昼間は暑いほどの空気だったが、日が落ちて夕餉もすめば夏も次第に遠のいてゆく秋の風だった。
まだ肌寒さを感じる風ではなかったが、夏の去ったこと冬へ向けた心構えを求める、そういうしめやかな風であった。
夜、子供たちを寝付かせるときは解いていた柔らかな栗毛は今は改めて固く結われていた。
「服は乾いているかな」
「大丈夫。よく出来た子たちね。その、お嬢さんをバカにするようなことを言ってごめんなさい」
リザは言葉を探すように言った。
「機会があったら伝えておくよ」
マジンはそう言って肩をすくめた。
「覚悟はよろしいか」
「勝って出てゆくなら馬よりはそこの機関車を使うといい。昼間使い方は教えたとおりだ。点火だけ確かめればあとは難しいこともない。百リーグばかりは間違いなく走れる。道が良ければ二百五十近く走るはずだ。金貨と銀貨とで六万タレルほど積んである。好きにしろ」
リザはマジンの言葉に不思議そうな顔をした。
「随分と気前がいいのね。相当にバカなのかしら。あなた」
「女に結婚を申し込んだつもりがその女と決闘をする羽目になった男に尋ねる言葉がそれか。墓銘碑を用意する機会があったらそう刻んでおいてくれ」
大きな鼻くそが掘れたときのような顔をしてマジンが応えた。
「私の墓銘碑は、結婚の申し出を決闘で返した女、としてくれて構わないわ」
少なくとも憎しみを感じさせない声でリザは答えた。
なぜ決闘が必要なのかマジンには全くわからなかったが、もはやそれが必然ということは理解した。死ぬ気はないが、死なせずに決着がつけられるとも思えない。
「お互い背を向けてコインの落ちた音で振り向くというのでいいかしら。私のやった一番馬鹿な決闘方法はお互いに順番に銃を打って怪我をした方の負けというものだったけれど」
「コインでいいよ」
リザの軽口が怯えに収束せず、和解も導かないとあれば、言葉は不要だった。
緊張が高まっていた。コオロギの類がなく声が奇妙にゆっくり聞こえてくる。空気の振動を遅く感じているなら高低が変わるはずだが、そうではないのが人の脳の不思議だ。コオロギの位置までわかるようだった。
リザが銀貨をひとつかみ示した。
「これだけあればひとつふたつは音がするでしょう」
そういうと彼女はゆっくりと背を向けた。
「――良ければ背を向けて」
リザが背中越しに落ち着いた声をかける。
間合いは二十五歩ほど。その気になれば三歩。
マジンはゆっくりと背を向けた。
「いいよ」
「では尋常にお覚悟」
そういうとリザは手の中でコインを鳴らし宙に放った。
キラキラと宙に散らばる音が鎮まり、一種の楽器のような音がなった。
銃の間合いだったが、マジンは抜刀した。
そんなマジンをリザは泣くような顔で笑った。彼女はマジンの二歩目の跳躍が終わるまでに、左手の拳銃を一丁六発撃ち尽くしていた。
マジンはほとんど三分の一の間合いを消していたが、リザが咄嗟に放ったはずの銃弾は綺麗に散らばり、飛び込むことを許さなかった。胸に飛び込む四発を綺麗に切り飛ばすことは出来ず、刃が痛そうな音を立てて歪んでもどる。
「スゴい。本当なのね。まるで死神」
「これで終わりか」
リザが奇妙に声を駆けてきたのにマジンの足が止まった。間合いは一連の間に二十歩ほどに伸びていたが、その気になれば二歩で届く。
「これからが本番」
そういうと左手の拳銃を見せびらかすように投げ捨て右手に短刀を握った。刃の長さに似合わないつば広の短剣で星のような華奢な作りだった。或いはなにか儀式めいた因縁のある一品かもしれない。ぞわりと記憶が思い起こされた。
段平の相手にはいささか役不足に見える刃物だったが、左手に新たな拳銃が握られたとあれば十分な脅威だった。リザがどちらを利き手としているかはマジンは知らなかったが、荒野の掟に従えば手が二本あるなら両手それぞれ使えて当然でもあった。
マジンが身を沈めて一歩を跳ねたところでリザが奇妙な動きを見せて右に回った。
「驚け!」
当然にリザの動きを追ったマジンの目が炉釜のそれより遥かにまぶしい光に灼かれた。
六連発。
リザの位置は音で知れたが見失うことを恐れず敢えて駆け抜ける。
