「スタンダロンに含まれている技術ですが、例えば遠隔監視システムがあります。これによりこのコントロールルームにてスタンダロンの監視を行うことが出来ます。超高精度のGPSが備わっていますから、位置の精度も問題ありません。因みに、今はスタンダロンをこの島近海から出してはいけませんので、この島を中心とした半径十キロを超えてしまうと自動停止するプログラムを組んでいます」
「成程。機密情報が流出しないようにするため、か」
「ご明察。そもそも、ここに配属されてしまった場合はプライベートの連絡でさえも厳しく検閲されてしまいます。当然ながらそれに同意した上での配属となりますから、文句は言えませんけれど。それ以外は全くもって普通の日常を送れますから」
当然、SNSも支えなさそうだな。
「そりゃあそうですね。カメラ付き携帯電話でさえも使用は制限されます。我々が持っている通信手段は……これですね」
そう言ってポケットから取り出したのは、手のひら大の小さなプレートだった。
「それは?」
「スマートフォン……のようなものですね。最初はスマートウォッチ型デバイスの導入が予定されていたそうですが、取りやめになりました。当たり前ですが、いつ何処でこれが流出するか分かりませんから、如何しても慎重にならざるを得ないのです」
「それで通信を?」
「まあ、そんなところですね」
「続けて」
コンタクターの話を聞いて、伊吹は頷く。
「スタンダロン自体には高性能の人工知能が搭載されています。我々はこの人工知能をマギと呼んでいます。マギは開発と研究を重ね、最終的にはスタンダロンが量産体制に入った時に搭載されるのです。あくまでも、これは実験段階での搭載という形になります」
「実験段階で実機に搭載して大丈夫なの? って思うけれど……」
雫は単純な疑問を伊吹にぶつけてみる。
伊吹は涼しい顔をして、
「一応被害は少なくすみますので」
「被害が起きる前提……!?」
それはそれでどうなんだ、と雫は思ったが、これ以上は口に出さないようにした。
あくまでも彼女は部外者である——それはあまり変わらないのだから。
「マギもそうだけれど、人工知能は使っていけば使っていく程『教育』されていくからね。どんな人工知能だってそうでしょう? 最初はプリインストールされた知識しか使わないけれど、人間との対話を繰り広げていくうちに知識が増えていって、最初のうちは出来なかったことも出来るようになる、って」
「聞いたことはあるけれど……。それ、仮に運用を開始したら不安じゃない? 自分で何もしない、人間の作業のサポートとして対話するだけの人工知能ならともかく、人工知能が自ら行動するってことでしょう? 例えばそれで人間を敵視するような思考に陥るなんてことは——」
「一応、インターロックが組まれているので問題ないと思います。要はある種の緊急システムですね。そのプログラムが作動すれば、マギがどんな行動をしていたとしても緊急停止をします。それにより、それ以上の単独行動を控えることも出来るという訳です」
「それはこちらから?」
「ええ。遠隔監視システムを介して行いますから、このコントロールルームからの指示になりますね。そんなに難しくもなく、ボタンを一つ長押しするだけです」
「……そう。それなら別に良いのだけれど。一応、セキュリティは心配だからね。これからもし実用化されていったら、オーディールと併用するか、或いは既存の多数の兵器の代替品として世界で使っていくことになるんでしょう?」
「まあ、最終的にはそうなると思います。現在の兵器が全くと言って良いほど意味をなさなくなってしまいますから。戦争におけるゲームチェンジャーになり得ると言っても良いと思います。かつてはこれらについては欧米諸国が殆どでした。そして、他の国はそれに従うだけで、兵器についてもノウハウや製造方法も分からなければ、買うしかありません。価格なんて交渉の余地もありませんから、結果として防衛費が高くなり、国民負担率も増加の一途を辿っていましたから」
「それが、これによって大きく変わる、と? そんなに変わるようには見えないがね。それとも他国に売り捌いて少しでも開発費を回収する狙いでも?」
「一応、それを狙っているそうですよ。あんまり開発を長引かせると開発費が莫大なものに膨れ上がってしまうので、何処かで初号機として販売や運用を開始したいとは上が言ってきていますけれど」
それを聞いて良いのか、正直雫には分からなかったが、まあ、同じ国の人間ならばそこまでの機密情報の説明は問題ないのだろう——と雫は自己解決してさらに話を続けた。
「大きい革新的な技術としてはこの二点だけでして。あとは既存の技術をアップデートしたものばかりなんですよ。まあ、何でもかんでも一から作るのは大変ですからね」
「成程……。どうも、ありがとう。タメになったよ」
「そう言ってもらえて何よりです。……ちょうどこれからスタンダロンの作動試験を行いますから、是非見て下さいね。一応言っておきますけれど、撮影は禁止ですので、そこはご了承下さい」
「それぐらい分かっているよ……。破ったら、何をさせられるか分かったものじゃないし」
個人の意思としては撮影したくて仕方ないが、そんなことで人生を棒に振りたくはない。
雫はそう思って、伊吹の忠告に幾度か大きく頷くのだった。