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第22話 再起動

 とはいえ、だ。

 簡単にアイディアが出てくるような程、容易に想像ができるものでもなかった。扉を開けてこちらにやってこようとする襲撃者を撃退すること——それがオーディールとそのパイロットの使命である。


「………………、」


 しかしながら。

 これと言ってアイディアが出てくるわけではない——寧ろ時間をかければかける程、そのアイディアは陳腐なものと化していくのだ。


「何もアイディアが出てこないというのもまた、酷いものね」


 少女は客観的に見て、そう評価した。


「言われなくても……!」


 分かっていた。

 分かっていたが故に——いざそう言われると苦痛があるというものだ。


「……まあ、悩む時間も考える時間もたくさんある。無限ではないけれどね。あなたも知っている通り、コックピットの中にあるこの空間は、時間の流れが非常にゆっくり……。そう、考える時間はいくらでもある」

「そんなこと——」


 分かっていた。

 分かりきっていた。


「分かっているのなら、少しは考えたらどう? 今、オーディールは二機とも停止に陥っている。……ということは、現実世界が如何なっているかどうかなんて——火を見るよりも明らかなのではなくて?」



◇◇◇



 二機のオーディールは完全に行動停止に陥っていた。

 対抗手段を失った人類はなすすべもなかった。

 そして、襲撃者がゆっくりとその身体を——扉の外へ出そうとしている。

 少しずつ。

 少しずつ。



◇◇◇



「う、うう……」


 聡が目を覚ますと、そこは夜の公園だった。


「何故、ここに……。ああ、そうだ、ぼくは」


 思い出す。

 何故こうなってしまったのか、ということを。

 如何してこうなってしまったのか、ということを——。


「如何してこうなった、って言われなくても分かっているんじゃないの?」


 声がした。

 少女だった——少女は、ベンチに腰掛け夜空を眺めている。

 夜空は、星ひとつない暗黒だった。

 公園にある電灯だけが、唯一の灯りとなっている。


「如何したって」

「だから、感電したの。今、オーディールは行動を停止している。とはいえ、全く動かなくなった……ってわけでもないのだけれど」

「……如何すればいいんだ?」

「そんなこと、自分で考えなさいよ。このオーディールのパイロットは誰だと思っているの? あんた、よ……他でもない、ただ一人の存在。それを分かっているのかどうかは分からないけれど。少しばかり理解しておいた方が良いと思うけれど?」

「……つまり」

「少しは、自分で前を見てから行動すべきだと——そう言いたいわけだ。分かるかな?」


 自明だった。

 或いは、当然だった。


「……動けるんだな?」

「うん?」


 聞いたことは間違いないはずだ。

 さっき、少女は聡に言ったはずだ——全く動かなくなったわけではない、と。


「……そりゃあ、言ったけれど?」

「でも、それを動かすことができる理由や原因を——一切言わなかった。きっと、そこに何かがあるはずだ。アイディアを捻り出さないといけないのかもしれないけれど……」


 聡は言った。

 少女は一回だけ強く頷いた。


「言いたいことは分かるけれど、それが……それが出来るというの? 今の、今のあなたに」

「やるさ」


 聡は、短く、しかし強くはっきりと回答する。


「やってやるしかないんだよ、今は」

「……言ったね」


 少女は笑みを浮かべる。

 まるで、聡がそれを言うのを最初から分かっていたかのように。


「言ったからには、頑張ってよね」


 空が、明るくなっていく。

 それは夜明けであり——同時に、オーディールの目覚めでもあった。



◇◇◇



 咆哮である。

 人々は、それを聞いて何を思い描いたか——最初の感情というのは人それぞれであろう。恐怖を思い描く者もいれば、歓喜を思い描く者も居るはずだ。さりとて、いずれにせよ停止してしまった唯一の味方たり得る存在の復活は、少なからず人々へ希望をもたらした。

 人々は思ったことだろう。

 それは、果たして幸運だったのか——それとも不運だったのか。

 それは最早後世の存在にしか分からないことであった。



◇◇◇



「……目覚めた?」


 聡の言葉を聞いて、少女は二度頷いた。

 すっかり明るくなった公園をぐるりと見渡して、


「……ええ、はっきりと目覚めたよ。オーディールが、きみの願いと望みに応えるために、ね」


 少女は落ち着いた様子でそう言った。

 まるでこうなることを、ずっと昔から予見していたかのように。


「ぼくは、これから如何すれば?」

「それを考えるのが、あなたの役割であり、あなたの使命でしょう?」


 さも分かっているかのように、少女は言った。

 くすくすと、嘲笑うような仕草を追加して。


「そりゃあ、そうかもしれないけれど……」


 聡は、前を向く。

 目の前にある砂場——実際には現実空間を砂場に展開した模擬空間であるが——には、巨大な手が浮かんでいる。

 重力さえも無視してしまうこの空間ならではの表現と言えよう。

 聡は考える。如何にして、これを対策すれば良いか。


「感電してしまうというのなら、感電しない対策をすれば良い……。人間だったらゴム手袋を付けるだとか対策が出来るけれど、こんな巨大なロボット用のゴム手袋なんてある訳もないし——いや、待てよ」


 オーディールに使うための感電防止対策は見当たらない——聡はそう考えていた。

 しかし、それはあくまでも現在存在していないだけであって、オーディールの仕組みを今更になって思い返していた。

 そして。

 聡は——一つのアイディアを思い浮かべる。


「これだ……!」


 刹那、オーディールの上空に何かが生み出された。



◇◇◇



 それは忽然とした様子であった。

 多くの人間は、何時それが出現したかなんて見えていなかったはずだし、仮にその視点に一秒間に何百フレームも撮影出来るようなスーパースローカメラなどを設置していたとしても、それを垣間見ることは出来るはずがない。

 文字通り、一瞬の出現。

 この世界の物理法則を完全に無視した、その現象。

 空から降ってきたのは——巨大な盾だった。

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