リザの居たはずの位置を切り裂いたが間合いが足りなかったか、光に幻惑されたか宙を割いた。
リザは呻きも挙げない。
リザの三丁目の拳銃が散発的に弾けるのを歩を左右に振って避ける間に、光に背を向けた左目が多少回復していた。
光が止んだ。
ともかくも振り返り飛び込んだマジンにリザの四丁目の拳銃が火を噴く。
刃に音の壁を破らせ一発二発としのいだところでリザの右手が銃を握りそのまま、二丁拳銃でマジンを襲う。
片目が光に灼かれたまま、音とリザの位置を勘で受けるのに、たまらず刃の腹を使うマジンは刃が割れてゆくのを聴く。手の中で目釘が緩み始めたのを感じる。ならば多少は刃は保つかと願ったが、リザが左手に六丁目の拳銃を掴みそれを凌ぎ切ったところで砕けた。
リザはそれを見て笑いもせず短剣を段平のように構えて突進してきた。
そこで初めてマジンは光の正体を理解した。
白熱した光は不吉なアーク光をたたえた光の刃。まさしく光の剣だった。
マジンは間合いの中に折れた刀を宙に放って間合いを離れた。
リザは邪魔とばかりに刃を切り払う。
既に砕けた刀を吸い付けるように融かす間だけ光の刃は縮まり、食い終わったと言わんばかりに刃は伸びた。
光の剣の特性は常の刀剣のソレとは明らかに異なっていた。だがリザは明らかに光の刃を人間相手に振るった経験が少なさそうだった。
その隙を突いてマジンは刃を追うように踏み込み、リザのみぞおちを殴りつける。
手加減はしたが油断のない一撃にリザの心臓は間違いなく一瞬止まりかけたはずだった。少なくとも筋肉の一部肋から胸骨の何処かが折れた感触がした。
鍛えた女の体がマジンの背より高く宙に浮いてから地に転がり大きな袋でも投げたかのような音がした。
光の剣はリザの手を離れ宙を舞うと光を失なう。
リザの両腕が武器を探すように蠢くのをマジンの両手が捕らえ、頭突きをくれるとリザを押し倒した。
マジンはリザを転がし踏みつけると、獲物の皮を剥ぐように上着を裂きベルトを切り靴をズボンを剥いでいった。
リザが抵抗する度にマジンは蹴りつけ殴りつけて、吐いたり身を丸めたりする間に服を剥いでいった。
拳銃を六丁という段で相応の覚悟と狂気を感じていたし、隠し武器の工夫は作法や礼儀のようなものだったから、容赦するわけにはいかなかった。ブーツからは小さなナイフと造りの怪しい暴発しかねない小型拳銃が出てきた。
武装解除をおこなっている途中で性欲をもよおしたのに我慢せず、これまで覚えがないほどに高まっていた風に晒しただけで漏らしてしまいそうだった一物を、マジンはリザの女陰をさがし胎内に慌てるようにうしろから付き入れた。
リザは殴られたような蹴られたような無様な声を上げてうめいた。
或いは単純な恐怖だったのかもしれない。
リザの胎内は当然に目覚めたばかりの口の中のように乾いていたが、少しずつこぼれていた精液を擦りこむように無理矢理でも動かしていれば少しずつ柔らかく潤ってきた。
マジンがそのまま組み敷くように揉みほぐしていると次第に女の体は本来の機能を思い出したように柔らかく震えだしていた。それはリザが女としての体の機能を体感しているということをマジンに伝えていた。
リザはマジンの射精の衝撃で暴力の昏倒から立ち直っていたが状況は飲み込めていないようで、或いは傷ついた体には強すぎる刺激から何度か蹲るように吐いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ゆるして」
リザはマジンが体の外から中から揺さぶる間、墓地の土に暴力に腫れた顔を冷やすように押し付け、誰かに向けてひたすら謝っていた。
女を組み敷いているという暴力の事実とその前後の経緯を思えば、女がなにに謝っているかを斟酌するよりはその涙も屈辱も男の快楽の肴にしかならなかった。
マジンの中の苛立ちと征服の衝動にひとしきりケリが付いたのはリザが石塊のようにネズミのように伏せ蹲るのを諦めてからだった。正確にはリザの体が恐怖と疲労と快感で緊張した一つの体勢を維持することができなくなったに過ぎないわけだったが、弛緩したリザの体勢を興奮したマジンが自らを受け入れたという勘違いが相手を見る余裕を与えた。
