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第12話 引っ越し再び

「ヌル?説明を求めます!内容次第では私、自分を抑えられないかもしれません……」


「ああ、私もだ」


「……同じく」


 この世に悪魔や魔王なんてものがいたとしても、今のこの三人よりは恐ろしくないだろう。


 (だから俺だけどオレじゃないんだってぇ)


 (「道連れにしてやる!」)


 (クソっ!この野郎)


 (「とりあえず替わるぞ」)


 (おいっ、お前いきなり……!)


◇◇◇


「雰囲気でわかる。お前今もうヌルだな?」


 なんでわかるんだよフィーア……。


「私だってわかりましたけどね?」


「……私も」


 別に張り合うところじゃないぞツヴァイもフェムも……。



「で、いったい何がどうなったらあのアイドルと同棲することになるんだ?」


 オレが聞きてぇよ…。


「どうも上手いことやったみたいだぞ……」



「他に女の子はいないのですよね?」


「……」


「……ヌル、その沈黙はなに?」


 だってこいつ(俺)3人と同棲してやがるんだもん……。素直に言えるわけない……。



「言えよ?」


「言ってください?」


「……早く言って」



 蛇に睨まれた蛙、猫の前の鼠とはまさにこの状況だろう。

 こうなってはフィーアの異能力で姿を変えて家まで着いて来かねない……。

 その後にバレることになったら……その結末は火を見るより明らかだ。


「……あと2人います」


 ……結局ボコボコにされることになった。

 勝手に俺の体で同棲始めたの、オレじゃないのに……。



「ツヴァイ!こいつの住んでるマンション買えるか?」


 ……ん?


「分かりませんが、多分可能かと。お父様に聞いてみましょう」


「……なるべく早くね」


「ちょ、ちょっと待ってくれお前ら……何をしようとしている?」


「ヌルの監視のためにマンションを買おうと思っただけですが?」


「いやいやそんな、何普通のことみたいに言ってるんだ?」


 こいつらはみんなそこそこの出身だ。

 ツヴァイに関しては、俺では頭1つどころか2つでも3つでも足りないくらいの家の出身である。

 俺みたいな一般家庭とは金銭感覚が違うのはまあ、仕方ない。


 でも、それでもだ。

 虫かごを買うようにマンションを買おうとするのはどうかと思う。

 さしづめマンションなんてってか……。

 うわ、想像したらツヴァイなら言いかねないと思えてしまう所が恐ろしい。



「……せめて、隣の部屋だけにしてくれ」


 この時点では気が付かなかったが、この発言も相当におかしなことを言っている。


「お隣ですか……まあそれでもいいですが、邪魔が入るのは嫌なのでやっぱりその階を買い占めますか」


「まあ、それでもいいんじゃね?」


「……うん。悪くない」



 その日のうちに、俺の住む階の俺が住んでいる部屋と美夜が買った1部屋を除く全ての部屋がツヴァイによって買収されることになった。



「で、私にお忍びデートを手伝ってほしいんだっけ?」


 フィーアが話を戻す。


「……ああ、お前の異能力なら余裕だろう?」


「まあ、ね。でもただって訳にはいかないなあ〜?」


「オレじゃないのに……」


「じゃあ、ヌルはアイドルのMIYAに言い寄られても断れた?」


 それは……もちろん……。


「………………もちろん」


「……間があった」


「ありましたね」


「あったな」


 いやだってそれはそうだろう。


 別に特定の誰かと付き合っている訳では無いし、向こうから来てくれるなら拒む理由なんてないじゃないか。

 (さすがオレ、完全なクズ野郎だな)



「まあ、そういうことだから!手伝ってはあげる。でもちゃんとそれ相応の何かを考えておけよ?」


「……分かったよ」


「よし!」


 フィーアが笑顔になってくれたから……いいだろう。



「……でもフィーアだけずるい」


「そうですね、私達もここ数ヶ月ほど放って置かれた訳ですし」


 それは確かにその通りだ。

 やむを得ない事情があったとは言え、全く連絡をせずに数ヶ月、誰でも不安になるだろう。


「……よし、わかった。全員まとめてかかって来い!」


 いつの間にかノインがいたところには一枚の紙しかなくなっており、そこには「長くなりそうだから、先に帰るね。ごゆっくり!」と書かれていた。



 俺に優を奪われて若干腹が立っていたが、そんなことを忘れてしまえるほどの時間だった。


「……はぁはぁ、ヌルちょっと頑張りすぎ」


「ほんとにな……こっちは三人がかりだってのに」


「……ツヴァイ、飛んでる」


「どっちかって言うと、感極まっての方が強そうだけどな……」


 口元を手で隠したまま倒れているツヴァイを見ながらフィーアが言った。


(これ、見せられる方は……何というか……何とも言えない気分だな)


 ◇◇◇


「さて、そろそろ調査いくか?」


 俺としてはまだまだ……いや、さすがに彼女たちの体が心配になる。

 ツヴァイは言わずもがなだが、フィーアもフェムも肩で息をしている。


「……フィーア、時間」


「ん?……ってうわあぁぁっ!21時?え、ちょっと待て……私たちは良いけどこれツヴァイやばいんじゃ……」


「……21時?フェム、まじか?」


「……まじ」


 ………………!


「フィーア、フェム、ツヴァイに服を!早く!オレはその間に片付ける」


 俺の指示に無駄な動きなく、完璧な分担で二人はツヴァイに服を着せていった。

 さすがだてに長い付き合いじゃないな……って感心している場合じゃない!



(お前、これ帰ってあいつらに怒られんの俺なんだけど……)


(「そっちは知らん!けどこいつらも引っ越してくるからな……」)


(俺達、生きてられるのか?)


 俺のそんなぼやきを俺は聞かなかったことにした。


 ◇◇◇


 必死に事後処理をして、何とか見られてもバレなさそうな状態まで持ち直すことができた。


 その時、外から複数の足音が聞こえる。


「結芽様をお迎えに上がりました!」


 ザッという揃った靴音で数人の黒服が現れる。



「お三方、結芽様はどちらに?」


 フィーアとフェムに視線をやるも、フイっと顔を逸らされた。


「あ、あぁ。久々に遊び疲れて、中で寝ちゃってます」


「そうでしたか。確かに結芽様はずっと金木様にお会いしたがっていましたから、相当おはしゃぎになったのでしょう」


「そ、そうでしたか」


「……むしろはしゃいでたのはヌル」


「だな」


 黒服たちには聞こえないように呟きながら、これ見よがしに腰を伸ばしたり、肩を回したりしている。


「……すまない」


「……別に責めてない」


「ああ、久しぶりに楽しめたよ」


 それならいいのだが、さすがに今後は自重しよう。


(俺もそれがいいと思うぞ)


(「お前は黙ってろ」)


 ◇◇◇


「そういえば、結芽様がマンションを買われていたようですが何故か理由を知っておられますか?」


 滝と間違えるほどの冷汗が背中を流れる。


「あ、え、うーんとそうですね。気分?とか?」


(いや、お前それは無理があるだろ!)


「なるほど!そうでございましたか!いやはや、突然何事かと思いましたが確かにお嬢様なら気分で買われることもありそうですね!」


(って、通ってるぅぅぅ!)



 そうして俺達も一緒に、黒服たちの車でマンションまで送ってもらうことになった。 

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