ケニー・ジャックは救われた。
知ったから。
見たから。
喋ったから。
人のターニングポイントは、意外とそこらへんに転がっている物だ。
ただ、それは転がっているだけで。
自ら寄ってくる事なんて決してない。
それを拾う為に腰を落とす努力と、
それを拾い上げた時の感情が大事なのだ。
これは俺とあいつの人生の物語である。
――――――――
「――は、はい? い、一年ですか」
確か、春が終わりそうな時だった。
かかりつけの医者に、余命一年と宣告されたのは。
「ケニー・ジャックさん。あなたは魔病にかかりました。余命一年です」
面倒くさそうな目でそう告げられて。
諦めたように言い放たれた。
淡々と、悲しげもなく、俺はそのまま病院を追い出された。
魔病。
大昔からある希少な病気で。
必ず人の魂を喰らい尽くと言われているらしい。
詳しい事はよく知らん。知った方が良いんだろうけどめんどい。
これだけやばそうな難病だが、病が人に移る。
要は感染とかすることも無いので、他人への害は全くない。
人に避けられ隔離され、一生を白い部屋の中で過ごす。に比べたらマシか?
はっは。
「――――」
でも治療とかは無理だそうだ。
その希少さと、原因不明さから。
もう諦められている。
いや、物好きはもしかしたら治療法を調べているかもしれないけど。
多分大体の医者や治癒士は諦めている。
医療は死体で出来ているとかよく聞くが、その病気は死体をあまり築いていなかったと言う事だ。
それが良い事か悪い事かは俺には判断できない。
そのまま重い足を運び。
家に帰った。
一直線に父親の部屋に行き、それを報告すると。
父は青白い顔のまま、
「ケニー。お前は今日からただのケニーだ。
ジャック家の名を、これ以上、汚すな」
そう冷たく親父に言われ。
俺は家から追い出された。
手厳しいなと感じた半面、当然の結果だとどこか納得していた。
だって俺は、引きこもりだったから。
でも、
悲しいもんで、結構あっさりしていたなぁと思い返す。
親孝行とかしてないけど、せめて親の優しさ的なのを最後に見たかった。
まあ、それを跳ねのけて引きこもっていたのは俺なんだけどな。
さて、悲しんでいる暇はない。
まぁ幸い、追い出される前に俺を心配した使用人から少しだけお金をもらうことは出来た。
その金を握りしめ、俺はふらふらと街に繰り出した。
――――。
荒れ果てた道を歩きながら、俺はその金で家を買った。
優しい風が吹いていた。
広い草原のど真ん中にそびえたっているその建物が、今日から俺の家になった。
風車と家が混合したような建物だった。
中は狭く部屋も二部屋しかない。
もちろん、俺の
便所は外。シャワーも外。
風呂もついてねぇ。
一応貴族の暮らしとかしてたからかな、文句ばかり垂れている。
でも不思議とこの環境でも悪くはないと感じた。
新たな人生の門出!! 今日から俺はやり直すんだ!!