突き立てたままリザの体勢を入れ替え向かい合わせに抱きしめるとリザは反射的にマジンの体に絡みつくように抱きついた。
その体は傷口の熱を示すように冷えていた。あまりよい兆候ではなかった。
マジンの体温を求めるリザの体は無駄な力が抜け、マジンの体に蝋のように馴染み、これまでのどんな女の体よりも心地よかった。
暴力で女を従わせるという趣味の男の話は意味がわからないものだったが、なにを求めてのことなのかはわかるような気がした。絡みつく女をわざわざ引き剥がす気にもならないまま、生暖かい粘土の袋を胸に抱えたような気分のままで厩舎の洗い場に向かった。
館を挟んで反対側にある給湯器の湯は蓄えられている間に随分と冷めて冷たくないという程度の温度だったが、少し流しているとやがて熱い湯が出てきた。
汚れた傷に湯が染みるらしく身を捩ったが明らかに人心地ついたようだった。
彼女の胎内に文字通り根のように潜り込んだ男根を包んでいた肉が張りと締りを取り戻し始めた。
しばらく女の体の目覚めを愉しんでいたマジンが性欲に体を蠢かせると、リザの体もそれに合わせてゆるやかに応えるようになっていた。
ほんの今晩のうちには亀頭がヤスリでもかけられているかと思ったほどに硬かったリザの体は誂えた皮の手袋のような柔らかな張り付く締りを感じさせるものになっていた。
「不思議だ。とても気持ちいい」
ぼんやりと馬のためにゆるい傾斜のついた湯船に背を預けながら胸の上のリザにかけた大手ぬぐいに湯をすくってかける。
「そうね。気持ちいい」
ぼんやりとしたリザの声が応えたことにマジンは肩の上の彼女の顔を探した。
「――あなたの顔があるってことは生きているってことね。不思議。絶対心臓止まってたわ。多分幾度か」
寝起きのような痛みを我慢してのリザの声は張り付くようだったが、ろれつは回っていた。
「決闘の後に男を咥え込むことが、こんなに気持ちいいものだとは知らなかった。カマキリになる娘が増えるはずね」
リザの顔は痣や傷が多く痛々しいものだったし、目元や鼻にはまだ泥が筋を引いていたが、弱々しいながらも意識は回復したようだった。
「軍学校でも決闘は多いのか」
「月に幾度かはね。一学年で千人超えるから二度と顔を合わせたくないようなヤツもできちゃうわよ。……少し寒い。腰沈めて」
リザは食事のおかわりを要求するような口ぶりでマジンに姿勢を変えることを命じた。
マジンが言葉に応じてモソモソと沈み込むとそれに合わせてリザも腰を動かした。
緩みかけていたマジンが再びこわばりリザの良い所をえぐったらしく切なげに眉を歪める。
「これでいいか」
「いいよ。気持ちいい。……染みる」
リザはマジンの胸に肘をつき湯で腫れた顔を洗う。
「蟷螂ってのはなんだ。決闘好きの女学生のことか」
「ってより、決闘名目で男漁りする女ね。美人で見た目品が良さそうで、その実柄が悪い娘ッて感じだけど、男に直接体をかけて決闘を申し込んだりもするし、たちが悪いとそのあと殺して学校を逃げ出したり。まぁ色々」
リザはマジンの胸に肘をついたまま寛いだ様子で話をした。
「軍学生の決闘ってのは、いつもあんななのか」
「あんなってのがさっきみたいなののことを言っているならぜんぜん違うわよ。一応学校の中ですからね。お互い死んでもしょうがないって思っているかもだけど、絶対死ねっていうのはあんまりない。儀礼刀は突き立てたら根本が折れちゃうようなものだし、決闘拳銃は先込めの素焼きの弾一発だし、普通は死なないわ。せいぜい目か指がなくなるくらい」
どんなものかは分からないが、リザには確信がある口ぶりだった。
「幾度かやったような口ぶりだな」
「四勝するとアルフ、七勝するとロード、十勝するとセレブレイと呼ばれているわ。私は十二勝している」
懐かしむようにリザは言った。
「毎年二回見当か。よく死ななかったな」
「多い人は三十戦くらいやってる男子学生も結構いる。怪我して傷病狙いとか訳の分からない連中もいるし。もちろん死人も幾人か出るけど、成績不振で退学のほうが全然多かった。八年まで進むと三割くらい減ってる」
