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第16話 戦闘終了

「精神的な……融合」


 言われたって、理解出来ない——聡はそう思っていた。

 しかしながら、現実問題として、痛覚を感じている以上はそれを現実と受け入れるほかないだろう。


「それ、わたしも聞いたことないんだけれど?」


 瑞希の問いに、ベータは首を傾げる。


「そうだったっけ?」


 くるくると一周回って、さらに話を続ける。

 まるでバレリーナのような、そんな感じだった。


「まあ、良いんじゃない? 言い忘れたとしても、どうせ何れは分かること……。オーディールに乗り続ける以上は、デメリットも理解してくれないとね」

「デメリット……。そりゃあ、それぐらいは理解しているつもりだったけれども。……って、今はそんなことをしている場合じゃない!」


 瑞希は我に返り、黒板を見る。


「今は、この状況をどうにかするしか——」


 瑞希は聡を見た。

 聡は、さっき攻撃を受けた頭をずっと押さえ込んでいた。倒れ込んでいる、という程ではなかったにしても、未だに痛みを感じている様子であることは変わりない。


「……使えない」


 ぽつり、瑞希は呟く。

 そして、彼女は行動を開始する。

 黒板に置かれているチョークを用いて、瑞希のオーディールにイラストを追加する。

 それは、鋭い針のようなものだった。



◇◇◇



 オーディールは巨大な針を虚空から生み出した。針というよりかは爪楊枝のような感じだ。生み出せる武器は、適格者の考える物の範囲内に過ぎず、まち針や縫い針というものよりかは爪楊枝を瑞希が想像したのだろう。

 巨大な針を構え、襲撃者と対峙する。

 襲撃者も違和感に気付き、瑞希のオーディールの方に顔を向け、じっと見つめている。

 聡のオーディールは、既に倒れ込んでいる。傷を負っていると言っても、オーディールそのものは、原型を留めている。人間でいうところのかすり傷だとか、そういったものに近いのだろう。


「行けええええええっ!」


 オーディールは針を思いきり襲撃者の顔にある球体に突き刺した。

 深く、深く。

 突き刺した球体は、水晶のような強度に近く、最初はなかなか入り込まなかった。しかしながら、針の強度の方が強いのか、徐々に徐々にその針は中心へと入り込んでいく。

 声にならない声を、襲撃者が叫び——身体を捩らせ、そして、痛みから逃げようとする。

 しかし、それでも瑞希のオーディールはさらに攻撃を加え続ける。

 それは、圧倒的な殺意。

 それは、圧倒的な敵意。

 それは——圧倒的な力。


「……そのまま、朽ち果てろぉ!」


 そして。

 球体は、そのまま弾けて消えた。



◇◇◇



「……まさかパワーで押し通すとは思わなかった。まあ、今思うと最初のもそうだったっけね? あんまり覚えていなくて申し訳ないのだけれど、さ」


 再び、精神空間。

 瑞希の選択を振り返り、ベータはうんうんと頷きながらそう言った。

 瑞希は汗をかいていた。先程の精神の融合——それから照らし合わせるとすれば、オーディールの動きそのものは適格者の動きと同一であると考えられ、即ち体力を消耗するのは当然と言えよう。


「……時間がないんだもの。テクニカルなアイディアが出てくるとでも?」

「まあ、そう言うのも致し方ないのかな。アイディアはそう簡単に出てくるのかしら? 人間って、確かこの世界では一番知能が高い生命体なのでしょう?」

「それは、人間が勝手にそう思い込んでいるだけで、実際にはそうではないのかもしれないけれど。……まあ、それをああだこうだ言うつもりはないわ」


 黒板から、襲撃者のアイコンが消えていく。


「……どうやら、あの球体がコアだったのかな? だとしたら、もう少し防御力を高めた方が良いような気がするけれど」

「それは、きっと彼らも勉強すると思うよ。頭が悪いって訳でもないのだし。一応、この世界における人間と変わらないぐらい——或いは同じぐらいの知能は持っていると考えて良いでしょう」

「……何か知っているの? 襲撃者について」


 瑞希の問いに、ベータは答えなかった。

 知らなかったのか、敢えて答えなかったのかは——瑞希には分からなかった。



◇◇◇



「……オーディールは襲撃者を倒したようね」


 雫は、パソコンのモニターに映し出されたカメラの映像を見て、そう言った。


「あのオーディールが動かなくなった時は、流石にヒヤヒヤしましたが」


 松山は呟くと、スマートフォンを取り出す。


「既に関係各所には連絡をしております。襲撃者の死体は、決して第三者には回収されてはなりませんから」

「……有難う。また、彼女が嬉しくなるでしょうね。未確認生命体の研究が捗るのでしょうから。とはいえ、その結果がこちらにフィードバックされるかどうかは怪しいのだけれど」

「適格者達は?」

「一先ず、本部に帰還するよう伝えて。萩も近くに居るはずでしょう? 彼女から伝えた方が良いのかもしれないわね。それと、救護班も」

「?」


 松山が首を傾げるのを見て、雫は深い溜息を吐く。


「倒れてしまったオーディールの適格者が、怪我をしている可能性を考慮しないのかしら? 全く、そういった可能性を考慮出来ない以上は、まだまだ勉強不足ってところがあると思うのだけれど」

「……申し訳ありません」

「まあ、別に良いのよ。一つ一つ、学んでいきましょう。——未だ、先は長いでしょうから」


 そして、雫と松山の会話は終了した。

 こうして、瑞希と聡の二人は——何とか襲撃者を撃退出来たのだった。


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