と、前向きになるのもあんまり意味がなかった。
だって俺は寿命があり。人生、
「俺の人生、どん底だな」
布団に寝ころびながら、吹き抜けの窓の外に広がる夜景を楽しむ。
どうしてこんな物件がまあまあな安値で売られていたのか知らない。
元々、どん底だった自覚はある。
でも今のほうがよっぽどどん底だ。
なにせ42歳になるまで親の金に頼りっきりで。
騎士にもならず貴族の礼儀作法すら習ってはいたが覚えていない。
あの親父も、俺を捨てられて今はすっきりしていることだ。
迷惑をかけていた自覚はあるから。
すっきりしていてほしい。
……余命一年、か。
「実感がねぇなぁ」
そりゃそうだ。
ほい。と、片腕を天井に向けて伸ばしてみる。
ぐっぱぐっぱ、手も動くし。
布団の中だが足も動く。
歩こうと思えば全然歩けるし、動こうと思えば飛び跳ねることも可能なのだ。
「――――」
だけど、一年後。
ぽっきりと。俺は死ぬ。
一人寂しく、この狭く暗い場所で、だ。
「……なんだかわからねぇけど、悔しいな」
唯一買った家具、寝具に寝転がりながら。
意味もなく片腕を上に持ち上げる。
それを虚ろな瞳で見ながら。
俺はこれからどうするかを考える。
だが俺は考えることは大の苦手だ。
後で考えよう。つうことにしてその日は寝た。
――――。
「よぉケニー」
酒臭い匂いが背中からした。
軽い身振り手振りで。
そして軽そうな声色で、一人の男が話しかけてくる。
お洒落な音楽が店内を包み、目の前にある安酒をちびちびと飲んでいた。
そんな時、後ろから声をかけられたのだ。
「またどんくさくなっちまったなぁ、おい」
「あぁ、何日も何もしてねぇと。こうも憂鬱なんだな」
だから俺は手を振りながら、笑えねぇ面を無理やり引きつらせた。
ここはバーだ。
このバーは、行きつけのバーなんだが、
今俺の横に座った金髪の男は、俺が唯一信用している飲み仲間って感じだ。
「なぁモールス。死ぬってなったら、最後に何したい?」
この金髪な男は『モールス』と言う。
俺みたいな貴族とかではなく、あくまで普通の国民だ。
だが、酒の好みと女の話があうので唯一の友人として信じている。
「突然なんだぁ? ……まぁお前のことだ、なんか理由があるんだろうが。そうだなぁ、金かな」
「あー金はなしだ。金はどうにも出来ねぇからな」
俺はそう言いながら、タバコを灰皿に叩いた。
金に関してはこれっきり。
俺は42歳にして、一度も仕事というのをしたことがない。
一度も、と言うと少し違う気がするが。
まともに定職に就いたことはないって言う意味合いだ。
それに昔、やんちゃをし。いってしまえば『犯罪』をしたこともある。
周囲の印象含め俺は浮いているのだ。
「――――」
あとしごとめんどい。
「金がなしなら、世界中の酒を全部飲んで死にてぇもんだ」
「それは一理あるな。だが、あくまで現実的なもので頼むぞ」
と、俺は伸びてきた髭を触りながら言った。
あ、でも髭と言っても。そこまで伸びてないからな。
ぼうぼうのおじいちゃんみたいな感じではないぞ。
ちゃんと剃ってるし。
…………。
「――――」
……この世界は広い。
色んな国に色んな酒、色んな文化や仕事がある。
そして色んな国には。
魔法とか剣術とか、王族とか貴族とか。
耳が痛くなる言葉が多く存在する。
もう俺はそうゆうのに疲れた。
魔法もある程度しか覚えてないし、それを使いこなしていたのは俺がちいせぇ時の話だ。
今使えるかどうかなんて、しらねぇ。
「そうだな、やっぱ女を抱くだなぁ」
と、モールスはぶつくさと言葉をこぼした。
