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第21話 手掛かり

 だいたい二時間半ほどの映画だっただろうか。


 ピアノが好きな男子高校生と歌うのが好きな同学年の女の子が音楽を通じて近づいていき恋人になるという、単調だが甘酸っぱく青春を感じられるストーリーだった。


「なかなか良かったな……」


「うん、私も学校でああいう恋愛して見たかったな」


「……」


 その発言に対して俺が言えることは何一つない。


「まあ、龍也が居るからいいけどね!」


「それは……良かった」


 話しながら映画上映中はオフにしていたスマホの電源を入れる。

 するとそこには今までに見たことがないほどの数の通知が溜まっていた。


「うわあ!何それ!?誰から?」


 含意は感じられない。

 純粋な興味からの質問みたいだ。


 デート中に他の人からのしかも女の子からの連絡の確認なんてご法度もいいところだが、今回は仕方ないだろう。


「結芽、日奈、小夜3人からものすごい数の連絡が来てる……ちょっと内容確認してもいいか?」


「……さすがにその数じゃ心配だね。いいよ。ちゃんと確認して」


 美夜にしっかりと許可を貰い1番上にあった結芽のメッセージを確認する。


 結芽 : 萌花さんの手がかりを見つけました!ですが、どうやら相手も異能者らしく小夜さんの異能をすぐに感じとり逃げられてしまいました。


 このメッセージのあとは何件も通話をかけてきたり、俺の所在を聞くばかりで、これ以上有益な情報はなさそうだった。


「……萌花の手がかりが見つかったらしい」


 口に出してようやく実感が湧いてくる。

 同時に激情と言っても差し支えない程の怒りも湧き上がった。

 俺の妹を拐わかすなんて、絶対に許せない。


「……行ってもいいよ」


 先程までの楽しげな表情からは一変し、複雑な表情をたずさえる美夜。

 俺だってこれ以上彼女にこんな表情をさせたくない……だが、もしかしたらまだ追いつけるかもしれない。


「……とりあえず、現状を確認したい。一旦結芽たちと電話してもいいか?」


 美夜は軽く頷くだけだった。


 電話をかけるとワンコールも鳴り止まないうちに結芽が出た。


「ヌル!一体今まで何をしていたんですか!」


「……すまない。映画館にいたんだ」


「……そういうことでしたか。いえ、私こそ突然怒鳴ってしまってすみません。怒っていた訳ではないのですが……」


「いや、いいんだ。それで、今の状態を教えてくれ」


 お互いに謝りあっていては押し問答になりかねないと思い早速本題へ切り出した。


「どうにも上手く躱されてしまったようで、今は見失っています。すみません」


「いや、気にするな。急いては事を仕損じるとも言うだろう。今日はもう遅い時間だし調査は切り上げてくれ」


「ですがっ!………………いえ、その通り、ですね。明日はもっと確実に予知をしてみせます」


 あえて強い口調で言うと俺の意図を察して、感情を飲み込んで納得してくれたようだ。


「ああ、今日はありがとう。手掛かりが見つかっただけでも、ものすごい進展だよ!日奈と小夜にもありがとうとお疲れさまって伝えてくれるか?」


「はい、わかりました。ではヌル、いえ龍也さん。余計なお世話かもしれませんが、改めて。今日はしっかりと美夜さんをエスコートしてあげてくださいね?」


「おう」


「そして、私とのデートの時はもっと完璧にエスコートしてください!」


 後ろから日奈や小夜の騒がしい声も聞こえた。


「頑張るよ」


 そう言って電話は終わった。

 結芽と話しているうちに激しい感情は落ち着き思考も冷静になっていた。


「……どうするの?」


 俺に配慮してか少し離れたところに居た美夜が、俺がスマホをしまったところを確認して戻って来た。


「デートはこれからだろ?」


「でも……いいの?」


「ああ、もちろん。今日は美夜が最優先だよ」


「じゃあ、最後に行きたいところがあるんだけど」


「おう、いいぞ。行こうか!」


 そうして俺たちは美夜の行きたいという所まで行くことになった。



 ◇◇◇



「二人とも、ヌルがありがとうとお疲れさまと言っていましたよ」


 どこか自慢げにツヴァイがそう伝える。


「チッ!自分に連絡がきたからって余裕ぶりやがって!」


「……たまたまで調子に乗らないで」


 そんな様子に僻み妬みをぶちまける2人。

 彼女たちもまた、龍也との会話で冷静な思考を取り戻していた。


「何とでも言ってください。それでも私に連絡がきた事実は変わらないでしょう?」


「ああ、ツヴァイがその気なら私にだって考えがある。お前がヌルとデートするときとんでもない見た目に変えてやるからな!」


「なっ!?」


 ツヴァイの表情から余裕が消えていき青ざめていく。


「……私だって、ツヴァイの思考を読み続けてヌルの前で考えてること全部話すから」


「ちょ、ちょっと待ってください!ごめんなさい!私が悪かったからぁ!」


 フェムの発言がとどめとなり、ツヴァイは顔を真っ青にしながら二人に謝ることになった。


 フィーアとフェムの力はこういう所では敵なしと呼べるほどの恐ろしい力だった。

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