――朝――
体が揺すられて、いつもに比べて早い時間に起こされる。
「龍也!起きて!早く準備しなきゃ!」
はしゃぎ気味な美夜の声だ。
美夜は相当に楽しみにしてくれているようだ。
「おはよう美夜。そうだな」
「二人ともおはようございます。私は朝食の準備をしてきますね」
「ありがとう。助かるよ亜里沙」
見た目や恰好はフィーアの異能力で変えてもらうが、変えられている者同士では元の姿のまま見えるためしっかりとした服装にしなくては……。
高校生になる間で自分の格好にそこまで執着はなかったが、古着屋でバイトをするようになり、服に触れあう時間ができたことで多少は興味を持つようになっていた。
だがセンスは微妙らしく、同じバイト先の亜里沙にはよく服をおすすめしてもらったり、選んだりしてもらっていた。
今日はその亜里沙に選んでもらった中でも、俺が一番よく気に入っている服を着ていくことに決めた。
俺の微妙なセンスで選んだ服より、確実な方を選んだのだ。
着替えをもって浴室へ行き、シャワーを浴びる。
寝ながらかいた汗を洗い流し、最近少しずつ濃くなり始めたひげを入念に剃る。
普段より丁寧に髪を乾かし、鑑で自分の顔を確認、気合を入れた。
「よしっ!」
せっかくの美夜の初外デート、しっかり楽しませて見せる!
気合を入れて、ダイニングの方へ戻ると俺以外の面々は勢ぞろいしていた。
「あれ、龍也くん……いえ、よく似合ってるよ」
口元を手で隠しているが、あれは確実に笑っている。
まあ、自分が選んであげた服をそのまま着てきた姿は亜里沙から見れば笑ってしまうのも頷けるか。
「ほんとだ!龍!かっこいいね!」
亜里沙に続いて優も褒めてくれる。
ほかのみんなも好感触と言った感じだった。
さすがは亜里沙セレクト。
やはり間違いはなかった。
「それじゃあ、軽く食べて今日は楽しんでね!二人とも!」
亜里沙がそう言って、みんなで朝食を食べた。
朝食の間、美夜はなんだかいつもと違う様子でなかなか目を合わせてくれなかった。
「日奈、それじゃあ頼めるか?」
俺が一人に戻ってから、コードネームを使うのは
正直、俺も混乱していたから助かる。
「いいぜ。まあ、どんな姿になるかは私次第だけどな!」
「……あんまり、おかしな姿はやめてくれよ?一応目立たないようにしているんだから」
「ははっ。冗談だよ。じゃあ行くぜ
自分では全く分からないのも、この異能力のすごいところだ。
「……龍也かわいい」
へ?かわいい?小夜さん?
「龍也さん!そんなお姿も素敵です!」
結芽はどんな格好をしてもこんな反応になりそうだ……。
「へえ~あの龍がね……顔つきもこんなに変わるんだ」
なんだ、この反応?
「……美夜はかっこいいね」
ん?
「そうですね!私もいいと思います」
「うん。さすがは芸能人。そういうのもありか~」
ちょっと待て、分かったぞ!
「……日奈?お前まさか」
「ああ、そのまさかだぜ!りゅ、龍也!今日のお前は女だ!」
かっこつけて言おうとして、やっぱり俺の名前を呼ぶことをためらっているのか噛んでいる日奈がかわいい…………じゃなくて、女ぁ!!?
「今日は男女逆の変装にしてみた。どうだ?私ながら名案だと思わないか?」
「今の私、男の人に見えてるってこと?」
ようやく美夜が口を開いた。
緊張しているのだろうか、今日はやけに口数が少ない。
「ああ、そうだぜ!なかなかイケてるぞ?」
「龍也には普通に見えてるのよね?」
「ああ、私の変装は私の異能力の影響下にある奴らには効果がないからな」
「そう。ありがとう日奈」
「別にこのくらいなんでもないさ!まあ、同じ男に惚れた女同士仲良くしようぜ」
「ええ。こちらこそよろしくね」
なんだかんだ出会って二日目でもう仲良くなっているみたいで良かった。
「あ、龍。なんか安心した顔してるけど、これ以上増えたら……分かってるよね?」
和やかな雰囲気からは一変。
俺を睨む6人の視線に恐ろしい光景が蘇る。
目に映るすべてが赤く見えたあの時……。
「……もちろんです。心得ています」
「そう。ならいいよ。じゃあ、二人ともいってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる。じゃあ行こうか美夜!」
そう言って手を差し出す。
「うん!」
ようやく見せた満面の笑みに最高の気分でデートが始まった。
家を出て二人で腕を組みながら歩く。
「美夜、何かしたいこととかあるか?」
「……その前に。ん!」
組んでいた腕をほどくとこちらに全身を見せるようにして軽く腕を広げて見せる美夜。
ああ、何ということだ。
俺はこんなに大事なことを忘れていたなんて……。
「綺麗だよ美夜。アイドルの時のかわいい格好も好きだけど、今日の清楚で綺麗な服装も良く似合ってる。すぐに褒めるべきだったよ。美夜がかわいいのは当たり前すぎて……」
「そ、そっか。こういう服好き?」
「ああ。そういう服もすごく好きだ!でも美夜がどんな格好をしてても俺は好きだよ!」
「ちょ、ちょっと!そんなセリフよく普通に言えるわね!……あれ?いつもかも?いやそれにしても今日はすごいわよ?」
美夜にようやく、いつもの感じが戻って来た。
「今日は美夜の初めてのデートだから。いい思い出にしたいと思ってさ」
「っ――――!かっこいいけど、かっこいいけど!やっぱり女慣れしてるのがむかつく!」
「ははは……」
美夜のその言葉には乾いた笑いしか、返すことはできなかった。
「それで、どこに行きたいか、だったわね?」
「ああ、美夜の行きたいところがあればせっかくだしそこに行こう!」
「……それでいいの?」
また少し不安そうな顔になる美夜。
これは分かるぞ。
デートの行先、相手の好みに合わせなくていいのか問題について考えている顔だ。
「ああ、もちろん!美夜の行きたいところに俺も行きたいんだ!」
「ほんと?……じゃあ私、普通の高校生がしているような、そういうデートがしてみたい」
少し照れながら恥ずかしそうに言う美夜。
この表情を見るにちゃんと本音だろう。
「なるほど。じゃあ、とりあえずショッピングモールなんてどうだ?」
ショッピングモール……高校生デートの定番ではないだろうか。
放課後にぶらっと寄っていくデートもあれば、服を見たり、映画を見たり、食事したり、同じ施設内でいろいろなことができる。
「そうね。ショッピングモールよさそう!じゃあ、行きましょ!」
こうして俺と美夜のデートの行先はショッピングモールに決まった。