そう言えば、俺とこいつは童貞だったな。
「女かぁ。そうだなぁ、わからなくもねぇが。こんな髭面のクソ男に女なんてついてこねぇだろ」
俺は別に不細工だとは思わないけど。
まぁ、正直モテないだろうなって感じはする。
歳も行ってるし、もう恋愛とかはいいかな。
「まぁ確かにそうだな。でも、死ぬ前に一度くらい。
くそほど可愛い女を抱きてぇのはおめぇさんもわかるだろ?」
「まぁな」
酒をぐぷっと飲みながら。モールスは天井を見つめる。
正直、否定できない。
女を抱きたいのは俺も同じだ。
だがそんなの、とっくの昔に諦めた。
そういう、欲とか。もうないと思う。
……でも、俺ってもう。死ぬのか。
あれ、おかしいな。
死ぬって思うと、どうしても生きたくなるな。
生きるってことは、俺はどうしたい。
「……女、抱きてぇな」
女を抱きたい。
案外安直な俺に言った後ため息を吐く。
恋愛をしたことがないと言えばウソになる。
でも、ろくな結果にならなかった事だけは確かだ。
でもなぁ、童貞くらいはぁ。
「女を抱きたいよな。俺もだ」
と、モールスは悲しげな声色で言った。
そんな都合のいい女がこの世界にいるわけもないし。
何というのだろうか、無理やり犯すと言うのも好みではない。
あくまで純愛とかそうゆうのならいいのだが、俺はそうゆうのが出来ないと思う。
……無理やりは嫌だ。
これでも、俺は優しい心の持ち主だと自負している。
犬や猫を見かけたらエサをやるくらいの優しさを持っていると。
「マスター。この酒をもう一杯とぉ、そこのつまみをくれ」
「かしこまりました」
モールスは酔っぱらいながら注文をする。
すこしフラフラとしている腕を伸ばし、モールスはバーテンダーにそう注文をした。
その注文に目の前のバーテンダーは短く頷き、奥へ消えた。
すると、モールスの顔色が一瞬で変わって。
「なぁケニー、ここだけの話だ。耳をかせ」
そうモールスが口を尖らせる。
「――――」
どうせろくでもない事なのだろうと思うが。
まぁいいかと思い俺は耳をモールスのほうへ向けた。
「今日、表出てから左にあるモスル通りに行け。そこで丁度【奴隷市場】をしている。
それも今日は上物の奴隷を揃えたオークションをやるそうだから。どうだ、行ってみようぜ」
「奴隷市場?」
確か、噂で聞いたことがある。
奴隷市場。
各国から集めた奴隷を一箇所に集め。
そこで一気に高値で奴隷を売りつけるというものらしい。
一見。小汚いやり口で壊れてる商品を売りつけそうな胡散臭さがあるが。
その品質は確かに一級品だそうだ。
長耳族のエルフから魔族の色白女もいるそうだ。
まぁ、どんな経緯で奴隷堕ちしたかは知らねぇがな。
どうやら今日は、そうゆう特別なイベントが行われているらしい。
「別に買うとかじゃないけどよ、少し気にならないか? 珍しい物を見に行くって感じでさ」
「いや、俺は行かないぞ」
「あ? 美人の女を買えば一生奴隷に出来るんだぜ? 性奴隷だぞ」
「悪いが、俺はそうゆう可哀想な物では遊べない主義でね」
そうだ。これでも俺は貴族の出だ。
根っこが腐ってるクソ野郎でも。人で無しではないと思っている。
そういうどうしようもねぇ激情も俺はある。
まだ俺も存外壊れてねぇって事だ。
そう言うと、モールスは少し凹んだ後に大きく口を開け。
「カーハハ!! そうだろうと思ったさ!
あの臆病者のケニーには無理だよなぁ! わりぃわりぃ」
「……別に、臆病なわけじゃないんだが」
「いいぜいいぜ強がらなくてよ! 今日は俺の奢りだ、ぱぁと飲んじまおうぜ!
