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第14話 正体

 ……窓から見える月が赤い。


 空も赤い……。


 世界が……赤い……。


「おいっ!帰ってこい!ヌル!」


 はっ!

 この声は……フィーア?


「あれ?ここはだれ?私は……」


「お決まりのネタは良いから……それで?この3人の言ってたcode10って結局だれなの?」


 オレが目を開けると、彼女たち全員が手頃な鈍器を持って取り囲んでいた。


「えっ?ホラー展開?」


(なにも……聞くな……)


「そうですね。そろそろ話を進めてもらいましょう。ヌル?ツェーンについて教えてください」


 ……この状況に関する説明は無し?


「あ、ああ。わかった。と言っても封印のせいで大した情報は共有できないと思うんだよな……」


「……まず封印インビジブルって、影響範囲はどのくらいなの?」


 フェムの左手には俺が中学の頃の修学旅行で買った木刀が握られている。


「詳細には確認できていないが、あの異能力の影響範囲は世界すべてじゃないかと思っている」


「……世界?そんな異能力があっていいの?」


「だが、実際にお前たちも覚えていないし、優だって覚えてないだろ?」


「え?私?私が知ってるはずないよ!」


 優の右手には綿棒が握られている。


「いや、絶対に知っているはずなんだ。だってツェーンはオレの××××なんだから」


「え?今なんて……?」


 ……やっぱりだめか。直接あいつに関する情報を口にしても理解することができない。


「これは……先ほど私たちが聞いたときと同じですね……ヌルは間違いなく何かを言っているのは分かるのに、私たちがそれを理解することができない……」


 うんうんと頷きながら納得しているツヴァイの右手にはどこから持ってきたのか、テニスラケットが握られていた。


「ああ、それが封印インビジブルの力だからな」


「何か手掛かりとかはないの?」


 亜里沙先輩の手には菜箸がある。


「手掛かり……あいつは封印の力が暴発した後から姿を消しているから……」


「姿を消してる?それが分かるってことは龍也の身近な人だったの?」


 美夜の手にはハンドマイクが握られている……持ち歩いているのだろうか?


「ああ、そうだ。同じ家に住んでいたからな」


「同じ家だぁ?それってまさか!?」


 この情報は聞こえるのか……。


 フィーアの手にはバットが握られていた……いや、似合ってるな。


「「「「「「元カノ!?」」」」」」


「なわけねーだろ!!!」


 中学生の段階でしかも実家で同棲してるカップルなんているわけないだろ!……いないよな?


「元カノじゃないとするとまさか!?」


「ああ、そのまさかだ!」


「「「「「「元妻!?」」」」」」


「なんでだよ!?」


 何をどう考えたら中学生時代に結婚ができると思えるんだ?

 日本国法を知らないのか?


 ……いや、まさか意図的にその結論にたどり着けないようになっているのか?

 封印の力……まさかこれほどとは……。


「いや、まあ冗談だけどな……」


「……うん。もしかして兄妹とか?」


「ッ!?分かるのか!」


「まあ、さっきの流れならわかるよね?」


 亜里沙がそう言うとほかの5人も頷いている。


 ……いや、じゃあさっきの息ぴったりの流れはなんだったんだよ。


「そうか……いや、そうだ!ツェーンは、萌花もかは、オレの妹だ!」


 こうして萌花を元より知っていた5人の記憶が蘇った。


 ◇◇◇


(萌花……そうだ!萌花は俺の……)


