目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
ヴィンゼ 共和国協定千四百三十二年

 ヴィンゼでのゲリエ家は付き合いの悪い変わり者という評判だった。

 拳銃使いの若造は自分は殆ど出てこないで、獣人の子供に自分の娘を世話させたまま往復四日もかかる町まで使いにやって用をさせる。

 アルジェンとアウルムは育ちの早い獣人らしくすっかり娘らしく、ソラとユエも意味の通じる生意気な会話ができるようになってかわいい盛りになっていたが、そのこともヒトの少ない田舎では眉をひそめる原因だった。


 尤も商店主や役場或いは付き合いのある農場ではあまり気にしていなかった。

 ゲリエ家は家長からしてまだ年若く、そういう家で子供が働くのは当然だったし、そもそも辺境の農民というのは立って歩ければ子供であろうと仕事があることは当たり前だった。


 娘は四人とも気立てよく揉め事を望んで起こす質ではなかったし、用事が済めば雑貨屋で飴とお菓子を買ってさっさと帰ってしまう常連の中でも面倒の少ない方の上客だった。

 それ以上にゲリエ家が遠くに発注する郵便や荷駄が間接的に落とす人足の払いは地味ながら確実な稼ぎにつながっていたし、駅馬車の増発や銀行裁判所の窓口の再開目処にもつながっていた。

 なによりここしばらくゲリエ家目当てでやってくる客がおり彼らには、町から更に馬を急かしても片道丸一昼夜、馬車でなら途中で絶対野営が必要になる、と伝えると気分が萎えはて宿に沈没することになり、尻の皮が落ち着いた頃にゲリエの森に狩りにゆこう、と誘えば喜んで案内料を落とす物見遊山の客がほとんどだった。


 マジンが買った土地は町に迫っているところでは半日ほどで達することができるから、ローゼンヘン館とは全然方角が異なっていても嘘ではなかった。

 去年は幾度となく爆発騒ぎを起こしているローゼンヘン館が今どうなっているのかは興味が尽きないところだったが、娘たちが下げている拳銃を目ざとく見つけたマイルズ保安官が言伝るとマジンが入れ替わりに訪れて、銃の直しを引き受けた辺りで流れ者の小僧は銃職人らしいというところで落ち着いた。


 銃職人なら爆発も仕方ない。と納得できるところもあった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?