フェーズ・フェリング大佐はメイビス・クライオン大尉の戦死の報告とローゼンヘン館の失陥の報告を静かに受け取った。
二十年来の部下にして同志戦友の死は残念ではあるものの、共和国軍に反旗を翻した時点でいずれ覚悟はしていた。
「いかがしましょう。生き残った者ふたりの調べた感触では襲撃は極めて少数。馬車一両と思われるところから二人から五六人の賞金稼ぎだろうということでした」
イーガン・ハンソン少佐の言葉を聞いてフェリング大佐は新聞を押し出すように示した。
「ひとりの仕業らしい。十四歳だそうだ。ゲリエ・マキシ・マジン。驚くことにあの辺り一帯を買うつもりらしいよ」
「どうしますか」
「どうとは」
「この……少年についてどうしますか」
「彼があの屋敷に住みたいということについてなら、それはどうもしない。確かに建物自体は立派で補給の都合が付けば聯隊規模程も収容生活可能という永久拠点としてはなかなかに魅力的な物件だったが、往来が悪すぎてそれ以上の意味は無いし、立地も要衝からは遥かに離れた辺境だ。だからこそ訓練拠点としては悪くなかったが、年の頭に既に地元ともめていたからね。いずれ引き払う必要があった。死んだ者たちには気の毒だったが、時と相手が悪かったとしかいえないな」
フェリング大佐はそう言った。
「彼に、何かの折に連絡をつけてみますか」
「そうしてみたいところだが、今はとくにいいだろう。どうやってあの館の大扉を短時間に押し破ったのかの手際は聞いてみたいところだが、いまのところはこちらから申し出られる条件が思いつかない」
「見慣れない細工の拳銃を使っていました」
「すごい拳銃の腕だというのは聞いている。新聞を読んで見給え。謄写版だが、その絵のとおりならかなり大きくうすべたいつくりの拳銃と腰に二本のサーベルだ」
「話によると撃たれた者の反対側はかなり派手に抉られていたとか」
「長銃身の小銃だとそうなるな」
「どこかで作られた新型銃かもしれません」
ハンソン少佐の想像の意味するところに大佐は押しとどめるように片手を上げた。
「とりあえず、腕の良い賞金稼ぎの所在がわかったということでこの件は留めておこう。今回は敵だったが、いずれ何かの形で役に立ってもらうこともある」
大佐の言葉にハンソン少佐はうなずき、次の件について話を始めた。