どうせ奴隷を買うほどの金なんて俺たちにはねぇんだからよぉ!」
なんだか、今日はやけにモールスが酔っている気がする。
なにかいいことでもあったのだろうか。
その日の飲み合いはモールスが酔いつぶれた所で解散となり。
俺はモールスを担ぎながらモールスの実家に彼を放り投げておいた。
昔お邪魔したことがあったからだが、顔見知りの両親にお礼を言いモールスを預けた。
ついでにパンツに片手を突っ込ませといた。
特に深い意味はない。
なんかむしゃくしゃしたからとかそうゆうのも無いからな。
「ふう、すっきりした」
とは俺の言だ。
むしゃくしゃしたからとかではないぞ。
最近の若者は人を第一印象で決めつけてしまうと言うではないか。
違うからな。
その言動にも意味があるんだ。
人の本音は深層心理にしかない。
俺はそう思いつつ、俺は両目を閉じ。
思いっきり叫んだ。
「むしゃくしゃしたからパンツに手を突っ込んでやったぜ!」
はいガッツポーズ。
42歳にしては、幼稚な仕返しではあったが。
まぁすっきりしたのでけっかおーらいってやつだ。
さて。
この時間になると、こんな場所でも人が賑わうんだなと感じる。
道行く人が豪華な衣服で着飾り。
街灯が人の服についている宝石を輝かせる。
正直気味が悪い。
人はこんなに信用できねぇのに。
すると、ふと聞こえてきた声があった。
「やすいですよーやすいですよー! いい品が揃っていますよ!」
路地だった。
小さな路地。
ギルドと洋服工場に挟まれた路地から聞こえてきた声だった。
安っぽい声。
だが、聞いているだけで耳がどこか落ち着く気がした。
なぜなら心地いい声だったからだ。
安っぽい宣伝なのに、その宣伝に興味を惹かれた。
「いらっしゃい兄ちゃん。ほれ、これが整理券だ。
次のオークションは数分後だから。いいタイミングに来たな」
「……なんの整理券だ?」
「あぁ? 知らねぇのか兄ちゃん。まぁいいや。
出来るだけ大勢の人間に売り込むのが俺たちの仕事だ。特別に今回は教えてやる」
ほれ、と腕を振ってきた。
耳を貸せということだろう。
今日だけで二回誰かに耳を貸してるが、大体ろくでもないことな気がする。
はて、今回はどんな要件かな。
「性奴隷オークションだ」
その単語を聞いた瞬間。
さっきモールスに奢らせて正解だったなって思い片手を空に突き上げた。
――――。
拳を突き上げたのも束の間、俺は冷静になり周りを見回した。
オークション会場は思った以上に豪華だった。
冒険者ギルドの地下室にこんな豪華な会場があったなんて驚きだが。
こんな怪しいオークションに場所を貸しているギルド、何だか闇が深い気がする。
ま、ギルドも経営がきつかったりするのだろうか。
だとしても、少し意外ではあった。
赤い幕が降ろされたステージを見れるように、傾斜に並べられた椅子に座る。
「……あれ、俺ってどうしてここに来たんだっけ?」
座ってぐったりと落ち着くように脱力させた瞬間気づいた。
思えばここで買いたい物も別にないし、お金もそこまで持ち合わせえていない。
興味本位もあったけど。無計画で動き過ぎだったな、反省しよう。
「――――」
俺は、深いことを何も考えずに来てしまった。
……俺、胸糞悪い物をこれから見せられる気がする。
泣きながら助けてと叫ぶ子供とか。
もう快楽しかわからなくなった長耳族とか。
小さな見た目なのに大きな胸を持っている魔族とか。
「うっ」
想像すると吐き気がしてきた。
どうして気の迷いでこんな場所に来てしまったんだ。
本気で後悔した。
でも、後悔しても遅かった。
『よくお越しくださいました。
我々は世界各地を周り、奴隷を買い。
みなさまお客様に売りつける仕事をしている団体です』
そう大きなアナウンスが聞こえると同時に。
