ケニー宅二階。
春風が窓から流れ、白髪の髪の毛が風に揺られた。
え? いまなんつった?
「ボクは、男なんです」
まて。俺の魔病が聴覚を奪った可能性もある。
よし、聞いた言葉を復唱してみよう。
ボクハオトコナンデス
ぼくはおとこなんです
ボクハオトコナンデス
ふむ、なるほど。
これあれだ。
何かの間違いだ。
「ちょっとしつれい」
と一応声掛けをするが。
その言葉とほぼ同時に、サヤカの服を勢いよくめくった。
「…………まじ?」
そこでやっと理解した。
なぜなら、あるべきものがあったからだ。
その小さなエレファントを見て、やっと脳が理解した。
彼女は、男なのだと。
男の娘だと。
「……えぇっと、サヤカさん?」
「その! この事は秘密で!
そして、ボクは……その、性奴隷としてなにか出来ることがあれば」
「いや、男の子とはしないよ? 俺そこまで人で無しじゃないよ?」
…………。
こんな綺麗で可愛らしい男の子が居ていいのだろうか。
なにかの間違いでウィンナーがついてしまったとしか思えない程に可愛い。
と言うか、俺って結局。
男が男の奴隷を買うってやつじゃん。
あー頭痛くなってきた。
いや、これで良かったのか?
もうわかんね。
「サヤカさん」
「は、はい」
「返品って、やってるかね?」
「…………」
そう言うと、目の前のサヤカの肩がピクピクと揺れだした。
あぁ、泣かないでくれサヤカよ。
俺だって本当なら今頃うっきうきであれやこれやしていたかもしれない。
でもこれは、明らかに詐称だ。
あいつらの口車に乗せられたんだ。
確かに君も被害者なのだろう。
だけど、俺は君のために……大金を払っているんだ。
「その、あの人達はもうこの街に居ないと思います」
とは、サヤカと言う少年の言だ。
「……どうして?」
「僕が男ってバレるのが時間の問題だから、売れたらさっさと身支度して逃げるって言ってました」
なんてやつらだ。
用意周到すぎるだろ。こんちくしょう。
…………。
あれ、俺ってもしかしてまた詐欺にあった?
何度目だよ。
詐欺なんて何度もあわなくてもいいんだよ。
騙されるのは懲り懲りなのに。
「不幸だ」
流石に、俺は頭を抱えた。
一時期の情と欲に流された過去の俺を思いっきり殴りに行きたい気分だ
「…………」
だとしても、どうにかしなければ。
これは逃げられないぞケニー。
向き合って考えなきゃ、この子の為にもならないな。
「取り敢えずわかった。明日、あの人達以外であたってみるから君はもうリビングで寝なさい」
今日は頭が痛い。
流石に疲れたのだ。
俺は元々引きこもり。
だからどうしてか、こうゆう自体を柔軟に対処するとかが苦手なんだ。
ほんと頼りないのは重々承知しているのだが。
今の俺じゃ正常な判断が出来ない気が……。
「あ、ぁの」
「ん?」
背中を向け、ベットに入ろうとした時だった。
吹き抜けの窓から差す月光が、俺の顔を照らしている。
だが、背中から泣きそうな声が聞こえた。
子供の声だ。見なくても分かる。
恐る恐る、振り返ると。
「ボク……もうあんな場所に帰りたくないんですぅ!」
……ぼろっぼろ泣いてる。
泣きまくってる。
湖でも作りそうな勢いで泣いてる。
その瞬間、俺の心の内に最悪な感情が生まれた。
その感情は湧いてからすぐ、その刃を俺に向けた。
…………。
あーわかったよわかりましたよ。
「……君のことは売らない。
君にどうするかは今後決めるから今日は休ませてくれ」
つくづく、俺は子供に弱いんだなと思う。
――――。
ベッドに入りながら。少し考えた。
こういう状況だ。考えるのを後回しにするのも出来なかった。
性奴隷『サヤカ』。
美しい白髪を持つ美形の少女。
だが、その正体は美形で可愛らしい少年だった。
いわゆる、ショタってやつだ。
俺は別に、男とそうゆう行為なんてやりたくない。
だから、性奴隷としてではない。
あいつにはなにか役立つことをしてもらいたいと思う。
そうだ、この家の家事とかどうだろうか。
掃除とか、外にあるシャワーの魔石の取替もそうだ。
いずれ料理とかしてもらえれば俺は満足だ。
唯一俺が怖いのは、俺が死んだらあいつがどうなるかだが。
まぁそれまでには自立できるようにしてやろう。
育てると言う事なのだろうか。
これが子育て……俺がか。
昨日の俺に言ったら飛んで驚くだろうな。
「………あ」
……金が足りない。
やらかした。
どうしたものか。
節約術を学ばせるか?
