「お前さんは確か、一年の途中まであの学校に居た……ああ、やっぱりそうだよな。行方不明だの何だのと言われていたが、噂なんて一人歩きするもんだしな。ああ、こっちの話だ。なに、気付いていたのか。そうそう、お前さんのことだよ。はは、どうだい自分が七不思議のネタになった気分は。しかし、前とは少し顔つきが変わったな。ああ、そうか。あの頃は眼鏡を掛けていなかったから、目つきが悪かったんだな。はは、悪い悪い。
お前、あの頃に転校してラッキーだったよ。あの後、あの学校は大変な騒ぎだったからな。お前が仲良かった、あの子も死んじまった。俺か? 俺はすっかり酒の量が増えちまったよ。あんな騒動のあった学校に居た教師なんざ、どこの学校も雇おうなんて思わんだろ。今じゃアル中の塾講師さ。
んで、あの頃の話なぁ。俺が知っているような話なんて、今更改まって言うようなことでも無いだろう。平の教師が知っていることなんて、たかが知れているよ。校長や教育委員会のお偉いさん方が、火消しに躍起になってたしな。
ああ、そう。教師でも一人、自殺した奴が出たんだよな。お前は面識無かったか、谷本って若いの。まだ大学生気分が抜けてない、俺等からすれば同僚よりも生徒みたいな奴だったよ。
谷本は女癖が悪くてなぁ。顔はそれなりに整っていたから、女生徒にも声をかけられて、いつも鼻の下を伸ばしていたよ。それでも、生徒にだけは絶対に手を出すなって、口を酸っぱくして言っていたんだが……まさか女性問題でどうこう言われるより先に、あんなことになるなんてなぁ。確かに、死んだ二人の生徒は谷本のクラスだった。でも、あの二人が問題児だったのは、それ以前からだったからなぁ。谷本に面倒を見させるには、流石に無理があったんだろう。ああ、クラス担任を決めたのは、教頭だよ。若い谷本先生なら、生徒達と近い目線を持っている。きっと彼等も打ち解けてくれるでしょうだなんて、理想を語っていたな。それがこの様だ。
でも、谷本も荒木と上田とは上手くやっていたようだよ。ああ、年が近いのが良かったんだろうな。教師扱いされていたかというと、少し微妙な気はするが。他の教師よりは、ずっとちゃんと話は出来ていたと思う。谷本以外の教師なんて、あの二人に声をかけても、相手にされなかったからな。生徒と教師ってよりは、年の近い奴等でつるんでいるくらいに見えたな。ある時なんて、上田からビデオを借りたって言っていたぞ。ビデオって言うか、DVDだな。ディスクに何もプリントされていなかったから、多分コピーした物を受け取ったんだろう。あいつらのことだから、どうせアイドルかポルノ系のビデオなんだろうが。ま、教師らしくは無いが、問題児に首輪を付けて仲良くやっているならそれでも良いと思っていたよ。
それが、あの騒ぎだ。上田が死んだ、そのすぐ後だったな、谷本が自殺したのは。上田が死んで、その自宅に警察が入ったって聞いて、真っ青な顔をしていたからな。自分のクラスの生徒が立て続けに二人も死んだんだ、それも無理は無いんだろうが……だからって、自殺まですることは無いだろうにな。俺みたいに、教師を辞めたって生きていけるってのに。本当に、馬鹿な奴だよ」