イキマ島での事件から数日後。
聡と瑞希は雫の命令を受けて、グノーシスの会議室に集められていた。
「……今は平和だってのに、一体全体何が起きたのかしらねえ」
瑞希の言葉に、聡は頷く。
確かに、ここ数日は『扉』の出現は認められていない。扉が出てこない以上、平和そのものであることには何ら変わりのないことだからだ。仕方ないと言えば仕方ないことだが、こうなってしまってはグノーシスの業務も皆無であり、パイロットの二人も日常を取り戻しつつあるのだった。
とはいえ、
「いくら日常と言えど、パイロットと気づかれてしまうと面倒なのは……。まあ、致し方ないことよねえ」
瑞希の言う通り、いくら彼らに日常が帰ってきたと言っても、それが完全に戻ってきたと言うことではなかった。
オーディールのパイロットは国家機密の最重要事項である。そのため、自由であることはもはやゼロに等しく、多少離れた距離ではあるが常にシークレットサービスが付き纏う形でパイロットを警備していた。
「……きみたちのことを守るためだ。こればっかりは理解して欲しい。納得はしてくれないだろうけれど」
「そりゃあ、そうでしょうね」
瑞希から釘を打たれ、何も言えなくなる雫。
雫はそんな状況を打開しようと、手を幾度か叩くと、さらに話を続けた。
「とにかく! そんな辛気臭い話はナシ! 今日はあなたたちに良い報告があるの」
「襲撃者が全く出なくなった、とか?」
「そうしたらこの組織は解体せざるを得ないんだけれど……。っていうか、それだったら暗いニュースにならない?」
「いや、こちらとしては別に……」
「くうっ、現代っ子はドライね。全く」
「話を続けていただけませんか」
言ったのはずっと無言を貫いていた小松だった。我関せず、と言う感じに居るかと思いきや、方向性がおかしなところに行かないように逐次状況を見ている様子だった。そういう意味では、無言を貫くのは正解かもしれない。
「……オーディールのパイロットはこの国だけじゃない。別の国にも住んでいることは知っているわね?」
「アメリカに居るんだったかしら」
直ぐに瑞希が答えた。
「流石ね、瑞希。そう言う話はすっかり忘れているものとばかり思っていたけれど」
「馬鹿にしないでもらえる? こっちだって一応、ある程度の情報収集ぐらいはしているつもり。とはいえ、機密情報も含まれるからか、そう簡単に話してくれないケースも多いけれど」
「そりゃあそうでしょう。全世界において、恐らくオーディールを持っていないすべての国家が、垂涎するものでしょうから。どんな些細な情報でさえ、盗まれる危険を孕んでいる。ひいては、最終的にそれを流用して自国の兵器にすることだって——」
「とは言え、それには未だブラックボックスと言える存在が非常に多いですから。そう簡単にオーディールの技術が盗まれることはないと思いますけれどね」
言ったのは小松だ。
「確かに、結局スタンダロンは失敗に終わっていたからな……。まだまだこの世界の人類がロボットを作ることは、出来やしないのかもしれない」
「? まるでその言い分だと、他の世界も存在している——つまりマルチバースを肯定することになると思いますけれど。そう言うことなんですか?」
小松が食いついてきたので、面倒臭そうな表情を浮かべて雫は首を横に振る。
「別にそんなことではないよ……。ただ、戦争でもしそれが導入されれば、死者は大幅に減少するだろうな、と思っただけだ」
「どうでしょうね? 補給兵なり必要な兵士は居るでしょう。彼らが居る基地をオーディールもとい巨大ロボットがレーザーでも撃ってしまったなら、その基地は壊滅してしまうでしょうから。いくら巨大ロボットが開発出来たとしても、それをメンテナンスするのは人間で間違いありませんし」
「そりゃあそうだが……」
「あの、いつになったらそのアメリカに居るというパイロットの話になるのかしら?」
雫と小松が真剣にロボットを導入した戦争の話をしているので、瑞希は痺れを切らして、敢えてあからさまに怒っている雰囲気を醸し出しつつ、そう言った。
雫は目を丸くしたのち、大きな咳払いを一つして、
「……す、済まなかった。こちらとしては大きなニュースがあるのに、脇道に入ったら戻ってこれなくなってしまって……。申し訳ない、とにかくニュースの続きを話すこととしよう」
会議室にあるプロジェクターを通して、何かを映し出した。
そこに映し出されていたのは、一枚の写真だった。
茶髪の少女だった。頬にはそばかすがあり、幼い雰囲気を醸し出している。目はまるでフランス人形のような綺麗な青であった。
「……彼女は?」
「エーデルワイス=ハンスバーガー。アメリカに襲来したオーディール、そのパイロットでありこれまでに数体の襲撃者を撃退してきた。パイロットの中では優秀な成績を収めている、と言っても過言ではないでしょう。そんな彼女が、今度ここにやってきます。目的は——まあ、留学みたいなものかしらね」