職員室に戻ってからというもの、僕も堀さんも池中さんも、しばらく無言のままだった。さっきの文字は、何だったのか。一体、誰が書いたのか。そもそも、彼等は誰によって、何故ここに呼び出されたのか。部外者な僕でも気になって、考えてしまうのだ。当事者の二人は、余計に気になっていることだろう。
「本当に、神尾さんが関係無いのだとしたら……当時の七不思議で死んだのは、五人。今日、この中から二人が死体になるってこと?」
池中さんが、声を震わせて呟く。
「てめぇ、縁起でも無いことを言うんじゃねぇ!」
語気を強めて池中さんを叱り飛ばす堀さんだが、彼の顔も青ざめている。堀さんだけは、脅迫めいたあの文章を書いた犯人では無い。彼が僕の無実を証明してくれたように、僕もまた彼のことを、こと壁に書かれた脅迫文に関しては、無実だと知っている。
僕は堀さんに頼んで、発端となった手紙をもう一度見せてもらった。
〝忘れてきた過去に、決着をつけましょう。
廃校になったからと言って、思い出が風化する訳ではありません。
自分の過去と向き合う気がおありなら、六月六日、十七時までに常夜野高校にお集まりください〟
壁に書かれた文字といい、この手紙の文面といい、過去の出来事を想起させるような内容になっている。と言うことは、ここに集められた人達は皆、過去――騒がれていた当時に、何かが有ったということなのだろうか。
堀さんは、荒木さんと上田さんから舎弟のように扱われていた時期が有ったと自分で言っていた。菜摘さん、舞子さんも、その二人とは仲が良かったと聞いた。三谷先生は、当時の学校の責任者だ。そりゃ後ろ暗い部分も、恨まれるようなことも、多少なりとも有るだろう。
でも、成美さんと池中さんは? この二人の接点が、どうしても思いつかない。成美さんは、荒木さんと上田さんの二人とは、学年が違う。池中さんは学年こそ同じだが、不良の二人と映画研究会の会長とで、親しい付き合いがあったとは思えない。池中さんは不良生徒と仲良くなるようなタイプでは無いし、そもそも池中さんが不良二人と親しかったのなら、堀さんや菜摘さん、舞子さんも知っていたはずだ。
「わっからないなぁ……」
新聞部の安藤さんのことを考えれば、成美さんは同学年だ。繋がりがあっても、おかしくは無い。しかし、どうにもパズルのピースがバラバラだ。そもそもが、不良生徒二人と新聞部員という組み合わせ自体がしっくり来ないのだ。
「七つの死、か……おい、お前、当時噂になっていた以外の七不思議って、どんな内容か知っているか?」
堀さんが、池中さんに声をかける。
「え、そんなこと言われても、知らないよぉ。僕だって、噂になった後の話しか聞いてないし」
「だよな……」
二人は当時、発生した事件と七不思議の一部が符号していると騒ぎになり、噂になった後に当時騒がれていた七不思議の内容を知ったのだろう。死んだ新聞部員の安藤さんが調べていた、七不思議の内容そのものを知って、事件と直接結びつけた訳では無い。
「僕、知っていますよ。七不思議の内容」
「へ?」
「ど、どうして?」
僕の言葉に、堀さんと池中さんがきょとんとこちらに視線を向ける。
「この学校について、調べているって言ったじゃないですか。亡くなった安藤さんの弟さんにも取材をして、彼女が纏めていた七不思議の調査ノートをお借りしているんです」
ガサゴソと鞄から大学ノートを取り出せば、二人の手が一斉にこちらに伸びてきた。