「……そうね、どこから話したらいいかしら」
少し試案する顔をした後、話し始める。
「まず、異能力。この力は存在すると気が付いた者にのみ扱うことができる」
だから龍也君も自分の能力を使えるはずよ。
そう言って続ける。
「次に
まだ私はお手伝いでしかないけど、教師を辞めてからここに拾われたの。
そう言って話を一択区切ると、
「端的に話すとこうよ。質問はあるかしら?」
と言ってきた。
……端的に話しすぎだし、ないはずがないだろう。
でも実際に目にしてしまった以上、バカげたことだと一蹴することはできない。
俺は思いつく限りの質問をした。
しかし、先生もレジスタンスという組織に加入したばかりらしくあまり詳しいことは知らないようだった。
そんな中で得られた有用そうな情報はこれだ。
・すこしの例外を除いて異能力は相手の目をはっきりと見ないと発動することはできない。
・異能力は使用者がもう一度目を見て
ほかにも、睡眠などで意識が覚醒状態でなくなれば解除することができる。
・今回狙われたのは俺の異能力でこの魅了の力を
・これからはレジスタンスが俺の周りを固めてくれるらしい。
これらの情報以外は要領を得ないものばかりだった。
「今日の先生は何かに操られていたと言っていましたが、それは
「そうね、私がレジスタンスの事務所に向かっていた時、
でも、どうして突然先生が操られて俺たちに接触させられたのだろうか。
本来学生なら、今日の昼間なんて学校にいるはずだ。なのになぜ公園に先生を向かわせることができたのだろう。
「どうして、俺たちが公園に来るって分かったんでしょうか?」
「それは……私にもわからないわ。ごめんなさいね、あまり役に立つような情報が無くて」
「いえ、異能力のことなど少しでも分かっただけで十分です!」
とりあえず、そのノインと言う人物には要注意だ。
ほかの詳しいことはもう一人のオレの方に聞いてみよう。
話が終わり、頭の中で情報が整理されていく。
そう言えば、目を見るだけで能力が発動するんだったか……。
なんとなく、先生の目を見つめてみた。
「ちょっと、龍也君、なにしてっ!?」
先生の目に俺の目が一瞬光って映った。
「……龍也君、隣に行ってもいいかしら?」
「え、あ、はい。別に構わないですが……」
これは……本当に異能力が発動している?
俺の横に来るなり、こちらにもたれかかってくる先生。
ちょっと待て、今後ろには……。
「ねえ?龍?なにをしているの?」
包丁を持ったままの優がものすごいオーラを発しながらそこに立っていた。
俺は急いで先生と目を合わせようと、先生の肩をつかむ。
「いったい目の前で何をしてくれようとしてるのかな?」
しかしその行動が最も大きな地雷だったようだ。
急に先生の肩をつかみ、顔を合わせようとした俺を見て優の怒りはとうとう限界を超えてしまった。
「いや、優。違うんだ。これは必要なことで……」
「ふうん。彼女の目の前で他の女とキスしようとするのが必要なことなんだ?」
「ちがう、違うんだ。話を聞いてくれ!」
「龍也君?キスしてくれるの?」
……最悪だ。
「先生はこう言ってるけど?」
「いや、ほんとに。待ってくれ。優、先生を押さえてくれないか?」
「……押さえたら、ちゃんと納得できる話をしてくれるんだよね?」
「ああ、わかった。話す、話すからとりあえず包丁を置いて先生を押さえておいてくれ」
すぐに包丁を置いた優は先生を羽交い絞めにする形で押さえた。
「はい、押さえたけど?」
「ありがとう。ちょっとそのままでいてくれ」
優が押さえてくれている間に先生の目をしっかりと見て、言われた通りの言葉を呟く。
「
俺がその言葉を呟くと先生は足から力が抜けたようにひざを折る。
優が羽交い絞めにしていなければ倒れていただろう。
「先生?急に力が抜けましたけどどうしたんですか!?」
「……優ちゃん、驚かせてしまってごめんなさいね。でもこれだけは言わせてほしい、悪いのは龍也君よ」
……確かに俺のせいだけど……だけど……。
「また、別の女の人を口説いたってこと?ねえ?ねえ?もうこれ以上はなしって言ったよね?約束したよね?ねえ?龍?どういうことかな?」
心の底から震え上がる。
これが……恐怖か。
「いや、口説いたとかそういうのじゃなくて……ちょっと出来心と言うか……いや違うぞ!そういう出来心じゃなくてだな」
「納得できる説明は?」
いつの間にかまた包丁を手に持った優が非常に冷酷な表情でそこにいた。
まるで死神の顕現……。
この状況では異能力について包み隠さず話さなければ、すべてが終わってしまいそうな気がする。
結局俺は優に異能力など、先ほど先生に聞いたばかりの話を含めて説明することになってしまった。
「異能力……ね。全然わからないけど先生も言ってるなら信じるしかないか」
仕方ないことだが優の中で俺の株が大暴落したことを如実に感じる。
「でも、さ?龍は自分の異能力が分かっているのに先生で試してみたってことだよね?」
あれ、風向きが……。
「そうね、龍也君は分かっていながら使ったということね」
「そうですよね?ねえ、龍?これについて納得のいく説明はできる?」
……終わった。
この後俺は全身に恐怖という恐怖を叩き込まれた。
あまりの恐ろしさに先生は途中で「私はこの辺りで失礼するわね~」と言ってそそくさと帰っていった。
まさか綿棒があれほどの凶器になるとは……。
もう二度と自分以外に耳かきをしてもらうことはできないかもしれない。
そして、俺は強く誓った。
普段やさしい人、とくに優は怒らせてはならないと。
「ねえ、龍?なんで先生で試したの?」
今、俺は優に膝枕をされている。
「いや、ちょうど目の前にいたからで深い意図はなくて……」
「ほんとに?私に飽きちゃったとかじゃない?」
「そんな!?違う、違うに決まってるだろ!本当にただ目の前にいたからだし、そもそも本当に異能力が使えるかもわからなかったから……」
「ほんとかなぁ?」
「ほんとだって、信じてくれよ!」
「うーん、じゃあさ……」
優の顔が近づいてくる。
そして耳元で止まるとこう言った。
「私にあなたを信じさせて?」
優に求められるままに応じ、信頼を取り戻せるよう尽くした。