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第14話 ユニゾン

 現状を整理するわ。

 襲撃者は平塚駅上空に突如として出現した。

 前回と異なるのは、扉が開かれて僅かな時間でその姿を現出させたこと。

 即ち、前回と比べてその大きさはあまりにも小さい——そう考えられるわ。

 大きさは、十五メートルほど。オーディールに比べれば、その大きさは変わらないかもしれないけれど、動物と比べるとあまりにも大きい。そして、その襲撃者は破壊の限りを尽くしている——そう報告が上がっている。

 現在、平塚から北上し厚木市方面へ歩を進めているとの報告が上がっている。つまり、影響範囲は拡大する一方である、ということ。

 本来であれば、未来を知るサイファが情報提供してくれたのだろうけれど、何故か彼女はそれを言わなかった。知っていたのか知らなかったのかは、何度聞いても素知らぬ顔だったとも。

 とにかく、面倒臭いことになっているのは事実。

 今回は死者も多数出ているだろうとの報告が上がっているからね。

 ともかく——これ以上の被害を出してはならない。

 グノーシスの初陣だ。最悪の結果は避けて、最良の結果を望む!



◇◇◇



「……って言うけれどさあ」


 ヘリコプターの中で、瑞希はぽつりと呟いた。


「何か不満でもありますか」


 言ったのは萩だ。

 流石にトップが前線に出るのは宜しくないと考えたのか——今回は萩がその付き添いとして参加している。


「不満というか……大雑把というか。もうちょっと良いアイディアはなかったの? って思うのだけれど」

「そう言われましても……。仕方ないのではありませんか。対策を練る時間があったのならばともかく突然ですから。けれども、こういった戦というのは突然やってきて当たり前ですから、頭がそこまで回らなかったのかと言われると、突っ込まれるポイントがあったのは否定しませんけれど」

「あら、辛辣ね。思ったより」

「上司のことをオープンに批判出来ない部署の方が、如何かと思いますけれど?」


 瑞希の皮肉を堂々と言い返す辺り、それが彼女の信念めいたものなのかもしれない。


「まあ、それもそうかもしれないが……」


 聡の言葉を聞いて、瑞希はにやりと笑みを浮かべる。


「何、アンタ雫の肩持つ訳?」

「そんなつもりはないよ。そりゃあ、無茶苦茶なことを言っているかもしれないけれどさ。それはそれ、これはこれ。そんな百パーセント完璧に物事を進められる人間なんて、誰一人居ないんだからさ。それぐらいは仕方ないし、目を瞑っても良いんじゃないか、って話だよ」

「……大人ぶりたいってこと?」

「別にそこまでは言っていないだろ」

「はい、そこまで」


 瑞希と聡が喧嘩になりそうな、そんな絶妙なタイミングで萩が言った。

 声を聞いて、二人は言葉を止める。

 深い溜息を吐いて、萩は外を指さした。


「見えましたよ。今回倒すべき——襲撃者が」



◇◇◇



 聡が今回の襲撃者を目の当たりにした第一印象ファーストインプレッションは、醜悪だった。

 人間の体つきに似ているが、服などは一切身につけていない。ゴツゴツとした棘が所々に見受けられ、肌もまるで火傷を負った跡のように色が違うところもあった。

 肌の色は人間のそれとは違い、グレーだ。しかし色が所々濃いグレーになっている箇所もあり、パンダのような様相を示している。

 それだけならば可愛い物だが、問題は顔だ。

 顔は、真ん中に水晶のような透明の球体がぽつんと置かれているばかりで、後は何もない。

 目や鼻や耳、口でさえも存在し得なかった。

 しかし視覚的な情報は何かしら入手出来るのか、周囲を見渡す素振りを時折しているようにも見受けられる。


「不気味……だ」


 聡はぽつりとその言葉を呟いた。


「わたしも同感。何というか、人間のようで人間ではないような……」

「言いたいことは分かります。が……、ここでああだこうだと言っている場合ではありません」


 二人の付けている指輪がキラリと光る。

 それを合図に、上空に二体のロボット——オーディールが出現した。



◇◇◇



 聡が目を覚ますと、そこは教室だった。

 前回の戦闘では砂場だったはずなのに、如何して今回は違うフィールドなのだろうか?


「どうやら、上手く行ったみたいね?」


 教室の一番後ろの席に、瑞希が座っていた。


「如何して……?」

「聞かなかったの? オーディールは、近傍に二人の適格者が居れば、二人が同じ領域フィールドでオーディールをそれぞれ操作出来る——って話。そしてそれの領域は、適格者が指定出来る……ともね」

「そんなことが」


 有り得るのか——と言おうとしたが、良く考えれば現に起きてしまっているので、それ以上の言葉は出なかった。


「有り得るのよ。現に、起きているじゃない。……ま、わたしも実際にやってみるまで実感が湧かなかったけれど、こうもあっさり行くのね」

「……つまり、ここで指揮を? オーディールをそれぞれ、って……」


 瑞希は立ち上がり、教壇へ向かう。

 その後ろにある黒板には、既に何者かが今回の状況が図示されていた。


「アンタ、一回はオーディールを操作したのなら分かるでしょう? 『この空間』に来たことが、一度でもあるというのなら、体感的に操作方法は身についているはず。違う?」

「それは……」


 言わんとしたいことは分かる。

 しかし、一度操作しただけでは完璧に理解出来ていない——それもまた事実だ。


「まあ、良いわ」


 諦めたような口調で、瑞希は言った。


「ともかく問題はそこじゃない。オーディールをどう扱ってどう襲撃者を撃退するか……それに尽きるのだから」



◇◇◇



 とは言ったものの。

 そんなスムーズに作戦が出来上がるかと言われると、ノーと言わざるを得ない。

 あれだけ威勢が良かった瑞希も、いざアイディアをと言われると困ってしまったようだった。


「……何か良いアイディアはないの?」

「流石に無茶振りが過ぎるだろ……。相手がどんな攻撃をしてきて、どんな防御を取ってくるかさえも分からないんだ。翼はなくてもジャンプ力が高いかもしれないし」

「そりゃあ……そうかもしれないけれど」


 これでは、協力ユニゾンもなかなか難しい話だ。

 聡はそう思いながら、深い深い溜息を一つ吐いた。

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