魔族。
魔族とは、この世界で大昔に起こった戦争で。
人間側と共存を選んだもう一つの人類。
魔力から生まれ、感情を持ち、人間の影となって生きている存在だ。
そんな中で、とある魔族の話をしよう。
「…………」
彼女の名は、メデューサ。
魔族メデューサは有名だった。
だがそれはいい意味での有名ではなく、除け者としての有名だったのだ。
魔族メデューサは美しい風貌を持つ少女の姿をした存在であり。
その髪の毛は、何匹もの蛇に類似した物で形成されている。
メデューサと言えば、見たものを石にすると言う逸話が有名だ。
だが、それは間違っていないのだが、それだけではない。
メデューサの目を見たら、幾千もの大病疫病と言う猛威が人の体を蝕む。
その一つとして、人体石化があるだけであって、本来はそれだけではない。
メデューサは病魔の魔族。
人間とは渡り合えない、そんな存在だったのだ。
「君か」
「あの、ワタシ」
今日もメデューサは、人と話していた。
――――。
俺は産業発展の為、この地に訪れていた。
そして俺は、そいつに出会った。
一見は普通の少女だ。
普通の肌色、髪も黒で、声は優しかった。
だが、明らかにおかしな点があった。
「なんだ、その目隠し」
「これは、その……」
自らの目に、灰色の目隠しを付けていたのだ。
――実はそれが、魔族メデューサの呪いを封じ込める方法だったのだ。
「こんな森の中で何をしている。ここらへんの木は時期に切り倒されるぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ、産業の為だよ」
そう言えば、その少女は髪を結んでいた。
お団子の様に、白い布で先をまとめながら。
あれは、ポニーテールと言うのだろうか。
「その、えっと、ここはワタシの家で」
「すまないな。勝手に住んで居候しているなら、ここの伐採を止める筋合いはなくなる。お前が管理者なら別だったが。悪いな」
俺だって心は痛かった。
だけど、勝手に住んで、壊さないでくださいなんて無理だ。
もう決まったことなのだから、それに協力は出来なかった。
「……ワ、わかりました。ワタシはここから去ります」
「申し訳ないな。また別の住処を見つけてくれ」
その後、その男は蛇に噛まれた。
――――。
メデューサは彷徨った。
幸い、彼女の目は特別な魔眼であり。
布越しでも人がいるなどが理解できた。
だからこそ、布越しで呪いが発動しないなら、彼女はいいと思ったのだ。
「こんにちはお嬢さん、ここには最近来たのかい?」
森には人がいた。
男の人間だ。
メデューサはすぐに逃げようとした。
だけど、狩人だった彼はすぐに追いついて。
「どうして逃げるんだい?君は女の子なんだから、落ち着いていたほうが品があるよ」
「……うるさい」
「怒らせてしまったなら申し訳ないな。僕は君と話したいだけなんだけど、だめ?」
「……話すことなんて、ない」
「話すこと?」
「だって、ワタシはあなたを見ることも出来ないし、ワタシは……」
「知ってるよ、メデューサでしょ。本で読んだことあるんだ。君のことを」
その少年は、メデューサの存在を知っていた。
メデューサの特徴から、メデューサの対処法まで。
「どうして君は、人が君を捕まえる時の様に目隠しをしているんだい?」
「…………」
「あ、話すのが難しいなら全然いいよ。僕は女の子には優しいんだ」
少年は饒舌だった。
メデューサとの会話を楽しそうにしていた。
だから不思議と、メデューサも苦痛とは感じなかった。
なんだか、変な感じだった。
心がふわふわして、気分が上がって、恥ずかしくって。
「――っ」
危なかった。とメデューサは思った。
なぜなら、気分が上がりすぎると、髪の毛の蛇たちが起きてしまうのだ。
怒りに満ちたり、憎しみを覚えたり、嬉しかったり、楽しかったりすると。
メデューサの髪の蛇は、逆立つように舞い上がるのだ。
「…………」
だが、メデューサは少年と会話するのをやめなかった。
楽しかったからだ。
積極的に、知っているのに聞いてくる少年が段々気になって。
だから、メデューサは、少しだけ少年に心を許したのだった。