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第22話 専用ライブ

美夜に連れられてやってきたのはショッピングモールから少し移動した先にあるカラオケだった。


「カラオケか……そういえばあまり来たことがないかもな」


 歌や音楽は好きだが、わざわざ一人でカラオケに来るほどではないし、そこまで仲のいい友達も優と深きを覗く者の奴らくらいしかいなかったからカラオケに来たのはもう数年ぶりくらいだった。


「そうなの?私は結構一人で来るよ。練習も兼ねてね」


「そうだよな。MIYAと言えばアイドルの枠を飛び超えるくらいの本格的な歌が人気の1つだもんな」


 そう。美夜はもちろん歌って踊れるアイドルなのだが、特にその歌がすごいのだ。

 プロ顔負けの歌唱力で、大衆に人気のメジャーな曲から演歌など様々な曲を歌い上げる。


「あはは、まあ確かに歌にはそこそこ自信あるけど最近のメディアの盛り上げ方はちょっと過剰だよ」


 あまり謙遜していないところからも本音だと感じられる。


「いやでも実際、俺もうまいと思うけどな」


「龍也に活動のことで褒められたの初めてかも……なんかはずかしいや」


 話しながらカラオケの部屋に入る。


「さて、アイドルの生ライブを一人で聞かせてもらえるってことでいいのか?」


「うん。次のライブで辞めるって決めたから。アイドルとしての私を直接、龍也に見てほしくて」


 そう言うと美夜はラストライブのチケットをこっちで用意することも考えたけど、招待して関係がバレるとまずいからねと続けた。


「ってことで今日は龍也聞き専ね?」


「ああ、わかった。楽しませてくれ!」


 美夜の顔を見るとそこにはいつもの彼女ではない、いや世間からしたらいつもの、アイドルのMIYAがいた。



 そんなわけで俺限定のミニライブはたっぷり2時間弱行われた。

 いやはや、さすがのアイドル様。

 カラオケの狭い室内と言うこともあり、あまり激しい振り付けのダンスなどはなかったものの、2時間の間ほぼ休みなしで歌い続けられる体力には驚かされた。


「それじゃあ龍也!今日はライブに来てくれてありがとう!浮気性のクズだけど、その割に皆のこと大切にしてて、急にキザな一面を出してきたり、実は服のセンスがなかったり、そんなあなたが私は好きです!アイドル辞めてもずっと一緒に居てね!」


 そこまで言い切ってMIYAは美夜に戻った。


 満足そうに笑っている美夜のこの顔を表紙に雑誌にしたらベストセラーは間違いないだろう。

 こんなくだらないことを考えないと、ここで情欲の獣になりかねない。

 それくらいグッと心に響いた。


「美夜……。もちろん。もう、俺でよければなんて言わない。俺も美夜の一緒に居たい」


「うん!はあ~緊張した!」


「もしかして、最初から考えていたのか?」


「うん、実はそうなんだよね。今までも何度も気持ちは伝えてきたけどなんかこう、ちょっと病みが出てたりとか……まあ、そういう感じの時が多かったからさ。今日は改めて伝えるぞ!って」


 朝、妙に口数が少なかった原因の大元はこれだったか。

 てっきり、服を褒めなかったことだとばかり思っていたが……。


「そっか、ありがとう。正直死ぬほどうれしかったよ」


「龍也、こちらこそ今日はほんとにありがとう。最高の一日だったよ」


「それならよかった。途中色々あってごめんな」


「ううん。正直私は異能力とかよくわからないから、妹さん探しにあまり協力できないかもしれないけどお互い頑張ろう!」


「ああ、俺は萌花を必ず助ける。美夜はラストライブで有終の美を飾る。お互い大変そうだけど頑張ろう」


 俺たちは固く握手をした。

 握った手から彼女の熱が伝わってくる。


「ねえ、カラオケの監視カメラってただの脅しなんだって……」


 美夜に迫られるままにしてソファに腰を落ち着ける。

 すると美夜は俺の膝にまたがって来た。


「そうだとしてもさすがにここは……」


 さすがの俺も公共の場でそういうことをするというのには若干の引け目があった。


「……でも龍也のここはやる気だしてるよ?」


「そりゃ、誰だってこの状況じゃこうなるだろ……だが、美夜がその気ならっ!」


 膝の上の美夜を抱えてソファにスライドさせ押し倒す。


「いいんだな?」


 美夜が小さく頷いた。

 その合図とともに俺は顔を近づけていき――――――。


『Prrrrrr』


 無情な音がすべての雰囲気をぶった切った。

 俺たちは慌てて姿勢を起こす。


「……そういえば部屋二時間しかとってなかった」


「どうする。延長するか?」


「うーん……ここでってのもスリルがあってよさそうだったけど、わざわざ延長するほどじゃないかな……龍也には悪いけど帰ろっか」


 美夜が視線を落としながらそういう。


 確かに俺の情欲の塊は今にも暴れたそうにしているが、コイツをここで解放してしまうと出るのがいつになるかわからない。


「……そうだな。夜はどこかで食べていかなくていいのか?」


「うん。亜里沙のご飯おいしいし正直、直属の管理栄養士レベルだし……お昼のサンドイッチは想像以上の大きさだったから、ラストライブのためにも食事には今から気を使っていかないと」


「そうか。そういうことならよし!帰ろうか」


 こうしてカラオケを出た俺と美夜は家に向かう道中ずっと手をつないで帰った。

 さすがに電車の中では恥ずかしかったが、美夜が離してくれそうになかったので諦めた。

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