 そこまで考えて、フッと意識が切り替わるような感覚がする。

 しかし、いつもと違って自分が表に出るような感覚がない。


「これは……?おい!おい!俺?」


「……龍也?急にどうしたの?」


 俺が急に焦りだしたせいで美夜が驚き声を上げる。

 だが、それどころではない……。


「……あいつの気配がない。もう一人の方の俺の気配が……」


「もう一人の龍は私たちと同じで萌花ちゃんのこと覚えてなかったんでしょ?そこが二人を分けていた点だったのなら……」


「……今、思い出したことで消えてもおかしくはない。と言うことか……」


 そんな……急に……。


「ヌル……」


 想像以上にショックを受けている。

 なんだかんだ、悪くなかった。

 あいつは、いやだからこそ、世界の誰よりも気が合った。

 まるで、自分を半分失ったかのような喪失感。


「……ヌル。悲観するばかりじゃないかも。左目」


 そんな俺を励ましてなのか、なんなのかフェムが急にそんなことを言った。


「フェム?左目がどうしたって……?」


「おい、ヌル!その目まさか!」


 フェムに言われて真っ先に俺の目を見たフィーアが声を上げる。


「その目……この間先生に使ってた……魅了チャーム?だっけ?」


「そんな!?ヌルの異能力は反射リフレクトのはず!」


 ツヴァイの言う通りオレの異能力は反射リフレクトだ。

 そして反射リフレクトがなくなっているような感覚はない。


 だが、この左目の感覚は……まさか……。


「私、その異能力ってのについてはまだ理解してないけど……もともと龍也くんの力だったんじゃない?その二つとも」


 亜里沙に言われてハッとする。


「……反射リフレクト魅了チャームもオレの異能力だったってことか」


 思考のために目を閉じる。


「ね、ねえ……龍也?」


 それなら、もう一人の俺が反射リフレクトを使えず、異能力が魅了チャームになっていたことにも説明がつく。


「私、ちょっと……」


 それじゃあ、あれも現実味を帯びてくるな……。


「もう無理!」


 俺がその答えを口にしようとした瞬間、体に強い衝撃を受けた。


 !?


 その衝撃は一度だけでなく、二度、三度と続いていき……六度目でようやく止まった。


 ん?六度の衝撃?まさか……!


 俺が目を開くとそこには……魅了チャームにかかった6人の姿があった。


「今夜は……寝かさないよ?」


 美夜のこの言葉を合図に、長い夜が始まった。


 これは間違いない。

 俺の……『俺の浮気性は異能力のせいだ!!!』


 こうしてようやく、俺とオレが完全に一つに戻ったような……そんな気がした。


―――――――――


「お兄ちゃん……思い出したんだね……もう一人の方にも会ってみたかった気もするけど……」


「……まだまだ、この場所は分からないだろうけどな!」


 私の異能が解けていくことを感じる。

 しかし、それにケチをつける面倒なのがいる。


「私のお兄ちゃんならすぐ見つけるし!てか解放してよ!もうお兄ちゃんが思い出してくれたんだからここにいる必要ないじゃん!」


「い~や、まだだね!お前の兄、龍也には絶対に許せない借りがあるからな!」


「うっわキモすぎ……そういう粘着質なところが全く振り向いてもらえない理由だよ?」


 しかも、私を人質みたいにしてさ……。

 まあ、もうすぐお兄ちゃんなら見つけてくれるだろうけど……あの先生はお兄ちゃんには厄介だなあ……。


「う、うるせえ!お前だってもう15になるって言うのに兄離れできてない癖に!」


「あ゛?私とお兄ちゃんは兄弟以上の愛で繋がってんだよ!お前の独りよがりで意地汚い片思いとは全然違うんだよ!」


「ひぃ……お、お前、人質って自覚……ある?」


「あるわけないじゃん?だって私、お兄ちゃんの妹だよ??」


「チッ、あの女たらしクソ野郎……妹まで完全に懐柔してやがるとは……魅了チャームの異能恐るべし」


「はあ、そんなんだからダメなんだって……。お兄ちゃんが異能の力でモテてると思ってるうちは本当に勝ち目ないよ?まあ女たらしなのはちょっと……」


 最後に『むかつくけど』と聞こえないように呟いた。


「ふん!懐柔済みのお前に言われたって響かないね!さあ、見つけてみろ!金木龍也!お前の妹はここにいるぞ!」


 全く誰にも聞こえていないだろうに何をこんな大きな声で宣言しているのか……。

 どうやっても優ちゃんをお兄ちゃんから奪うなんて成功するはずがないのに……。


 私が捕られているというのに、コイツ可哀そうに思えてきた……。


 まあそんなことより、お兄ちゃんに早く会いたいなあ……。

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