マジンは傷めつけたリザの体に今更ながら古傷を探す。その指先が痛かったかくすぐったかリザは身じろぎしてマジンに胸を寄せるようにして体を湯に沈める。
「――女生徒のセレブレイは戦天使の称号が別に与えられるのよ。もちろん非公式で教官がたにはあまり喜ばれないけど。ここまでいうとわかると思うけど、強い蟷螂と戦天使の違いは、戦天使は決闘で負けてはいけない。もう一つ婚約婚姻或いは男女交際の事実がないこと」
リザは犬のような姿勢でマジンの腹の上に伏せたまま、内蔵の位置を確かめるように呼吸をする。
「女学生には人気だろうな」
「男子学生にもね。男子は男子で決闘の相手に女が混ざると勘定に加えられないとか、挑む女生徒よりも格上であることとか、礼儀があるわけなんだけど、私は女同士でつるむことが自然多かったから目立ったみたいね」
ふうん。とマジンは気のない返事を返した。
「決闘に魔法は使わないのか」
「魔法は使っている側もよくわからないところがあるから、そういう風には使わない。どれだけどういうふうに働くかがわからないのが魔法だから。……って魔法だって分かったの」
今更のようにリザが驚いて言った。
「あれだけ派手なことをやられて魔法じゃないという話なら逆にそちらが驚きだ」
「……ああ、ええ、まぁそうね」
リザはモソモソと腰をこすりつけた。
「――よく覚えていないけど剣が切れるほどの威力だったのは初めてよ。個人戦技の訓練じゃ使わなかったし」
「あの武器は軍のものじゃないのか」
「そんなわけないわ。拳銃も自前。士官の服装は基本自弁よ。軍学校も五年次から准士官だから給与で揃えるの。そうは言っても威張れるほど稼げているわけじゃないから、非番の日に小遣い稼ぎをしているわね。私も謄写写真師とか代筆とかやっていたわ。贅沢しなければ足りていたけど、部屋付きの下級生の面倒を見る必要もあったから、それなりにはね」
リザはそういうと、自分の性欲に正直に体を蠢かせ始めた。
リザは自分の快感だけ追求し勝手に絶頂をし、その余韻に内臓が絞り上げる蠕動でマジンが弾けさせた射精でもう一度果てた。
絶頂の余韻でどこかを痛めたのか、痛そうに咳をしてそれでもリザはマジンの腰の上から降りようとはしなかった。
リザは腰の位置を改めて呼吸を整え萎え始めたマジンの陰茎に血をめぐらせる。流石に腰のだるさを感じ始めているマジンには休憩が欲しかった。
マジンに抱き寄せられたリザはとくに逆らわなかった。
マジンが口を開きかけたときにふたりの張り付いた腹から音が上がった。
「おなか空いたね」
リザが言った。
「チーズと干し肉くらいならある」
「準備いいのね」
「使用人のいるお屋敷だからな。ちょっと早いが朝食にしようか」
「立てない。つながったまま運んで」
リザが甘えた声で言った。
「ここで待っていろ」
「溺れちゃうよ。穴から栓が抜けたらきっと全部中身が抜ける。いまほんと、そんな感じ」
「朝まで居眠りするか」
「おなかは空いた」
リザはマジンに甘えて良いと定めたらしい。
マジンが腹に力を入れて体を起こすとリザは木に絡みつく蔦のように手足を絡みつけた。
マジンが色々なものの浮かぶ水槽の湯を抜くのをリザはなんとなく背中越しに眺めていた。
木綿の敷布をローブ代わりにして腰でつながり絡まったまま纏うと台所に向かった。
パンとハムとチーズにハチミツに油をかけて簡素で豪華な軽食を作る間、リザは本当に腰がつながって張り付いてしまったように絡みついていた。
その体はマジンの動きや食べ物の存在を歓喜するかのように幾度も達していたし、それに絞られてマジンも精を漏らしていたけれど、なんとか調理を終えて乱暴に椅子に腰を下ろした。
「もういいだろう。降りろ」
マジンは椅子に腰を下ろした衝撃でまたも達していたリザに声をかけた。
「食べ終わるまでくっついてる」
そう言ってリザはパンに色々載せて挟んだだけという大雑把なしかし野営では贅沢すぎて出来ない軽食をマジンの耳元で音を立てながら食べた。
どういう心情なのか、理解が必要なのか不要なのかマジンは悩みながら自分の分を食べる。相手の体の分腕が自由にならずハチミツや油がお互いの体に溢れる。ポロポロと食べかすまみれで幼い子供のような食べ方だった。
