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第38話 来日

「留学……」

「アメリカからのパイロット、ですって?」


 聡と瑞希はそれぞれ反応を示した。

 発言は違っていても、一言で纏めればそれは『驚き』と言って良いだろう。


「留学といっても、そう長い期間いることはないと思うのだけれどね」


 雫の追加発言は曖昧なものだった。

 だから、瑞希はそれを追求することになり、


「なんでそんな曖昧なの? ……もしかして、昨日雫も聞いたばっかりだとか?」

「うぐっ。痛いところを突くわね……。ええ、そうよ、その通り。わたしも正直何処まで情報を得ているか——というとそこまで。ぶっちゃけ留学の目的さえも把握していないし」

「……それで良く留学を了承したわね?」

「いや、上が言うんだもの……」

「それはこっちに言うべきではないでしょう……」


 ごもっともな発言である。


「留学をすること自体、はっきり言って例外中の例外と言って差し支えないだろう。そもそも、如何してここに集まらなくてはいけないのか? と思うぐらいだ。もし彼女が居ない間に、アメリカに『扉』が出現したら——どう責任を取るつもりなのだろうか?」

「そんなこと、わたし達に言ってもね」


 冷たく瑞希はあしらうと、


「ま、いずれにしても楽しみではあるけれど。その——パイロットがやって来るってことは。実践形式のシミュレーションも当然やるだろうし、こっちではあんまり考えられないことも、きっと教えてくれるでしょう。そう考えると、今からとても楽しみね。ね、アンタもそう思うでしょう?」

「……まあ、」


 否定はしなかった。

 いずれにしても、聡も瑞希もこれ以上パワーアップするためにも、訓練を重ねなくてはいけないのも事実である。

 さりとて、オーディールを使って訓練する訳にもいかない——そのためには、シミュレータが用意されている必要がある。

 或いは、イメージトレーニングをするしかないか——。


「……とにかく、来週からやって来るから。よろしくね」


 そう言って、雫は逃げるように会議室から出て行くのであった。



◇◇◇



「流石にアレは如何なんですか?」


 会議室を出て、通路を歩く雫に松山が声を掛けた。


「何が?」

「何が——って。分かっていないんですか? それはそれでどうかと思いますけれど」

「いや、だから……何が間違っているの、っていうことを教えてくれれば、それだけで充分なのだけれど」

「だから、あそこまで説明不足なのは如何なのかな、と言いたいんですが」

「ああ、そう言うこと」


 雫はあっけらかんと言うと、


「そうならそうとはっきり言ってくれれば良かったのに。……確かに、わたしだってあれで本当に良かったのかは疑問だったけれど。でも知っている情報はあれしかなかったし、早く伝えなくちゃいけなかった。——そう考えると、あれは最適の選択肢。そうじゃないかしら?」

「そうなのかもしれませんが……。もう少し情報が確定してから言っても遅くはなかったんじゃ?」

「——全員にとっての正解って、そう簡単には見つからないわよね」

「は?」


 ポカンと口を開ける松山に、雫はさらに続ける。


「……そんなに気にすることじゃないわよ。あくまで、哲学の話だから」


 そう言って、雫は歩き続けるのだった。



 ◇◇◇



 そして、一週間の月日が流れた。

 東京国際空港——又の名を羽田空港。

 羽田空港は、主に国内線が発着する第一・第二ターミナルと国際線が発着する第三ターミナルが存在する。多くの路線が発着し常に人でごった返している前者とは違って、後者は何処か静けさを感じさせる程だ。

 少女は税関を抜けると、大きく伸びをした。


「やっと到着した……。それにしても、流石に十時間以上もエコノミークラスに乗るのは辛いわね……」

「わたしも言ったのですが……。どうも予算が降りなかったようで」


 後ろに立っている長身の女性は言った。


「マリアが謝ることじゃないわ。悪いのは機関の老人どもだから。大した働きもしていないのに、金ばかり毟り取っていくんだからね。実働の人間に還元するのが、上の人間の仕事なんじゃないかしらね」

「発言は程々に……。何処で誰が聞いているか分かりませんから」


 マリアは少女の言葉を諌めると、さらに話を続ける。


「さて……。目的地はこれからもう少し先です。休憩をしましょうか? コーヒーを飲めばリラックス効果が期待出来ますよ」

「……言いたいことは分かるけれど、それでイライラが落ち着く程簡単な性格をしている訳でもないのだし」

「まあまあ。とにかく、行きましょう。いずれにしても未だ時間はありますから」

「最初からあなたが行きたいと言えば良かったのよ?」


 少女は苦言を呈しながらも、マリアの言うことを聞いてコーヒーショップへと向かうのだった。



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