「ふぅ。久しぶりだな、生の空気ってやつは」
「なっ!?私の
「何言ってんだよ、センセ。オレが龍也だぜ?」
「……人格が変わった!?お前は一体……。いや、今はもうどうでもいい。そこで寝ていろ!」
これまでで一番強い光が発される。
「はぁ……くだらねぇ。こんなのにも勝てないのか俺のガワは。……
そう口にすると同時に、先生らしきやつが膝から崩れ落ちる。
「……なんだと!異能力が
オレの力が催眠を跳ね返し、あいつが自分の催眠にかけられる様を確認する。
「これで終わりか……。雑魚相手だが……優、ごめんな。巻き込んじまって」
愛しい幼馴染の頬を撫でる。
懐かしい感傷が胸に広がった。
だがこの感傷に浸っている暇はない。
……さて、ここからは、お前の出番だぜ俺。
またも、体の感覚が変わっていく。
「何だったんだ、今のは……。いや、それより……優!」
「……んぅ。あれ?龍?どうしたのそんなに慌てて」
良かった……。
理解しきれない現状と優が無事だった安心感から思わず涙がこぼれた。
「えぇ!何泣いてるの!?どうしたの?美夜さんのせい?」
全く何も分かっていない優が大真面目な顔で心配してくれている。
すぐに涙をぬぐい何でもないと伝えた。
「って先生!?なんで倒れてるんですか!?」
どうやら先生の状態も、分かっていないようだ。
「優、待て!」
俺をベンチに座らせて先生の方に駆け寄ろうとする優を引き留める。
「どうして?先生、倒れてるんだよ!」
「優、お前だってさっきまで倒れてたんだぞ!」
「……何言ってるの?たしかにちょっとよろけちゃったけど倒れてなんか......」
そう言いながら自分の身体を見回して気がついたようだ。
「服のこんなところにまで汚れが、私ほんとに倒れたの?」
「ああ、その先生みたいな何かによって眠らされたらしい」
「先生みたいな何かって……先生は先生でしょ?それに先生がそんなことするわけないよ」
口ではそう言いながらも半信半疑な様子の優。
「というかそれじゃあ、なんで先生も倒れてるの?」
「それは……」
さっきのことを包み隠さず伝えるべきか、酷く悩む。
明らかに面倒事になるのは間違いない。
俺は当事者だから仕方ないにしても、こんな訳の分からないことに優まで関わらせたいとはとてもじゃないが思えなかった。
「優に何かした後、自分も憑き物が落ちるように倒れたんだ」
結局俺はさっきのことをはっきりと伝えることはしなかった。
優を巻き込みたくないというのももちろんだが、まず自分自身が状況を飲み込めていないのだ。
とりあえずさっきの、もう1人のオレとやらに話を聞かない限り、適当なことを言うのはやめようと思った。
「……そうなんだ」
俺の言うことに疑いを持っているような表情をしていたが、この場では納得してくれたようだった。
それから俺たちは2人で先生を抱き上げてベンチに寝かせて、起きるのを待つことにした。
「うぅ……」
しばらくすると小さな声を上げ、先生が起き上がった。
俺はさっきのこともあって、体が緊張し、自ずと拳を握る手が強くなる。
「あれ?私……ッ!龍也君、優ちゃん無事だった!?」
心配そうな先生を見て逆に俺は安心した。
さっきのおかしな気配は見る影も無くなっていた。
「先生……はい、とりあえずはなんともなさそうです」
「そう……それは良かった……巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
この反応を見るに先生は何かしら事情を知っていそうだ。
「それで、さっきのは一体なんだったんですか?」
「そうね、迷惑をかけてしまった以上何も言わないという訳には行かないわよね……」
無言で続きを促す。
優は全く付いてこれていない様子で目を白黒させている。
「
簡単な説明を聞いた限り、
いや、そんなことよりこの話を優に聞かせるべきじゃないと本能が……いやオレが言っている。
「先生、詳しい話は家で聞かせてください」
「ええ、……ええっ!?家でって龍也君の!?」
「え、ダメですかね?ほかの人がいないところの方が落ち着いて話せると思ったのですが……」
同意を求めて優の方を向くと、優の目は同意どころか今までに見たことがないほど険しいものになっていた。
……先生を家に招くのもダメなのだろうか。
「いや、でも……そうね。他の人には聞かれない方がいいのは間違いないですし、お邪魔させてもらおうかしら」
「はい、ちょっと遠いですが行きましょう」
優の険しい視線は気になったが、それ以上に自分やその周りで何が起きているかの方が気になった。
「遠い?二人とも確か家はこの辺りじゃなかったかしら?」
「あ~、えーっと、実は高校入学から一人暮らしを始めまして……」
「……全然一人で暮らしてませんけどね」
俺の発言に優が小声で棘を刺す。
「高校生で一人暮らしか~、大変そうだけど楽しそうね?」
「そうですね、まだ二か月目ですが最高ですよ」
「……だろうね。女の子3人と同棲してるもんね」
今度は流石に聞こえるんじゃないかと焦らせるほどの声量で優が棘を振るう。
「……龍也君。今優ちゃんが聞き捨てならないことを言っていたようだけど?」
……案の定聞こえていた。
「いや~、なんか流れで……そういうことに……」
……
…………
………………
「流れじゃそんなことにはならないでしょう!!」
はい、その通りです。
……しばしの沈黙の後、数年ぶりに再会した先生に怒られてしまった。
そこから家に向かう間、先生のお説教はずっと続いていた。
「大体ね!優ちゃんがいるのに……」
「先生……ここです」
結局説教が終わらないまま俺たちは家へと帰って来た。
「どうぞ先生上がってください」
「……お邪魔するわね」
先生に先に上がってもらい、一番最後に部屋に入って来た優に声をかける。
「今日はいろいろあったからデートはまたにしよう。近いうちに必ず」
「分かったよ。龍は先生から話を聞きたいんでしょ?時間もちょうどいいしお昼の準備してるから、話してきていいよ」
「ありがとう、助かる」
「いいよ。でも、近いうちに必ず、だよ?」
「ああ、もちろんだ」
先生に皆で朝食を取った大きなテーブルについてもらい早速話しを聞くことにした。
「それでは先生、改めて事情をお聞きしてもいいでしょうか?」
「ええ、もちろん。だけど一つ約束して欲しいの」
「なんでしょう?」
「この話を聞いたからって、あいつらに関わろうとは思わないで。静かに落ち着くまで待つのよ?いつか興味をなくして離れていくはずだから」
「……わかりました」
こう反応しておかなければ、話は聞けそうにない。
だが、優に手を出されて黙っていろというのは無理な話だ。
積極的にかかわろうとは思わない。
だが、相手がどんなものなのかを調べて、また何かがあったときにはすぐに対応できるようにしておきたい。
先生には申し訳ないが、ここを譲るつもりはなかった。