「食べ終わったら降りろ」
「寒いからイヤ。お風呂入りたい」
リザは締め付けるように絡む足に力を入れた。
水槽に少し湯と水を流してから湯を張って腰を下ろすとリザは固く結っていた髪留めを引き抜いた。
それを握ったまま腕を絡め直した。
「そんなにボクを殺したいのか」
「どうかしら。いまはそうでもない」
「結婚しないか。娘たちも喜ぶ。実は結婚の提案は娘たちの発案なんだ」
「そうだと思った。かわいいわね。四人とも」
リザは髪留めの切っ先でマジンの首筋を撫でる。
「それは魔法の武器かい」
「さあ。でも、私の倍も勝っている仲良しの蟷螂の娘が餞別にくれたわ。なんで取り上げなかったの」
不思議そうにリザが言った。
「綺麗な長い髪が汚れたままでは家族の墓から逃げ出すにもあまりに気の毒だからさ」
「土にまみれさせるのはいいのかしら」
「新しく湯を張ったからゆっくり髪を洗ってからボクを殺せばいい。それとも血の沐浴がお好みか」
「くっついていたい」
リザはそう言いながらマジンの耳たぶをかじる。
「嫁に来い」
「それはイヤ。あなた絶対他所に女作るタイプだもの。町に行くと必ず女買っているでしょう。有名だったわ」
「結婚したら止めるよ」
「そしたら今晩みたいなのを私が一人で相手するの?私の心臓が何回か止まったっていうのはきっと本当よ。酒場の女の人もあなたの相手をすると二日くらい天国さまよっているみたいだって言ってた。きっと恋人の素行調査をしているとでも思われたのね。自慢話みたいに教えられたわ。毎日だったら私すぐ天国の住人になっちゃうわよ」
「加減をすればいいのかい」
あやすようなリザにマジンは探るように言い募る。
「人並みに加減なんか出来ないでしょう。普通の男は二三回精が抜けたらしばらく血が足りなくなるものらしいわよ。だから野人とか家名を名乗っているんでしょうけど」
リザはマジンの首元に固いものを意識させながらマジンの口元を舐める。
「軍に戻る気になったんだね」
「もともと休暇で戻ってきただけよ」
「決闘で死人が出れば軍に復職というわけにもいくまいに」
「そのときはそのときよ。私も死ぬかも知れなかったんだし。あなたも殺すつもりで殴ったでしょ。結婚を申し込んだ若い女の腹をあれだけ容赦なく殴れるってどんなろくでなしよ」
「そのろくでなしの子種は旨いか」
「味は知らないけど、最高に気持ちいい」
そう言っただけでリザはブルリと達した。
萎えかけていたマジンの陽根がざわりとリザの子宮を目指し、リザの快感を助けた。
「子供はどうする。たぶんできているぞ」
「できてれば、産むわ。これだけやられたら逆にもう流れているかもしれないけど」
あっさりと残酷にリザは言った。
「一人で育てるのは大変だぞ」
「あんたが四人もできたことをどうして女のアタシが出来ないと思っているのよ」
リザはマジンの上で腰を起こし、自分の引き締まった体の若い健康的な乳房を見せつけるようにして言った。
「ボクだって女房がいなかったわけじゃない。よく出来た女だった」
「よく出来た人だったんでしょうね。二年か三年か、ともかくあの子達の乳離の間、あなたと一緒にいたんでしょ」
リザはマジンを誂うように言った。
「最初の一年は大変だぞ。一人でも四人でも五人でも苦労は同じだ」
「それでもたぶんあなたと一緒にいる一年よりは楽よ」
「……強情だな。顔の腫れや肋が治るくらいまではいるんだろう」
マジンはリザの胴回りの筋肉の筋をなで、肋の様子を確認する。
「春に戻ればいいことになっているから、しばらく置いてもらえると、出費がふせげて助かるわ。軍に戻っても宿舎の宛もないし」
「体で払ってもらおう」
「いいわよ。いくらでも楽しませてあげる」
リザの腰と胎がグルリとうねった。
「軍に戻るとして子供はどうする」
「産むのも育てるのも蟷螂の子たちと同じように養育院に助けてもらうわ」
絞り伸ばし吸い出すような動きにマジンが呻く。
「墓参りは来るんだろう」
「もちろんよ。休暇の度に来るわ」
リザがニヤリと笑った。
「ボクが結婚していてもやきもち妬くなよ」
「奥様にはぜひ愛人として紹介していただきたいわね」
