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第13話 毎日が女難の男

 「ここがヌルのお家なのですね!」


 帰り道の途中、しっかり寝て体力を回復させたお嬢様が午前中と変わらないテンションではしゃいでいる。


「お嬢様、今夜はこちらにご宿泊なされるということでお間違いはないでしょうか?」


「ええ、というか、ここをしばらくの拠点にしたいわ。どこか行くときは呼ぶから、帰っていいわよ」


「そ、そういう訳には……」


「フィーアとフェムも同じくここを拠点にするし、ヌルもいるから大丈夫よ」


「……承知いたしました」


 渋々承諾と言った態度で頷くとおもむろにオレの方へ振り返る。


「金木様、くれぐれもよろしくお願いいたします。私たちの首が飛ぶのは一向にかまいませんが、お嬢様に万が一は許されません」


「もう!ヌルをいじめないでよ!」


「いや、いいんだツヴァイ。わかりました。結芽には万が一もないように努めます」


 俺がそう言うと満足したという表情を浮かべる黒服。

 サングラス越しで分からないがその目元も笑っている気がした。


「ご当主様への挨拶に来られる日を心待ちにしておりますね。それでは」


 最後にとてつもない爆弾を落として、黒服たちは去って行った。


「……今度はツヴァイだけ、ずるい」


「うちのくそ親どもにヌルを会わせたいとは思わないが、腹が立つのは事実だな……」


 何やら背後で不穏な気配を感じる。

 いや、これはきっと気のせいだ。うん。挨拶なんて知らないし。


「私が金木を名乗る日も遠くなさそうですねっ!」


 ツヴァイさん!?

 その発言はちょっとぉ……まずいかもです――。


 華麗にスルーを決めて逃げようとしたが、両肩をがっしりと掴まれる。


「……ヌル?」


「スルーとはいい度胸だなぁ?」


「フィーアもフェムも落ち着いて?こうなることは私の予知で分かっていたことじゃないですか!」


「おいおい、ツヴァイそいつは聞き捨てならねぇな?私たちはそんな未来聞いたことないが?」


「……ツヴァイ、いくらあなたの予知がすごくても、その未来だけは訪れないよ」


「「ねぇ?ヌル?」」


 なんでこう、行く先々で厄介ごとが起こるんだ……。

 オレはそんなやり場のない思いを胸に天を仰いだ。


 ◇◇◇


 なんとかその場を諫めてオレの目下の問題は解決された。

 だが……。


「さて、ここからはお前の番だからな?」


(はあ、気が重い……)


「そういえば、ここには金木の同棲相手がいるって話だったな?」


「……あのMIYAがいるって言ってた」


「フィーア、フェム、少しこちらに」


 月守さんと陽宮さんが大石さんに呼ばれて何かをこそこそと話している。


 ……

 …………

 ………………


 何だかデジャブを感じる。

 この光景、いつかも見たような……。

 なんとなく悪い予感が頭をよぎる。


 しかし、そんな悪い予感は杞憂だったようだ。


「さて、それでは行きましょうか」


 話が終わると3人は何事もなかったかのように、もともと俺が一人で借りていた部屋へと向かっていった。


 その様子に拍子抜けしてしまい、俺が部屋に入るタイミングがほかの3人より少し遅れた。

 3人の後を追う形で部屋に入ると……待っていたのは地獄だった。


「あら、おかえり龍也君」

 そう言って出迎えてくれたのは亜里沙先輩だ。


 しかし、亜里沙以外の2人からはいくら待っても声をかけてもらえない。


「うっわ、ほんとにMIYAじゃん!」


「……正直、半信半疑だったけどすごい」


「ねえ?誰これ?」


 空気を読まない2人の発言の後、ようやく美夜が口を開く。

 だがそれはもはや死刑宣告のようなものだった。


「あ、えーっと、……前に話した他の子たちっていうかなんて言うか」


「まだほかに、3人もいたんだ?」


 続いて優も口を開く。

 美夜の優の姿はさながら地獄長牛頭と馬頭と言われてもそん色のないほどだ。


「あ、私婚約者の大石結芽おおいし ゆめと申します。とは言え、彼の女性関係には寛容なのでこれから仲良くしてくださいね?」


「「「「あ゛?」」」」


 立て続けに投下される状況や発言の数々になぜか事情を知っているはずの月守さんや陽宮さんまで怒りをあらわにしている。


(「おい、助けてくれ!」)


(…………)


(「おいぃぃぃぃ!」)


 俺の悲痛な叫びが声になることはなかった。


 ◇◇◇


「で、結局どういうわけ?そういえばこの前も異能力がどうとか言ってたけど……」


 自宅で一人、正座させられながら事の経緯や異能力、深きを覗く者についての説明をすることになった。


 ……

 …………

 ………………


「――って言うことで、俺は人格と言うかそのcode10ってやつのことを覚えていない方の俺で、もう一人のオレがこの大石さんとかと元々知り合いだったオレってことらしい」


「じゃあ、私はどっちの龍とも会ってるってこと?」


 つまりそういうことなんだろうけど……。


「それについてはオレから答えるぜ。久しぶりだな優」


(ってまたかよ!)


「龍!?確かに言われてみればちょっと昔の龍って感じがする」


 最近の龍よりちょっとワイルドめ?って感じ?と言い笑っている。


「さすがだな、分かるのか!優の前ではこの力のこととか深きを覗く者ピークアビスの奴らのことが分からないようにしてたんだが……」


「ふーん、私には隠してたんだね」


「私たちも仲のいい幼馴染が女の子で、こんなに仲良くしてるとは思いませんでしたよね?」


 優とツヴァイ達の間で火花が散っている。


「そういえば龍也。さっき周りの部屋が何件か騒がしかったけど何があったか知ってる?」


 ……そういえばこの階、ツヴァイに買われたんだった。

 美夜の時も思ったけど即日入居可能になるっていったいどういうことなんだこの物件は……。


「……ああ、それはだな……」


 どうにかやんわりと伝えることはできないだろうか。

 と、そんな甘えたことを考え少し間をおいてしまったのが悪かったのだろう。


「私が買い取らせていただきました。今日からここに引っ越してきますね?」


「「あ゛?」」

「ん?」


 さっきまで無反応だった亜里沙まで反応している。

 どうやら、もう一波ありそうだ……。


 これは、明日の太陽を拝めないかもな……。

 冗談抜きでそう思う龍也であった。 

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