うーん。だとしても20,000Gは一人なら半年は持つが。
二人となると……。
「……判断を誤ったなぁ」
目先のことで後先考えなくなるのは悪い癖だ。
今後はきちんと、考えなければ。
で、だ。
あいつには、俺みたいなクソ野郎になってほしくない。
というか、俺みたいなクソ野郎が子供の心配をしていることに自分で驚いている。
せめて、家事ができればいずれ一人になっても仕事を見つけられるだろう。
「……もう遅いな、今日は寝るか」
今日だけで、色んな事が起こった。
いいや、数日前から俺の人生は急降下しているが。
まぁなんというか。一人の男の子を救ったと思えば心の持ちようもいい。
明日はサヤカに家事をやらせてみることにしよう。
……あぁ、おれ、一年後に死ぬのか。
やだなぁ。
――――。
「両親が借金をして、あの奴隷商人に売られました」
「そこまでは会場でも聞いてたよ」
と、白髪の少女サヤカは言う。
朝になり。
風車が風によって動き出す。
ついでにこの家の風車は元々ここら周辺が畑だった時の物らしく。
それを先人が改造した結果だそうだ。
風車を回すことによって、水が家中に回るように作られている。
要するに、この家の動力と言っても過言ではない。
面白い家を買ったなと、自分を褒めてみる。
よくやった、俺。
でもその設備のせいで暮らすスペースが狭いのが難点だ。
設備の手入れなどは要らないのが救いだ。
「奴隷商人はボクの顔を見て……不気味な笑みを浮かべました。あの顔を今だに覚えています」
語り口調には怯えが入っていたと思う。
辛い過去の話をしてもらうのは気が引けるが、知らなければけないのだ。
「そして『今日からお前は女だ』と言われて……それから男の子っぽいことをすると叩かれました」
体罰、か。
そうやって女に無理やりさせられたのか。
ひどい話だ。
あまり詳しく話さないのは、まぁ、理由があるのだろう。
話したくない事も沢山あるだろうし、今は話してくれた事に感謝だな。
「話を聞かせてくれてありがとう。とりあえず、君のことは理解できた」
「ありがとうございます。ご主人さま」
そう言いにっこりと微笑んだ。
本当に男の子なんだよね……?
なんだかわからないが、俺はドキドキする。
「さて、今日から君にやってもらいたいのは家事全般だ」
「はい!」
サカヤさんは元気にそう返事をした。よい元気だ。
両手をグーにしてやる気の目を見せてくれる。
おお、自信満々じゃないか。
なんと頼もしいのだろうか。
可愛いとこあるな。
「まずはほうきで階段のホコリを払う。
そして一ヶ月に一回シャワーのお湯を作ってる魔石を買い直してくるから取り付けてほしい。
まぁ、最初は家の掃除だ。今日俺は出かけるから、頼んでも大丈夫か?」
「後悔はさせませんよ。きっとボクの事を永遠にそばに置きたくなるくらい満足させます」
うお、目でキメ顔をしている。
これは相当の自信があるとお見受けするな。
これで心置きなく出かけられるぜ。
「じゃあ頼むよ、サヤカ」
「わかりました。ご主人さま」
ジャケットを来て。俺は街に足を運ばせた。
――――。
知っている道を通り。
一応使えた顔パスで正門を潜る。
大きい中庭を歩き、少しそこで立っていると、人影が杖を突き屋敷から出てきた。
「何をしに来た」
開口一番はそれだった。
「すまん親父、少しだけ金を貸してほしい」
目の前には、慣れ親しんだ大きな豪邸と。
俺の父親が居た。
ちなみに、開口一番に最低な事を言っている自覚は勿論ある。
親父の背後にある屋敷からは、
少しだけ覗くように、心配そうな顔をしながら使用人が見守っており。
気まずい雰囲気がそこに流れていた。
ここに来た理由は簡単。
少しの間の資金調達だ。
こうゆうところまで人頼りなのは、俺の悪い癖だと思う。
「金か? 理由次第だな。酒で溶かしたとかなら本当に勘当だぞ」
俺の親父は、別に意地悪な人じゃない。
俺の人格を見てもらえれば分かると思うが、親父もなかなかに子供に甘い。
「違う、俺に養子が出来た。一度だけでいい。
30,000Gだけ貸してほしい。それで近々必ず仕事を見つけるから」
「……そうか。働くと言う確証はどこにある?」
「そんなものあるならとっくに出してるよ」
実際に働くつもりはあるのだが。
いかんせん、それを証明する為の信用が俺にはないからな。
そう言うと、親父は考えるように項垂れる。
別に父親の弱みに漬け込んでいるつもりはない。
ただ、この状況ではどうしようもないのだ。
元々は俺がミスをした。
俺の尻ぬぐいは俺がしなければいけない。
だから、いずれ返す。
「すまん、無理だ。帰ってくれケニー」
「……そうか、一般人が邪魔した」
失敗、か。
正直望み薄ではあった事は間違いない。
これも甘えていたツケだ。
俺も自立しなければいけないのだ。
「とりあえず、ある程度揃えたかな」