リザがマジンを観察するように蠢く。
「子供を引き取りたいって言ったらどうする」
「息子だったら、あなたの娘を嫁にすること。娘だったら、あなたの愛人にすること、を条件にするくらいかしら」
流石にマジンが嫌そうな顔をする頬にリザが口づけをする。
「近親婚は問題ないのか」
「軍はあまりそういうことに関心がないの。むしろ兵士は家畜と同じような感覚で掛けあわせたいみたいなくらいね。この辺も聞けば多いと思うわ。辺境は人が少ないし、ウチもたぶんそう」
「それなら、別にボクが他所に女作っても気にしないでいいだろう。結婚しよう」
「それはイヤ。絶対やきもち妬くわ。それなら、って意味がわからないけどヤキモチ灼いてる自分を想像するのもイヤよ」
「それなら娘を愛人にとか言わなければいいだろう」
「そういう畜生並みの外道ならあなたを恨めばすむことでしょ」
言いながら勝手に腰を動かし勝手に快楽の絶頂を貪っているリザを抱きしめる。それだけでリザが新たな絶頂に達したことが伝わる。
「かわいいな。お前。愛しているよ」
「……腹立つ。でも、たぶん私も好き。結婚して一緒にいたらずうっとつながっていたい」
「ずっとって、便所はどうするつもりだ」
「我慢する」
「無理だろ」
「……じゃあ垂れ流し」
「ボクはお前に突っ込んだままとか無理だろ」
「私の中で漏らしてもいいよ。どうせおしっこも精液も出てくるところ同じなんだし、きっと気持ちいい」
リザはとろりとした顔で言った。
「結婚するのはやめよう」
「お試しで二週間。痣が消えるまで置いて。それで良ければ肋が治るまで」
そう言ってリザはマジンの肩に顎をかけ伏せた。
ビュルビュルとリザの子宮に精液を注ぎこむ腰の震えとそれを絞り吸い上げるようなリザの内臓の震えをマジンは心地よく感じていた。
「そろそろ夜も明ける。体を洗わないか」
水面に浮いてきた二人の体液の汚穢を排水溝に押しやりながらマジンは新たな湯を足す。
リザは意識を失って眠っていた。
リザの膣と子宮は呼吸の度にマジンの陰茎を吸い上げあやしていたが、子供が指をしゃぶるような自然なものだった。
リザの腰を起こして持ち上げるようにすると、流石に疲労で痛みを感じていた陰茎が張りも縮みも出来ずにだらしなくズルリと抜けた。
しばらくすると胎盤か何かの膜のようなものがリザの股間から生き物のように出てきた。二人の体液が固まった白っぽい薄紅色の蜘蛛の糸のようなソレはマジンが引っ張り流せるような粘度を持っていて水の流れに果てしなく紡がれているようだった。
マジンがリザの腹に見つけた奇妙に痙攣するしこりを揉むと、ゴボリとひときわの澱のようなものがリザの股間からこぼれ、やがて糸のような流れは止まった。
「もう終わりなの。日が沈むまでつながっていたかった」
リザが夢見るような声で言った。
そのあと寝ぼけているままのリザの体をマジンは洗ってやった。リザの体はあちこち傷や痣だらけで痛みもあるはずだったが、疲れきった彼女は痛みを訴えることもせずに半ば眠りながら、マジンの手に体を委ねた。
日が昇る前に投げ捨てられた武器やら服やらを集めてきたアルジェンは流石に呆れた顔でマジンに朝の挨拶をした。
結局、リザは二日ばかり足腰も立たず、客間で療養することになった。
町の医師ミステルの見立てはマジンのそれと同じようで肋骨が何本か割れているもののとくに大きな怪我はなく、ひとつきもすれば痛みも消えるだろうということだった。むしろ慎むべきは荒淫で若く盛り上がりすぎることはままあるが、女の体は丈夫といっても限度がある、半月は慎むように、と釘を差され化膿止めと湿布を渡された。
リザの持ち込んだ拳銃が六丁あった話やら焼け砕かれた段平の話やらでしばらく館は盛り上がった。
娘たちはアルジェンとアウルムでさえ相談相手としての大人の女性としてのリザを歓迎した。リザがまだ十六歳であることを思えば、それは些か荷が重い役回りであったけれども、ともかく姿の上からも今この場で娘たちからは一際の年長者であり、殴り合いの喧嘩で怪我までして結婚の申し出を断った、とても強くて勇敢でカッコいい女性として四人の娘たちから無冠の栄光を刻まれた。