オークション会場の出入り口の鉄扉が閉ざされた。
そして客が静まる。
そこから長い説明が始まった。
要約すると、このオークションは郊外禁止だとか、団体名は伏せますとか。
そんな内容だった。
こんなグレーゾーンな仕事をしていれば、ここまで危機感を持てるのかもしれない。
俺の印象は徹底しているなと感じた。
『――さぁみなさま。奇妙な物から安値の物まで。
あなた方がどんな戦い方をするか、私共に見せてください』
そう最後に言うと同時に。
会場には熱気と高揚を感じさせるように盛り上がった。
中には男だけではなく女も居た。
笑いながら女の集団が目を見張っていた。
ここはあくまで女奴隷が売られているオークションだ。
「女が女を奴隷として買うのか……寒気がする」
ってことは、男奴隷の方にも男はいるのだろうか。
男が男を奴隷として買う。
……うぅ、寒気が。
別に差別をしている訳じゃないが、あまりにも俺の想像を超えてて理解が出来ない。
「――――」
兎にも角にも。
俺は一刻も早くこの場を出たい。
どうすれば良いのだろうか。
俺は立ち上がり、出入り口の方まで歩いた。
屈強な警備の男が居たので、俺はその人に近づいた。
「すみません。ここから出たいのですが、扉を開けていただけませんか?」
「申し訳ございません。
これは規則で、奴隷が檻もなく出るときは扉を開けられないのです。
何か気分でも悪いのでしょうか?」
なるほど、徹底してるな。印象通りだ。
いやまぁ理解できるが、許容は出来ない。
人が苦しんでいる姿なんて見たくないし。
人間らしさを無くしているのは見ていて気味が悪い。
「わかりました。じゃあお手洗いはどこですか?」
取り敢えず。
俺はオークションを見ないようにお手洗いにこもることにした。
トイレがあったことが救いだな。
「――はあ」
重い溜息を吐いた。
どうしたものか。
最近の俺はどうもおかしい。
まぁ仕方がないと思うが、正直自分でも何をしたいのかわからない。
……絶対、余命宣告のせいだ。
だから変な焦りがあって。
変な感情が俺に渦巻いているんだ。
これはあれだ、武者震いだ。
武者震いで震えすぎてここに足をすくませたんだ。
だから俺は悪くない。
俺は何も考えていない。
奴隷なんて、絶対に買わない。
「がんばれ、ケニー・ジャック」
と、鏡の前でつぶやく。
あ、ジャックは名乗るなって言われたんだった。
まぁ、いまさら気にすることはないか。
――――。
『今宵最後のオークションです!』
あー、やらかした。
もう終わりそうな静まり方だったから出てきたものの。
まさか今から、最後の奴隷だとは。
『彼女の名は【サヤカ】!
人族の両親が借金で首が回らなくなり売り払った一人“娘”です!
年齢は9歳! 5,000Gからスタートです』
そう言われて出てきたのは。
白髪の長いストレートが表情を隠すほど長いのが特徴の子供だった。
おいおい。
どうして9歳の女の子がオークションに出されてんだよ。
両親の借金で売られた?
ふざっけんなよ。あの子なんも悪くねーじゃん。
「……胸糞悪い」
ただただ、胸糞が悪かった。
9歳なんて俺はまだ笑いながら高いもの食ってたぞ。
どうしてそうなるんだ。
確かにこの世界は貧富の差が激しい。
だが、それだけで人生を壊されるのは。あんまりじゃないか。
「……奴隷に情を感じても疲れるだけだよな」
俺は、疲れてるんだ。
余命宣告されて。家を追い出されて。
本当に一人になったから。
おかしくなっちまったんだ。
どうしようもないほどおかしくなっちまった。
いいや、俺は前からおかしい。
何も変わってない。ただのクズ野郎だ。
弟や兄は剣士として王族の護衛をし。
姉と妹は魔法使いになったり別の貴族に嫁いだり。
で、俺は何をしてた?
