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僕達の七不思議
黒猫ている
ミステリーサスペンス
2024年09月21日
公開日
106,232文字
完結
雑誌記者の神尾恭平は、旧常世野村の廃校「常世野高校」に調査に向かう。
そこで出会ったのは、奇妙な手紙で呼び出された六人の男女。

閉ざされた廃村に取り残された七人。
校舎に書かれたメッセージが、七人の恐怖を呼び覚ます。

――七つの不思議が七つの死を呼ぶ
――逃れたくば、過去を清算せよ




※本作は小説家になろう様でも公開しています

序:安藤和久の証言 ―2002年3月某日―

「姉ちゃんの話が聞きたいってのは、アンタか? いやぁ、懐かしいな。姉ちゃんが死んで、もう何年になるかなぁ。

 我が姉ながら、変わった人でさぁ。高校生って言ったら、普通は恋愛とか芸能人の話とか、昨日見たテレビの話題とか、そんなのが出てくるじゃん。姉ちゃんがそんな話をしているの、一切聞いたことが無かったんだ。ああ、いや、高校一年の時、仲良かった男友達は居たみたいだけど。そいつも会えなくなったとかで、それっきり高校生にもなって、男っ気は一切無し。化粧っ気も洒落っ気も全く無いと来たもんだ。

 小説が好きなのは、まだ普通の趣味の範囲だけどさ。読むジャンルはオカルトやミステリーばっかりで、恋愛小説を読んでいる姿なんて、一度も見かけたことが無かったな。この人本当に大丈夫かなって、弟ながらに心配したもんだよ。ああ、ほら、笑わないでくれよ。当時は真面目にそう思っていたんだから。


 新聞部っていう活字ばかりの活動は、姉ちゃんにはすげぇ似合っていたと思う。本人も楽しそうにしていたし。部員も少なくて、しかも大半は幽霊部員だったから、真面目に参加していたのは責任者である部長と、姉ちゃんくらいだったんじゃないかな。だから、姉ちゃんがやりたい企画ってのも、すぐに通ったんだ。そう、学校の七不思議ってやつ。

 部長は怖い話が苦手で、姉ちゃんがほぼ一人で調べていたみたい。今でも姉ちゃんの調査ノートって言うの、あれが取っておいてあるよ。


 え? そのノートが見てみたい? ああ、いいよ。確か実家の倉庫にとっておいてあったはず。一応は姉ちゃんの遺品だからさ、ちゃんと返して欲しいけど。それを約束してくれるんなら、アンタに貸してやるよ。あー、すぐに見せるのは無理だって。実家にあるって言っただろ。分かったって、母ちゃんに頼んで送ってもらうから。うん、その住所に直接送ればいいんだな。送料着払い? 分かった、そう言っておく。


 んで、なんだっけ。そうそう、七不思議の調査の話だ。元々オカルト映画や小説は好きだったし、毎日暗くなるまで調べていたよ。近所に住んでいる先輩にも笑われたっけ。お前の姉ちゃんに、学校に伝わる怪談を知らないかって聞かれたぞ~って。恥ずかしいから止めてくれって頼んだんだけど、これが私の仕事だからって、全然聞いてくれないんだ。何が仕事だよ、金をもらってるわけでも無いのにな。当時はすっげー嫌だったけど、今思えば懐かしいなぁ。頑固なところも姉ちゃんらしいや。

 七不思議って言うからには、当然夜遅くまで学校に残ることが多くてさ。母ちゃんなんかは心配してたなぁ。姉ちゃんは大丈夫だからって言ってたけど。確かに夜の学校って言っても、真夜中って訳じゃなくってさ。放課後、部活が終わって学校が閉まるくらいの時間に帰って来ていたよ。毎日警備のおっちゃんや見回りの先生に、早く帰れって追い出されていたみたい。学校だって、深夜は施錠するじゃん。生徒が残っていないか、毎日施錠前に見回りをしていたんだって。姉ちゃんは姉ちゃんで、深夜の校舎で起こる怪談について調べたいから、警備員さんに見付からずに夜の学校に残る方法を考えていたみたいだけど、最後に出ていくのが姉ちゃんじゃ施錠出来ないじゃん。こっそり隠れておっちゃんの見回りをやり過ごすのは最後の手段だって言ってたな。そのうち本当にやるんじゃないかって、ちょっと怖かった。ああ、実行には移してないよ。だって、毎晩ちゃんと家に居たもん。いつかやりたいって考えていたんだろうなぁ。

 そうそう、そんな感じで毎日学校に残っていたもんだから、姉ちゃんが屋上から飛び降りた後は、警備のおっちゃんに俺達家族がすげぇ疑われてさ。家庭に問題があって、家に帰りたがらなかったんじゃないかって言われていたんだ。おかげで警察までやってきて、誤解を解くのが大変だったんだ。姉ちゃんが纏めていた取材ノートを見せて、ようやく納得してもらったんだ。ただでさえ姉ちゃんが死んで大変だって時に、自分達から虐待を受けて、それを苦に自殺したんじゃないかって言われて、母ちゃんがどれほどショックを受けていたか。おっちゃんが誤解するのは仕方ないとしても、警察の奴等も少しは言い方ってもんを考えて欲しいよな。怖い顔して、いきなりそちらの家庭環境について詳しく聞かせてくださいって詰め寄って来るんだもん。


