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第10話 もう一人のオレ

「ふぅ……、満足満足。いいよ信じてあげる」


 汗やら何やらで濡れた優の姿が艶めかしく、さらに俺を昂らせる。


「……なあ、優」


「ダメだよ?これは罰なんだから。私先にシャワー行くね」


 ……。


(おい、おい!俺!)


 自分の内側から声がするような不思議な感じだ。


「お、やっと出てきたか」


(なにがやっとだ。お前と優がくっつき始める前から声をかけてただろ!)


「でも、優を納得させるまではどうしようもなかっただろ?」


(まあ、それはそうかもしれんが)


「って普通に話してるけどお前なんなんだよ!?」


(またそれか。言っただろお前は俺でオレはお前なんだって)


「それが分からないって言ってるんだけど?」


(ああ、分かった。ちゃんと説明してやる)


◇◇◇


(まず、俺たちは元々一つだった)


 まあ、俺の中にいるしな……。


(しかし、×××の異能力によって二つに分かれちまったんだ)


「ん?なんの異能力だって?」


(聞こえなかったのか?)


「いや、お前がおかしな風に言ったんだろ?」


(やっぱりなのか……)


「おい、一人で納得してないで説明を……」


(この異能力は|封印《インビジブル》。対象の記憶をまるで違和感なく封印してしまえる能力だ)


「……じゃあ、明日には一人に戻るのか?寝れば解けるんだろ異能力って」


(基本的には、な。だがこの異能力は寝たところで効果が消えることはない)


 つまりこいつは昨日今日できた存在じゃないのか?


「それじゃあ、お前はいつからいるんだ?」


(お前が一人暮らしを始める前からだな)


「そんな時から?」


(ああ、というかお前自分がどうして一人暮らしを始めたかわかるか?)


「え、そんなのわかるに決まって……あれ……思い出せない?」


 いや、正しくは自分の記憶が正しいと言い切ることができないという感覚か……。


(だろうな。正確には新しく現れた俺がお前なんだから)


「な、何を言ってるんだ?俺が新しい俺?記憶だってそれ以外はちゃんとあるぞ。今日だって優との思い出や先生のことだって覚えていた!」


(だから言っただろ。|封印《インビジブル》は違和感なく記憶を隠せるって)


「本当のことを言っているんだろうな?」


(これでお前をだまして何になるんだよ……はあ、オレの異能力は覚えてるか?)


「お前の能力は確か反射リフレクト……だったよな?」


(ああ、その名の通り、相手の異能力を撥ね返し無効化できる。そんな感じの能力だ。俺はその能力のおかげで封印の影響を完全に受けることは防げた。)


「それと俺ができたことに何の関係があるんだよ」


(お前、本当に俺だな。話は最後まで聞けって)


(……だがこの|封印《インビジブル》は世界中のすべての人間に作用したんだ。相手の目を見るとか関係なく、な)


(その規模と影響力の強さに俺の反射も耐えきれなかったのか、気が付いたら×××を知らない俺ができてたってわけだ)


「……待て、いや、分かった。俺の誕生については理解した。だがお前は前から異能力が使えたってことか?」


(ああ、そうだな。|深きを覗く者《ピークアビス》のことも……よく知っている)


「あいつらはなぜ、今日俺を狙ったんだ?どうして、俺があそこに来るって分かったんだ?」


(それは……だな……。俺は元々あいつらの仲間だったからだ。俺たちの行先が分かった理由はあいつらの中に|予知《フォレキャスト》っていう異能力を使う奴がいるからだな)


「なっ!お前が仲間!?つまり俺も仲間だって言うのか!?」


(……ああ。だが、先生の言うような悪事を働くような集まりじゃなかったんだ)


「じゃあ、いったいどうして?」


(それは分からない。オレも先生の|催眠《ヒュプノス》を受けるまで俺の意識に干渉できなかったからな)


「チッ!これからどうしたらいいんだ……というか俺は美夜や亜里沙を魅了チャームして今の状態を作ってしまったのか?」


(これからお前は異能力を使いこなせるように|魅了《チャーム》の練習をしろ。そしてあの2人いや、お前の周りにいる女子達についてだが……)


「だが……?」


(多分|魅了《チャーム》のせいではない……と思う。さっきの先生の豹変ぶりを見ただろ?あれを使われれば所かまわず発情した獣みたいになる。だから少なくとも最初から|魅了《チャーム》の影響下にあったとは言えない……はずだ)


「何とも歯切れの悪い言い方だな」


(いや、仕方ないだろ。お前の異能力なんだから。オレは俺でも今は《《同じようで違う》》んだよ!そもそもお前がこんな浮気野郎にさえならなければそんなことで悩む必要もなかったんだよ!)


「いや、それは違うだろ!俺はオレでもあるんだからお前でも同じ状況なら同じことになっていたはずだ!」


(いや、オレは……そんなこと……ないぞ!)


「おい、さっきより歯切れがわるいじゃねぇか!」


(……仕方ないここは)


「ああ……そうだな」


「(《《俺の浮気性は異能力のせいだ》》!」)


 俺たちはようやくお互いがおたがいであると納得することができた。


「いやあんた何裸で変なこと言ってんの?」


 ………………。


 最悪なシーンを見られてしまった。


「……美夜、……おかえり」


「ただいま。で?何この状態は?私は帰ってきていきなり、裸で訳の分からないことを言う男の姿を見せられているわけなんだけど?」


(オレは知らないから、じゃあ)


「おいっ!お前せこいぞ!」


「説明は?」


「あ、いや~えっと……」


「俺の浮気性は異能力のせい……とか聞こえたけど?」


 ついにおかしくなったの?と呆れた目で俺を見る美夜。


「あれ、美夜さん帰って来たんだおかえりなさい」


 そこにちょうどシャワー浴びた優が戻ってきた。


「なるほど、やっぱり犯人はあんただったのね女狐」


「犯人って……別に何もしてないですよ?」


「いや、どう見ても事後でしょ?これ!ねえあんたたち学校はどうしたの?」


 美夜がまともな事を言っている……。

 さっきまで現実離れした話ばかりだったから落ち着くなあ……。


 (こいつ現実逃避してやがる……まあこいつって……俺なんだが)


「今日はサボって龍とデートしてきました!」


 これは……。


「はぁ!?あんた学校とかサボるキャラじゃないじゃない!」


「はい!初めてサボっちゃいました!」


 満面の笑みだが、何故だろう。

 そこはかとなくマウントを取っているように感じられる。


「……私、見られちゃいけないから外でデートしたことないのに!」


 ギラりとした目で俺を振り返る美夜。

 俺以上に毎日が女難な人間って居ないよな……。


 (自業自得だけどな)


「私とも……、してくれるよね?龍也?」


「も、もちろんさ!」


 とは答えたものの、どうやっても美夜は目立ってしまう。

 何せ今をときめく大人気アイドルなのだから。

 一体どうしようか……。


 (ひとつ解決する方法があるぜ)


 ッ!本当かっ!?


 (ああ、話が付けば……だがな……)


 なんでもいい、聞かせてくれ!!

 藁にもすがる思いでオレの言うことに縋り着いた。


 (どうせそのうち接触する必要はあるだろうしな……)


 俺は美夜の機嫌を取ることばかりに意識が向いて、オレの意味深な発言を気にもとめなかった。

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