そのあともなんやかんやと話しながらショッピングモール内を歩き回り、たまたまちょうど空いていたチェーン店のカフェで簡単にお昼を済ませることにした。
このカフェのメニューは想像以上の大きさがあることで有名で、俺たちは2人で1つのサンドイッチを食べることにした。
「あらかた回り終えた感じだな」
「そうだね。この後はどうしよっか?」
「うーん。移動してもいいし何か映画見るとかもいいかも?」
「映画!いいね!時間ちょうどいいやつ何か見ようよ!」
「よし、じゃあそうするか!」
そんな話をしていると注文したサンドイッチが運ばれてくる。
「噂には聞いていたけど……このレベルのサイズなのか……」
「うん。これは予想以上だね……2人で1つにしておいてよかったね」
「ああ、本当に」
噂以上に大きなサンドイッチに面くらいながらも二人だったせいか意外とあっさり食べることができた。
余裕があればデザートも、とも思っていたがさすがにその余裕はなかった。
「ふぅ。よく食べたな」
「そうだね。おいしかった!」
美夜も満足してくれているようで良かった。
「さて、じゃあ映画館の方へ行こうか」
「よし!何か面白そうなのあるかな~」
映画館に移動した俺たちはちょうど入れそうな青春小説が原作の映画化作品を見ることにした。
いつもなら、ポップコーンなりチュロスなり食べているところだが今日はやめておいた。
「二人で映画って高校生っぽくて、なんかいいね!」
俺も美夜も今年16の年齢だから、高校生であることに間違いはないが……。
まあ、美夜はこのデートをすごく楽しんでいてくれているみたいで、その顔を見るだけで俺も楽しくなる。
「そうだな。映画館って雰囲気良いよな」
俺たちの間の肘掛けで手の甲が触れ合う。
「……ケータイの電源落としたか?」
なんだか少し恥ずかしくなって、俺は自分のケータイの電源を落としながら美夜にも確認する。
「あっ、そうだよね。切っておかなきゃ」
そうして一度手が離れる。
「……えいっ」
今度は美夜の方からしっかり指を絡めて手をつないできた。
今度は照れずに俺も握り返す。
「ふふっ。なんだか悪いことしてるみたい」
現役大人気アイドルの今日一番の笑顔に加えられたこの言葉。
俺よりよっぽど魅了の力を使っていそうだ。
「……じゃあ、ちょっと悪いことするか?」
「え?」
俺がそう言うとちょうどスクリーン内が暗くなる。
不思議そうな顔でこちらを見る美夜に不意打ちでキスをした。
「どうだ?」
「ッ――――――!!」
ちょっとやられっぱなしだったからやり返してみたがどうやら効果抜群だったみたいだ。
「もう!もう!」
「はい、もう始まるから静かにな」
不意打ちを食らった美夜は俺の手をがっちりホールドしたまま腕をつねったり、強く握ってみたりとやり返してきたが、俺は満足だった。
――同時刻
「なあ、これ本当に手掛かり見つかるのか?」
休日のショッピングモールというありえないほどの人の数でごった返した空間から目的の人物をほぼ情報なしで見つけるというのは砂漠の中から砂金を探すようなものである。
「……正直無理かも」
「そんな!?せっかく私の予知で今日ここにいることはわかったのに……」
彼女たちはこのようなやり取りをもう何度も繰り返していた。
「あの殿方、ランジェリーショップから1人で出てきましたわ」
「あ?そいつは間違いなく変態か危険人物だな」
「……フィーア決めつけは良くない。今は多様性の時代」
「そ、そうだけどよ……どう見たってあれ挙動不審だぜ」
「……」
一応は時代の流れに配慮したフェムも擁護できないほどの挙動不審っぷりを見せる男がランジェリーショップの前でワタワタしている。
「フェム!あの人を見てみてください!」
「……拒否反応がすごい」
フェムの能力の性質上相手の考えが直に伝わってきてしまうため、明らかにやばそうな人には抵抗感を持つこともある。
「ですがフェムにしかできないのです!ヌルのためだと思って頑張ってください!」
「……ん。明日はヌルにご褒美貰う」
そう言ったフェムは焦点を挙動不審男に合わせ異能力を発動する。
「……
「どうだ?あいつは犯人か?」
「……うん」
「そっかーそうだよな。こんな方法で見つかる訳……ん?今なんて言った?」
「……あいつ犯人。ツェーン監禁してる。場所は……」
フェムがそこまで言いかけた時、挙動不審男が動いた。
「なっ!あいつ気がついたのか!?」
フェムの異能力は視界に入っていないと効果がない。
「追いましょう!少しブレていますが写真は撮っておきました!」
「よくやったツヴァイ!よし、私らも動くぞ!ツヴァイ早いうちにヌルに連絡を頼む!」
「もう連絡済みです!」
◇◇◇
萌花の服なども買わなければならなかった俺は緊張しながらランジェリーショップに入っていた。
あまりの女性空間にとてつもない居心地の悪さを覚える。
こんなの……童貞職無し19歳には厳しすぎる!!
とりあえず手の近くにあったものを何着か取りそのままレジに持っていった。
サイズ?柄?そんなもの知るわけないだろう!
店員にはすごい目で視られている気がするがもう気にしないことにした……。
だが確実に俺の精神は蝕まれていた。
「と、とりあえずミッションコンプリートだ」
俺は仕方なくやっているだけ。そう、仕方なくやっているだけ……。
そう言いながらランジェリーショップの前をうろうろする。
その時、俺の異能力感知レーダー(感覚)が大きく反応した。
「この感じ……まさか!?」
俺は気配のする方に看破を使った。
「アイツは
そこまで考えて俺は一目散に動き出した。
俺の看破で読み取った情報によると、彼女の能力は視界に入っている人にのみ影響を与えるものらしい。
不幸中の幸いか彼女とはワンフロアの差があったため、簡単に視界から外れることができた。
このままランジェリーショップの袋を持ってショッピングモール内を逃げ回るのは人目を引きすぎる。もうさっさと帰ろう。
俺はそのままショッピングモールを後にした。
◇◇◇
「おい、どこだ!ってかヌルの反応はまだなのか?」
フィーアはかなり気がたっていた。
彼女は正義感の強いタイプの女の子である。
年下の女の子さらに知り合いを監禁している奴がいると分かった今、彼女の怒りは最高潮を迎えようとしていた。
「まだ、ありません。いつもならまめに返信をしてくれるのですが……」
「……デート中だから切ってるのかも」
「チッ、ヌルの奴、妹は大事じゃないのかよ!」
「フィーア!」「……フィーア」
フィーアの発言に他の二人の語気が強まる。
「それはありえないですよフィーア。あなたもわかっているはずでしょう?」
「……ヌルはシスコン。ツェーンは超ブラコン。忘れたの?」
「いや、そうだな。そうだよな。今のは私が悪かった。つい気が立っちまった」
二人に諭されフィーアは落ち着きを取り戻すことができたようだ。
しかし、その間に追跡対象を完全に見失っていることに気が付くのはまだ少し後だった。