俺は、親の金で良いもの食って寝てただけだ。
酒を飲んで、嫌なこと全部忘れてた。
なぁケニー。俺は何をしたいんだ。
俺も、わからなくなっちまったよ。
『――おいガキ。その髪の毛が邪魔で顔が見えねぇじゃねぇか』
突然。そんな声色の恐ろしい言葉が響いた。
「い、やめて!!」
「御覧ください。彼女は髪の毛さえ整えれば美人です。
将来胸も大きくなり、この美形も成長に伴い恐ろしいほどの美人になるでしょう。
買うなら今です。今しかありません。美人の幼女など、探してもいませんよ」
その司会者は。ステージに晒された女の子の髪を掴み上げた。
確かに、美形だ。
ただ、そのときの俺はそれどころじゃなかった。
「――おい司会者。
そいつに俺の全財産、50,000Gを払う。だから汚い手で俺の奴隷を汚すな」
――――。
「俺は、また何をしてんだ」
思わず。家に帰ってから実感し玄関で崩れ落ちる。
状況を整理しよう。
俺は何をやらかしたのか。
まず武者震いで間違えてオークションに参加した。
これはまぁ不可抗力なので仕方がない。
そして俺の金だ。
別にあの場では全財産とは言ったが。
実際はあと20,000Gほど手元に残っているから多分大丈夫だろう。
そして、一番の問題はこれだ。
「あ、あの、ご主人さま」
「………」
「……ご、ご主人さま?」
「お前、名前は」
「え、サヤカです」
「そうか、良い名だ」
俺はまた何をしているんだ。
そして褒めただけで照れないでくれサヤカさんよ。
……どうしたものか。
身長で言えば俺より小さい。マジで小さい。
特徴的で長い白髪が存在感を出し、可愛く儚い声色には怯えが含まれていた。
「……お前は、その、性奴隷なんだよな?」
「はい」
怯えながらも受け答えはしてくれた。
可愛いな。
「………」
べ、別に俺はそうゆうのに興味はねぇ。
だが、自分で買ったものなんだから。
大金を出して買ったんだから、俺の好きにしてみたかった。
……結局は下心ってわけだ。
「外にシャワーがある。そこにはタオルもある。早く体をきれいしてこい」
彼女の見た目は一言で言うならみすぼらしかった。
白髪の長い髪は泥が付いており。
腕は細く、白かっただろう服は灰色に変わっている。
長い奴隷生活でこうなったのだろうか。
可哀想だ。
なので今は綺麗にすることが先と言う訳なんだが。
そこから数分、俺はまともな思考が出来なかった。
俺の理性はするなと言っている。
だが俺の欲はぶっぱなせと言っている。
なんて最低な野郎だ。俺だがな。
もうどうすればいいかわからん。
誰だ、童貞を40歳まで守ったら賢者になれるとか言った奴は。
…………。
……ああー!もういい。
俺はやるぞ。やってやる。
どんな小さなガキでも、俺はやってやる。
俺は42歳のナイスガイなんだからよぉ!
「あ、あの。ご主人さま」
と、二階の扉が開き小さな顔が中に入ってきた。
おっと、丁度いい所に来たなサヤカ。
「体は洗えたか? お湯は出たと思うが」
「はい。暖かったです」
「そうか、それはよかった」
……あれ、こうゆう時なんて言うか。俺は知らないぞ。
「その、えっと」
「……?」
「……サヤカ、服を脱げ」
「……っ」
やはり嫌なのだろうか。
なんというか。俺の優しい心が荒んでいく気がする。
でも、これも大人の一歩と思えば良いんだ。
「……ん? どうしたサヤカ。どうしてぬが……脱がないんだ?」
「……その」
「?」
小さな腕がプルプルしている。
やはりまずかったのだろうか。
……あぁ、泣きそうな顔だ。
待ってくれ、おじさんは泣かれると少しどころじゃなく困る。
子供が泣くのは見たくないってさっき言ったばかりだしな。
「すまん。いきなりすぎたよな。い、いまは良いぞ。お湯が暖かくてよかった」
「いいえ、そうじゃないんです」
ん? そうじゃないとは?
「その。今からボクが言うことを聞いても。ボクをご主人さまは守ってくれますか?」
「そりゃもちろん。大金払ったんだから、俺は君を守るけど」
これが巷で噂のボクっ娘ってやつなのだろうか。
なんだか、貴族の女しか会ったこと無い俺からすると。
どこか違和感だな。
女として生きることをが当たり前だった貴族だ。
ボクなんて一人称は大人に去勢される。
……で?この子は何を俺に伝えたいんだ。
「じゃあ、一度しか言いませんよ」
「え、うん」
一体何を言い出すのだろうか。
実はボクは100歳で、あの団体に変な薬を飲まされて幼女に変えられましたとかなのだろうか。
なんだか怖いな。こうゆうの。
小さな体は、大きく息を吸った。
そして吐き出すように。それを伝えた。
「ボクは、男なんです」
あ、なるほど。
これあれだ、夢だ。
――買った性奴隷が男の子だった件――