缶詰中心の食事を終えると、僕達三人は今日が初対面にもかかわらず、ソファーでだらだらとくつろいでいた。僕と堀さんは缶詰の味にすぐに飽きてしまったが、池中さんだけはとても嬉しそうに缶詰を次々に開けては、ひたすら中身を胃に詰め込んでいた。彼はきっと食べることが好きなんだろうなぁ。デザートが無いのが残念だなんて軽口まで言っていた。
お腹がいっぱいになった後は、僕は取材用のメモ帳と撮影用のデジタルカメラ、録音用のレコーダーを取り出して、テーブルの上に置いた。何が始まるのかと首を傾げる堀さんとは対象的に、池中さんは僕のデジタルカメラを見て目を輝かせた。
「そのデジタルカメラ、二月に発売した最新モデルだよねぇ? やっぱり記者さんとなると、最新の機種を持っているんだ」
「ああ、これですか。奮発して買ったんですよ。商売道具ですからね」
「いいなぁ、確か動画も撮影出来るって聞いたよ」
「僕は機械にはあんまり詳しくないんで、もっぱら写真ばっかりです」
さーてこの学校についての話を二人からじっくり聞こうと思ったら、なぜか池中さんはデジタルカメラに食いついてしまった。僕のデジタルカメラをキラキラとした目で見つめている池中さんに、堀さんが呆れたような視線を投げかける。
「なんだ、お前こういうのが好きなのか」
「僕、こう見えても高校時代は映画研究会の会長だったんだよ。自分で映像を撮影する為のカメラも持っていたんだ」
「映画研究会って、自分達で映画を撮影したりもするんですか?」
「そう思って、親に頼んで機材を買ってもらったんだけどねぇ。結局は一本も撮らずに終わってしまったよ」
池中さんが高校生の頃というと、撮影用の機材は今よりずっと高価だったのでは無いだろうか。そんな物を子供にぽんと買い与える親って凄いなぁ。そういえば、池中さんはここへの移動もタクシーを使っていた。ひょっとしたら、家がお金持ちなのかもしれない。
「で、そんな物を出してきて、一体何をしようって言うんだ?」
「二人から話を聞かせてもらえないかと思って。言ったでしょう、僕はこの学校のことを調べているんだ」
「ふぅん。話した内容って、録音するのか?」
堀さんがレコーダーを突きながら聞いてくる。
「一応ね。じゃないと、メモもなかなか追いつかないし、内容を忘れてしまっては困るからね」
「まぁ、いいけどよ。名前なんかは伏せてくれるんだろうな?」
「それは、もちろん」
僕が頷くと、堀さんは渋々と言った様子で了承してくれた。さて池中さんはどうだろうと彼の方に視線を移せば、彼の興味はまったく別のところにあるようだった。
「カメラを持ってきたってことは、写真も撮影するの?」
「ええ、既に校門前で何枚か撮っているんですけどね。せっかくだし、校舎の中も映しておこうかなって」
「なら、その写真、僕が撮ってもいい?」
「え? まぁ、良いですが……僕も後で撮ると思います」
「わかっているよぉ。デジタルカメラだし、気に入らない写真はデータ消去して構わないからね」
池中さんはすっかり上機嫌だ。彼の写真の腕前は分からないが、撮影してくれるというのなら頼んで良いだろう。こういう時はフィルムを消費しない、デジタルカメラは気楽なものだ。
デジタルカメラを手に目を輝かせ、池中さんはさっそく職員室内をパシャリパシャリと撮り始めた。撮影した画像がすぐにモニターに映し出されて確認出来ることに、おぉーと声を上げて喜んでいる。うん、楽しそうで何よりです。
「こっちはこっちで、始めちゃいましょうか」
一人で盛り上がっている池中さんは放っておいて、僕は堀さんから話を聞くことにした。