 え? 自殺の動機? そんなもん、俺が聞きたいくらいだよ。結局屋上からの飛び降りってことで、自殺と処理はされたけどさぁ。毎日楽しそうに調査してた姉ちゃんが、自殺なんてする訳が無い。だって、調べたことをまだ記事に纏めてもいないんだぜ。まだノートに調査結果をメモしている段階。学校新聞に七不思議の記事を特集する為に、あれだけ調べていたんだ。その記事を書き上げる前に、なんで自殺なんかするんだよ。有り得ないだろ。

 警察の人間にも、何回も言ったんだ。姉ちゃんが自殺なんてする訳が無いって。でも、結局は自殺と断定された。学校側の言い分も大きかったみたい。確かに姉ちゃんは本が友達って感じで、社交性なんてほとんど無かった。でも、友達が全く居ない訳じゃない。人間関係を苦にして自殺なんて、するようなタイプじゃ無いんだ。同級生との付き合いを放り投げてでも、趣味に没頭する。それが姉ちゃんだよ。

 学校側としてはさ、自殺で無いとすれば、どこかに犯人が居る訳で。ただでさえ自殺者が現れて騒ぎになっているのに、その上殺人事件まで起きたとなれば大変って考えていたんだろうな。あんな田舎の小さな学校で、世間体なんて気にする必要も無いのに。それでも自殺者が現れたってだけで、村にマスコミが押しかけてきたっけ。俺達もしつこく話を聞かれたよ。

 マスコミはどうしても家庭環境や学校生活に問題があったことにしたいらしくて、俺がそんなこと無いって言っても、何度も食い下がっていたな。ワイドショーのネタってこうやって作られるんだーって、すげぇ納得した。納得っていうか、もう当時はうんざりしていたな。何回も言うけど、姉ちゃんが自殺なんてするはずが無いんだからさ。当然、そのこともマスコミに全部話したよ。でも、あんまり興味は無さそうだったな。それよりは、小さな村の学校という閉鎖環境での人間関係、いじめ問題として取り上げたいってのが、ありありと見えていた。友達から聞いた話では、俺達家族の噂なんかも詳しく聞かれていたみたい。虐待かいじめか、そこら辺をメインに取り上げたかったんだろうな。最終的に、いじめや虐待の事実は見られなかったって、警察から正式な発表があったんだ。その途端、一気に取材陣が引き上げていったんだから、笑っちまうよな。


 学校側の対応? さっき言った通りだよ。学校としては、なんとしても自殺ってことで片付けたかったんだろう。ま、自殺は自殺で大変だったけどな。ここら辺は田舎だし、噂はすぐに広まる。住んでいる地域で行く学校が決まる小中学校とは違って、高校なんて悪い噂が広まったら、廃れるのはあっという間だったよ。あの学校が廃校になったの、多分姉ちゃんのことも理由にあるんだろうな。直接の理由は生徒数の減少だけど、生徒が減った理由は間違い無く姉ちゃんのこととか、その後の事件のせいだと思う。俺だって姉ちゃんのことがあったから、少し遠くても別の高校を選んだし。正直、廃校になってせいせいしたってのが本音だな。もっと前向きに、世間体とか気にしないで姉ちゃんの事件をちゃんと調べて欲しかったよ。

 ああ、学校の先生も何人か家にやってきて、直接話したよ。ただ、向こうは学校での様子に問題は無いし、ご家庭での環境に問題があったのでは~なんて言ってたな。事件だなんてとんでも無い、娘さんは毎日家にもなかなか帰れずに思い詰めていたのです、だって。腹立つ話だよな。ま、学校の先生にも後に自殺した奴が出たって聞いたし。あの後も生徒が立て続けに死んだってんで、色々と大変だったのかもしれないけどさ。あんまり悪くは言いたく無いけど、同情する気にゃなれないな。


 ごめんな、なんか愚痴みたいになっちまって。ん、そっか。もう十四年、もうすぐ十五年にもなるのか。そりゃ懐かしく思うはずだよな。今日は嬉しかったよ、久しぶりに姉ちゃんの話が出来て。ああ、確かにマスコミは嫌いだけど、何を書かれても今更だしな。それに、アンタなら俺等のこと悪者にもしないだろ。ちゃんと調べて記事にしてくれるって、信じているぜ。当時流れた噂だって……ま、あの噂はいいや。姉ちゃんなら、きっと自分が七不思議になったなんて知ったら、大笑いしそうだし。いや、喜びはしないんじゃないか? 取材する側からされる側になったって、変な顔していそう。あはは、想像つくわ。

 姉ちゃんもさ、憧れていたんだ、記者ってのに。だから新聞部に入って、自分で記事を書こうとしてさ。良かったら、あの七不思議の調査ノートも、記事にしてやってくれよ。きっと姉ちゃん喜ぶから。ああ、よろしくな。本が出来たら、うちにも一冊送ってくれよ。楽しみにしているからな」

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