帝都で一つの宣託があった。
近々帝国を揺るがす禍津星が北天より至り落ちる。
心せよ。
そういう宣託だった。
それがどれほどの意味があるのかないのか、多くのものが測りかねていた。
だが、北天つまり公転面直交方向から飛来する彗星には異常なものが多いというのは統計的な事実だったから、北方の帝国貴族はそれなりに北天の天文観測には気を使っていたし、そのために北斗十五天朝などという言い回しもあるくらいには北極星に関する言葉もたくさんあった。
そういう風にいくらか大仰ながら、近年の天文観測と北狄征伐はいささか熱心すぎるほどにおこなわれていた。
それが例えば、巨大な火山の爆発のようなものを引き起こすのか、或いは疫病のようなものなのか想像もできなかったが、なにもしないわけにもゆかなかった。
それが封建貴族というものだったし、それが人類文明の安寧を支える帝国貴族の誇りでもあったからだ。