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第33話 作動試験(中編)

「スタンダロンは今何処に?」


 コントロールルームの中心に立っている司令官と思しき人間が、問いかける。


「今は指定位置に向けて全速力で進んでいます。じきにマギから発信があるものと——」

『こちら、マギ。指定位置に到着いたしました。いつでも訓練を開始出来ます』


 マギは、司令官たちの会話に割り込むようにそう言った。

 まるでこちらの動向を監視しているかのような、そんな感覚に陥らせてしまう程だった。


「マギ。早かったわね。調子は如何?」

『早かった、でしょうか。こちらの計算では、予測よりも七秒遅かったと判明しています。ですが、それは問題ないと考えます』

「マギ。あなたはちょっと時刻を正確に考え過ぎよl。それは悪いこととは言わないけれど」


 一息。


「……さて、それじゃあこれから試験を始めるわよ。良いかしら?」


 その発言は、コントロールルームの片隅で傍観している雫に向けて言っている様子に見てとれた。


「別にこちらに確認を取らなくても良いのでは?」

「まあまあ、良いじゃないですか。……一応、プライドというものもあるようですから」


 伊吹の発言を聞いて、雫は黙り込む。

 というか伊吹もそちら側の人間であるはずだろうに、何故だか雫に味方をしているのも、良く分からなかった。


「……まあ、取り敢えず良いよ。進めて下さい。こっちはただそれを見ることしか権利がないのだから」


 諦め切った様子で、雫は言った。


「……それでは、作動試験を開始する!」


 司令官の言葉は、コントロールルームの空気を一変させるには、あまりにも十分過ぎる発言だった。



◇◇◇



 スタンダロンは動き始める。

 海上にスタンバイしていた何機ものドローンが飛行を開始したのを察知したからだ。

 当然、ドローンが何処を飛行しているかなどは、スタンダロン、ひいてはマギには情報提供されるはずもない。それをしていては試験の意味がないからだ。


「状況は如何?」


 司令官が問いかけると、近くでモニターを見つめていた女性は言う。


「はい。今は、敵を追いかけて攻撃をしている段階になります。既に二十機のうち七機を撃墜しています。残りの十三機についても警告音声を再生ののち攻撃に移っています」

「ならば宜しい。引き続きモニタリングして」

「はっ」


 短く首肯し、さらにモニタリングを続ける。

 スタンダロンは、なおも破壊行動を継続する。

 破壊して、破壊して、破壊する。

 目的があるから実行するのであって、それに自由など感じられるはずもない。

 武器はレーザーに、ナイフ型の鋭利な剣。銃器だけで良いのだろうに、刀剣を出してくるあたりはこの国の矜持を感じる。


「……まさか、これ程までの技術を持っているとは。凄すぎる。もう実用化が出来るのでは——」

「いや、」


 雫の言葉を切ったのは、コンタクターだ。

 コンタクターはずっと何かを見つめている様子だった。コントロールルームの中が徐々に歓喜に包まれていたとしても、一人だけ何処か遠くを見つめているような、そんな感覚すらあった。


「……何故?」

「我々は技術を与える。けれど、それはあくまでも切欠に過ぎない。例えば、火をおこすとしても火種を与えるだけでは火は燃えやしない。炎を絶やさないためには枝葉を投入し続けなくてはならないでしょう? それと同じ理屈で——」


 コンタクターの言葉、その直後だった。

 けたたましいサイレンがコントロールルームに鳴り響いた。


「何が起きた!」

「スタンダロン、暴走を開始しました! マギ、応答せよ。マギ!」

「……だから、言ったでしょう?」


 コンタクターの言葉に、雫は目を丸くする。


「あなた、こうなることを分かっていたの?」

「いいえ。分かっているとは言えませんね。そうであったならば、わたくしはツマラナイと思うに違いありませんから。永遠にも似た世界の監視にひとつまみの幸福を味わいたい——我々円卓は、そんな独りよがりな考えのもとに成り立っているのですから」

「スタンダロン、行動を停止しません!」

「緊急停止信号は!」

「駄目です。受け付けません!」


 コントロールルームに怒号が飛び交うようになる。

 さっきまでの穏やかなムードは何処へ消えてしまったのやら——そう思ってしまう程だ。


「如何するつもりだ?」

「どうと言われましても。人間はこれを打破する力を持っているはずです。そうでなくては、人間は今まで生きて来れませんでしたから。そして、そういう力を見ることこそが、円卓としては一番の楽しみであるとも言えるのでしょう」

「……あなた個人としては、どうなっても良い、とでも言いたそうな感じね」

「そういうものですよ。何を勘違いしているのか知りませんが——わたくしは人間ではない、もっと上の高次元の存在なのですから。あなたも、それぐらいは理解してくれていると思っていたのですが」


 コンタクターは深く溜息を吐いて、再びコントロールルームへ視線を戻す。


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