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間話「石の少女①」


 魔族。

 魔族とは、この世界で大昔に起こった戦争で。

 人間側と共存を選んだもう一つの人類。

 魔力から生まれ、感情を持ち、人間の影となって生きている存在だ。


 そんな中で、とある魔族の話をしよう。


「…………」


 彼女の名は、メデューサ。

 魔族メデューサは有名だった。

 だがそれはいい意味での有名ではなく、除け者としての有名だったのだ。


 魔族メデューサは美しい風貌を持つ少女の姿をした存在であり。

 その髪の毛は、何匹もの蛇に類似した物で形成されている。


 メデューサと言えば、見たものを石にすると言う逸話が有名だ。

 だが、それは間違っていないのだが、それだけではない。

 メデューサの目を見たら、幾千もの大病疫病と言う猛威が人の体を蝕む。

 その一つとして、人体石化があるだけであって、本来はそれだけではない。


 メデューサは病魔の魔族。

 人間とは渡り合えない、そんな存在だったのだ。


「君か」

「あの、ワタシ」


 今日もメデューサは、人と話していた。



――――。



 俺は産業発展の為、この地に訪れていた。

 そして俺は、そいつに出会った。


 一見は普通の少女だ。

 普通の肌色、髪も黒で、声は優しかった。

 だが、明らかにおかしな点があった。


「なんだ、その目隠し」

「これは、その……」


 自らの目に、灰色の目隠しを付けていたのだ。

 ――実はそれが、魔族メデューサの呪いを封じ込める方法だったのだ。


「こんな森の中で何をしている。ここらへんの木は時期に切り倒されるぞ」

「えっ、そうなんですか?」

「あぁ、産業の為だよ」


 そう言えば、その少女は髪を結んでいた。

 お団子の様に、白い布で先をまとめながら。

 あれは、ポニーテールと言うのだろうか。


「その、えっと、ここはワタシの家で」

「すまないな。勝手に住んで居候しているなら、ここの伐採を止める筋合いはなくなる。お前が管理者なら別だったが。悪いな」


 俺だって心は痛かった。

 だけど、勝手に住んで、壊さないでくださいなんて無理だ。

 もう決まったことなのだから、それに協力は出来なかった。


「……ワ、わかりました。ワタシはここから去ります」

「申し訳ないな。また別の住処を見つけてくれ」



 その後、その男は蛇に噛まれた。



――――。



 メデューサは彷徨った。

 幸い、彼女の目は特別な魔眼であり。

 布越しでも人がいるなどが理解できた。

 だからこそ、布越しで呪いが発動しないなら、彼女はいいと思ったのだ。


「こんにちはお嬢さん、ここには最近来たのかい?」


 森には人がいた。

 男の人間だ。

 メデューサはすぐに逃げようとした。

 だけど、狩人だった彼はすぐに追いついて。


「どうして逃げるんだい?君は女の子なんだから、落ち着いていたほうが品があるよ」

「……うるさい」

「怒らせてしまったなら申し訳ないな。僕は君と話したいだけなんだけど、だめ?」

「……話すことなんて、ない」

「話すこと?」

「だって、ワタシはあなたを見ることも出来ないし、ワタシは……」

「知ってるよ、メデューサでしょ。本で読んだことあるんだ。君のことを」


 その少年は、メデューサの存在を知っていた。

 メデューサの特徴から、メデューサの対処法まで。


「どうして君は、人が君を捕まえる時の様に目隠しをしているんだい?」

「…………」

「あ、話すのが難しいなら全然いいよ。僕は女の子には優しいんだ」


 少年は饒舌だった。

 メデューサとの会話を楽しそうにしていた。

 だから不思議と、メデューサも苦痛とは感じなかった。

 なんだか、変な感じだった。

 心がふわふわして、気分が上がって、恥ずかしくって。


「――っ」


 危なかった。とメデューサは思った。

 なぜなら、気分が上がりすぎると、髪の毛の蛇たちが起きてしまうのだ。

 怒りに満ちたり、憎しみを覚えたり、嬉しかったり、楽しかったりすると。

 メデューサの髪の蛇は、逆立つように舞い上がるのだ。


「…………」


 だが、メデューサは少年と会話するのをやめなかった。

 楽しかったからだ。

 積極的に、知っているのに聞いてくる少年が段々気になって。



 だから、メデューサは、少しだけ少年に心を許したのだった。


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