夕暮れの光が顔に当たり。俺はどこか新鮮な感覚を味わっていた。
両手には2つの紙袋を掴んでいる。
俺が買い物なんて久しぶり過ぎて新鮮味を感じている。
と言うか。買い物をしていたらもう昼過ぎだ。
これは時間を取られすぎたな。
「……家に帰るのが楽しみなのはいつぶりだろうか」
別に人が待っているからとかではない。
家に帰ったら、きっとあの子が綺麗にしてくれているだろうと言うウキウキだ。
思えば汚れやほこり、何なら蜘蛛の巣まで目立って溜まっていた。
どこまで出来るのか分からないけど。
あれだけ張り切っていたんだ。
きっと小奇麗な感じになっているのだろう。
さっき家で使う用の食器や備蓄の
これから地獄みたいな節約生活をするため。
庭に畑でも作ってみようと思う。
俺が出来るかは定かではないが挑戦くらいはしなきゃな。
「よぉそこのどんくさいやつ。また会ったな」
と、後ろから声が響く。
突然の言葉に少し驚いたが、俺は振り返った。
「なんだモールスか」
金髪の男が軽そうに話しかけてくる。
昨日一緒に飲んだ飲み仲間のモールスだ。
「昨日は実家に届けてくれてありがとうな。なんかすまんな」
「いやまぁ、お前が奢ってくれたからそれくらいはいいぞ」
昨日は感謝している。
あの酒場で俺は金を払わなくてすんだのはこいつのおかげだ。
まぁでも、わざわざモールスが一人暮らししている家ではなく。
モールス実家に置き去りにしたのは悪意があるがな。
「え? 俺昨日お前に奢ったのか?」
「……お前、酔った勢いだったのか」
きょとんとした顔でモールスは凹む。
こいつ、もしかして俺に奴隷市場を教えたことすら忘れてそうだな。
あの時のモールスはテンションがおかしかったし。
「まぁそれは別にいいか。で、あのクズ野郎がどうして買い物なんてしてんだよ」
と、冗談らしく俺の歩みについてきた。
道を歩きながら、話をすすめる。
「いやまぁ、家から追い出されたのは話したよな?」
「あー、聞いた気がする」
「だから一人暮らしをしてるんだが。色々買わなくちゃいけないものがあってな」
「その買い物かぁ。お前も変わったな」
まぁ確かに、昔に比べると変わったと思う。
だが、これは俺が意識的に変えようと思ったわけじゃない。
必然だったと思う。
家を追い出されて、行く宛がない。
そうゆう状況で野垂れ死ぬのは本物のクソ野郎だと思う。
親に、感謝しなければいけない。
形は勘当だが。その御蔭で俺は少し、いいやつになった気がする。
「ん? お前、これなんだ?」
「え、あ! 見んな!」
「なんでこんな小さな服買ってんだよ。これも、ガキ用の下着じゃねーか」
「あ、え……」
やばい。言い訳が思いつかない。
どうしよう。このまま俺が生粋の変態とか思われたら収拾がつかない。
あー!どうしよう。こうゆうときの言い訳は考えていなかった。
「お前、家に誰かいるのか?」
「……拾ったガキだ。可愛そうだから世話をすることにした」
「お前が?またまたどうしてだ」
「その……か、可愛かったから」
「あ、そう」
やめろ!やめてくれモールス!
そんな悲しそうな顔で俺を見るなああ――っ!
――――。
その後、俺はここから用事があるって言ってモールスは笑いながら離れて行った。
養子、拾った子。
そうゆう嘘が、俺は得意なのかもしれない。
だけど性奴隷として買ったからって奴隷として使うわけには行かない。
せめて、養子とか、拾ったガキとか。そうゆう存在として可愛がりたい。
――でも、俺って、そう言えばもう長くはないのか。
「………」
ふと、ケニーの足並みが止まった。
俺は、あのガキを最後まで面倒見れない。
自立できるように手を尽くそうとはする。
だが一年後。10歳の子供、それもあいつは女と間違えるくらい可愛い。
一人で生きていけるのだろうか……?
せめて、生きていく為の土台くらいは作ってやりたいよな。
ならどうすればいいのだろうか。
そうゆう施設とか、あるのだろう……か。
俺は何考えてんだよ。
まだ、先の話だろ。
俺はそんな簡単に魔病で死ぬわけに行かない。
俺は生きたいんだ。
なに人の心配ばっかしてんだよ。
俺が一番大事なのは。俺自身なはずだろ。
しばらく歩くと、家が見えてきた。
ガガガと唸りながら回る風車は。ぱっと見、家だとは思わないのだろう。
畑を作るなら、ここらへんか?
まぁ今じゃなくてもいいか。
「ただいま」
声を出しながら扉を開けた。
中から何か臭うな。
さて、家はどんなけ綺麗に……。
「――あ?」
と同時に、俺の目の前に見覚えがある子の顔が迫ってきた。
――ゴンッ。
「……イッテぇ」
何が起きた?
俺は下を見る。
手を付きながら、俺は尻餅をついていた。
そして俺の胸でサヤカが気絶している。
何が起きたのか分からず。
俺は部屋を覗いてみた。
「……は?」
それで気がついた。
リビングが、馬鹿みたいに荒れている事に。
余命まで【残り361日】