンスで、『純魔石』と言う単語も出て居たしな」
「まずまず純魔石ってなんだよ」
「純魔石は――」
俺がサリーと話していると、アーロンがふとそう呟いた。
でも、俺らの視線を見てから。
「……何でもないです」
「……どうした? なんか、元気ないんじゃないの?」
「………」
もしかしたら、さっきの件を引きずっているのかもしれない。
メロディーと言う少女を助けられなかった事を。
聞いた限りだと、俺でもあれは落ち込むしな。
「仕方が無かったよ。あれは」
「でも、出来ることが他にもあった筈なんです」
「じゃあ、それを今後出来るようにすればいい」
「………」
「最初から完璧に出来る人間なんていない。俺も失敗をして学んだ。
どれだけ時間を賭けてもいいから、それを自分の力に、武器にすればいいんだよ」
「……はい」
アーロンにとって、その出来事は衝撃的だったのかもしれないな。
でも、どうしようもできなかった。
そういうもんだ。次に生かせばいい。
「さっき言おうとした事を教えてくれないか? アーロン」
「わ、分かりました」
アーロン。お前はもう一人前だ。
まだ年齢は子供かもしれないが、立派な大人だと思ってみている。
だから、大丈夫だ。
「純魔石。本来魔石は、魔力の塊が他の物質と固まった事で出来る魔力の結晶です。
なので魔石と言うのは他の物質が混じっているのがデフォルトなんです。
ですが。【純魔石】はその他の物質がない、不純物が混入していない純度百パーの特別な魔石」
「それが、純魔石っつう事か」
要は余計な物が何も入っていない純粋な魔石の塊と言う事か。
それって、聞いただけで分かるが物凄く希少なんじゃねぇのか?
よく純魔石って言うのを知らないが。
それを利用すればここまでの規模の結界を展開することが可能なのかもしれないな。
「それに、まだ問題はある」
「あの人魔騎士団の人狼って奴ですよね。ご主人様」
そう、人魔騎士団の人狼、裏切り者についてだ。
確かに考えてみれば、
ここまで用意周到とした作戦。相手の情報が無きゃとてもじゃないが練れない筈だ。
つまり、ドミニクが言っていた『裏切り者発言』にも信憑性が生まれてしまう。
だが、一番の障害は。
「――――」
人魔騎士団に怪しいメンバーはいないことだ。
俺の目だが、怪しい人物はいなかった。
アルセーヌは魔解放軍に会わなきゃいけない理由があるのは聞いた。
アリィもソーニャも、子供だから裏切り者としては適さない。
ナターシャさんも裏切る理由がない。
そう、一番はみんなに裏切る理由がない事だ。
いや待てよ、俺が知らないだけでもしかしたら裏切る理由があるのかもしれない。
としたら、この状況を予め知って居た訳で。
もし本当にそうなら許せないな。
「人魔騎士団の人狼の件は、正直今の時点では断定できない」
とは、サリーの言だ。
「だから、まずはこれだけはっきりさせてくれケニー」
「………」
「お前は、どっち側だ?」
それは、真っすぐとした瞳に言われた言葉だった。
サリー・ドードと俺は、浅くもなく深くもない関係だった。
そんな関係の俺たちだったが。
ここで始めて、信用していいのかと直に聞かれた。
「俺が知っているお前は、一番力がない癖に、力のある奴より勇敢な男だ」
「……っ、過大評価が過ぎるんじゃねぇか」
「お前はやる時はやる奴だよ。それはもう、何度も見てきた」
同じ戦場に一時期いたからだろうか。
時間で言うならそこまで長く一緒に立ち、日常を共にしてきた訳じゃないはずなのに。
不思議と、その言葉に不快感は無くって、だから俺は。
「俺はケニー・ジャックだ。お前の知っている。カッコイイ男だよ」
「……ふん。そうか」
サリーは満足げに笑いながら、俺に「ありがとう」と呟いた。
半年前まで、俺は引きこもりのクズ野郎だった。
でも。たった半年でここまで変われた。
人間簡単に変われるもんなんだなと思っちまうが。
簡単では、無かった。
全部、アーロンのお陰だ。
感謝しなきゃな。
――――。
「待てケニー。少し考えたんだが」
少し歩いた所で、サリーがそう口を開いた。
「これだけの広範囲の結界、それもあの効果なら」
「……何かあるのか?」
「空間がズレているかも知れない」
「……え?」
空間がズレている?
そりゃどうゆう事だよ。
「これだけ広範囲で、遮断する結界を展開している。
外界と完全に孤立した別世界。ここはある種、異空間と呼んでもいいかもしれない」
「………」
「つまり。ここの理は外の理と違う。全く別の空間、世界」
「……どうゆう事だ?」
「外界の時間と、内側の時間に、ズレが発生してしまう」
「つまり、どうなるんだ?」
「例えば、内側では一時間経過しているとする。
すると時間のズレが発生している外界では。その倍の時間が過ぎている可能性がある」
つうと、あれか?
内側では一時間だが、外ではその倍の時間経過しているかもしれないって事か?
…………。
――それはマズイ。
「その時間のズレを正確に測れる方法はないか??」
「多分ないと思うぞ。」
「……くっそ」
俺は動悸を抑えながら、小さくそう呟いた。
これに関しては個人的な問題だが。
簡潔に言うなら。――『寿命の問題だ』。
これに関しては正直どうなっているか分からない。
体の病なのだから、体感時間でカウントされる可能性の方がある。
でも、もし違うのならば。
「………」
ここに居すぎると、俺の寿命がどんどん減っていく。
そうゆう事になってしまう。
本格的に俺の寿命が、あとどのくらいか分からなくなってしまう。
しまった。
これでも俺はあの日、
クラシスが宿へ来て魔力が無くなるのを見届けた時から、ちゃんと日にちを数えていたのに。
最悪な気分だ。
「……気分が悪そうだな、どうした?」
「…………」
「ケニー?」
「ご主人様?」
「大丈夫だ。心配かけてすまん」
とにかく、今じゃない。
それを危惧して慌てるのは今じゃないんだ。
どのみちドミニクからディスペルポーションを取り返せばいい話だ。
大丈夫。まだ、慌てる時じゃないんだ。
「とにかく、最優先は他の騎士団メンバーと合流することだ」
こうして、俺らは方針を定め。とにかく中心部へ向かいながら――。
「……あなた方が」
「……」
突然、声が聞こえてきた。
俺ら三人は固まった。
何故なら、
――三人全員が声を掛けられるまでその女の存在に気が付かなかったからだ。
そう。俺らの前に女がいた。
俺らの行く手に紫髪のセクシーな美女が立ち尽くしていた。
そして、その質問をしてきた。
「あなた方、年齢を聞いてもよろしくて?」
「……年齢だと?」
それは紛れもない――『変な人だった』
余命まで【残り●▲■日】