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第16話 ツンデレ達の素

ふぅ……。


 さすがの俺も同時に6人を相手取るのは骨が折れる。


「龍也……あんたほんとに……どうなってんの?」


「……ヌルの異能は反射リフレクトでも魅了チャームでもない。……絶倫」


「ちがいねえな……」


 美夜、小夜、日奈が息を切らせながら、何かとんでもないものを見るような目で俺のことを見つめる。

 そのあとで3人、顔を見合わせて笑っている。


 経緯はどうであれ美夜があの2人と仲良くしてくれそうなのは個人的に嬉しい。


「あらあら、皆さん音を上げるのが早いですよ?龍也くん私はまだまだいけますよ」


「先輩も大概ですね……」


 亜里沙は疲れ果てて眠っている、結芽と優を横目に見ながらさらに俺を煽ってくる。


 『日本男児たるもの腰に下げた刀、ここで抜かずしていつ抜こうか!』


 もう何戦目かもわからない試合に突入していこうとした俺を美夜が遮る。


「ちょ、ちょっと待って。ストップ、いい加減落ち着きましょう」


「美夜さん。どうして止めるんですか?」


 亜里沙は不服そうだ。

 だがそれ以上に美夜が複雑そうな顔をしている。


「私、来週からちょっと忙しくて……明日が近日中だと最後のチャンスなの……」


「……なるほど。いいでしょう。今日は折れてあげます」


「ごめんなさい。わがままで」


「いいのよ。アイドルは忙しいものね?というか今までよく、何事もなかったわね」


 ……お互いを尊重し合って、両者ともに一歩引いてものを考えられている。

 うんうん。実に素晴らしい。


 ……だが、待ってくれ。


 明日?

 と言うか正確にはもう今日。

 今日デートするんですか!?


「まあ、デートのことは私に任せとけ!絶対にバレないように変装させてやるからよ!」


 日奈もノリノリだし……。


「本当にありがとう、月守さん。私物心ついた頃から今の世界にいるから好きな人とデートって本当にしたことなくて……」


 いつもは強気の美夜が今日はどうにもしおらしく、初めてのデートに感激する普通の女の子になっている。


 いや、別に今までアイドルだと思って接してきたとか、そういうことはないけど……。


 美夜は自分自身がアイドルであるということに誇りを持っていると感じていた。


 言動や行動の1つをとっても、勝気なものが多かったり、派手なものが多い。

 俺にはそう見える。


 きっとこれは今までの人生の大半を俺達とは全く別の世界で過ごしてきた美夜に染みついた特性であり、ある意味欠点と言えるものだろう。


 しかし、それが今、完全にはがされて初めて彼女の素の姿が見えているとそう思える。


 そんな美夜が心から熱望するデート。

 体力を理由に、中途半端に終わらせるわけにはいかないだろう。


 ここはひとつ気合を入れよう。

 俺がこの顔に生まれていなくとも、魅了の異能から漏れ出ているかもしれないフェロモンがなくとも完全に美夜を落とし切るような、そんなデートをして見せる。


 はじめて見る藍野美夜という一人の少女の本当の笑顔を見ながら、俺は固く決意するのだった。



 ……だがそれはそれとして、妹、萌花のことも気になる。


 ほかの誰にも気が付かれないように小夜に目配せする。


(萌花の調査、明日だけ任せちゃってもいいか?)


(……仕方ないな~。でもこれで私も貸1だからね?)


(分かってる。ありがとう頼むよ)


 小夜、フェムの異能力は共鳴。

 目を合わせた相手の考えや思考を読み取り、自分の意見をその相手に伝えることができる。


 ちなみに、思考を読むだけなら目を合わせる必要はなく、視界に入ってさえいれば良いという恐ろしい能力だ。


 小夜の前で変なことは考えられない。


「……デートなら、もう寝たら?」


「そ、そうね。初めての外デートなんだし、寝坊で失敗なんてしたくないわ」


「よーし、じゃあみんなおやす……み?」


 お開きの流れになったため、新しく結芽が買った方の部屋に結芽と優を寝かせ、おやすみと言って自分の部屋に戻ろうとすると、起きていた4人はそのままついてきた。


「なあ、りゅ、龍也?」


 珍しくはっきりとしない物言いの日奈。

 ……まさかこいつ、いつもはあんなに粗雑な感じなのに、男を下の名前で呼ぶことを恥ずかしがっているのか!?


「どうした?珍しくはっきりとしない口調だな。日奈?」


「ッ!う、うるせえ!き、今日は隣で寝るからな!それだけだ!」


 あえて、名前を強調して呼んでみると予想通り、滅多に見れない可愛い反応が見れた。

 が……?

 隣で寝る?こんなに部屋があるのに?


「……日奈。残念。それは私が先に確保済みの席」


 小夜?俺は明日のためにゆっくり休みたいから今日は一人で寝るつもりだったぞ?


「あらあら、順番通りなら今日は私のはずなんですけどね?龍也君?」


 あ、亜里沙?さっきは美夜のことを尊重して、今日はもうここまでって流れだったんじゃ?

 まあ、隣で寝るだけなら……。

 そう考えて首を振る。

 世界の理想妻亜里沙の横で寝て見ろ!寝坊すること間違いなしだ!


「ちょ、ちょっと!もう日は変わってるんだから、今日一日くらい私に譲りなさいよ!」


 美夜もさっきは素直に謝ったり、お礼言ったりしてたのに。

 でも、美夜のこの感じはやっぱりしっくりくるなあ……。


 いつの間にか俺の思考は現実逃避を始めていた。


「……私の異能が言ってる。龍也は私と寝るって」


「おまっ!それはずるいぞ!なんとだって嘘が付けんじゃねーか!わ、私だって……」


「順番ですよ?ねえ?龍也くん?」


「今日は私を選んでくれるよね?」


 四者四用の視線が迫る。


 ああ、どうして俺は一人なんだ……。

 いや、もう一人いても俺はそいつに嫉妬するキモイ男だから意味ないか……。


 ……現実逃避を試みるも四人の視線は逃がしてくれない。


「じゃ、じゃあ、ベッドはクイーンサイズなんだから3人で寝よう!来週から忙しい美夜と順番的に亜里沙で!日奈と小夜はごめん!明日でもいいかな?」


 普段の優柔不断な思考を何とか振り絞り、俺なりの結論を出す。


「……明日と明後日にしてくれるならそれでいい」


「チッ!じゃあ私は明日と明々後日な?」


 なんとか二人からは同意を得ることができたみたいだ。


「まあ、龍也くんにしては頑張って選んだので許してあげます」


「……そうね。若干複雑だけど私を選んでくれたのだからそれでいいわ」


 その発言の後、日奈と小夜はそれぞれ結芽が買った部屋へと入っていった。


「さすがに今日は疲れた。明日のこともあるし、さっさと寝ようか」


「そうね」


「……まあ、明日は美夜さんを立てるという約束をしましたし、そうですね」


「おやすみ二人とも」


 両腕を美女に抱きかかえながら、俺は眠りへと落ちていった。



 その日はかつてないほどの最高の睡眠ができたというのはまた別の話だろう……か?

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