荷物を受け取って駅に這入る。エスカレーターを何度か登っていく。ここから何度か電車を乗り継いでいく。家に着く頃には夕方だろうか。
(……何してるんだろうな、本当に)
自己嫌悪だ。
今、この駅で電車を待っている自分にさえも呆れてしまう。
今年は帰省しないと決めたのに母に言われて帰省した。
自分の意志があまりにも弱い。今も昔も流されてきた。流されやすいとわかっているのに、それに抗おうともしない。
そんな自分を変えないといけないって何度も思った。
でも、たぶん、今回のことがあっても変わらない。
アラディア魔法学校にいるのだって母親の言いなりだ。
毎日勉強しているのも学校の言いなりだ。
ダンウィッチに協力したのだってそうだ。
流されてここまできた。
(……人は変わらないんだよ。あんまり)
だけど。
人なんてそんなもんだと思う。誰だってそういうものだと思う。
最初から最後まで同じ人なんていない。
(人はあまり変わらないものだけど、移ろいでいくものなんだから)
最近、そんなふうに思うようになった。
少しだけ自分自身を許してあげられるようになった。
「よいっしょっと……」
駅構内にある椅子に座って、ひと息吐いた。
まだ人が集まってきていない。電車が出発するまであと三十分くらい時間がある。
「…………え?」
声が聞こえた。
名前を呼ばれた、気がした。
顔を上げて、周囲を伺うが誰もいない。
「ダン、ウィッチ……?」
いるはずが、ない。
がたん――と、すぐ横にあったキャリーバッグが倒れた。
「…………」
見計らったようなタイミング。
鳩原はキャリーバッグを開ける。
中には教科書や着替えなどが詰まっている。学生寮を出発したときと中は同じだった。
いるわけがない。
いくらあの少女が小柄でも荷物いっぱいのキャリーバッグに入っているわけがないし、そもそも空港の検査で引っかかる。
そんなわけないとわかっていたのに、落胆する。
視線を落としていたキャリーバックから、目の前に泡が浮かんできた。
「――――」
その極彩色の玉虫色を知っている。
その泡は、緩やかに回転しながら、少しずつ膨らんでいき、やがて小さな女の子をひとりくらいなら包み込めるくらいの大きさになった。
ぱちん――と泡は弾けた。
そこにはひとりの少女がいた。
その少女は悪魔の角みたいな真っ黒な帽子を被っていた。
サイズの合っていない丈の長い真っ黒なコートを着ていた。
「えへへ」
照れくさそうに少女は笑った。
「こんにちは、鳩原さん。お久しぶりです」
また会えたら話したいと思っていたことがあった。
それ以外にも、いったい今までどこに行っていたんだ、とか。
いつから鞄の中にいたのか、とか。
言いたいことも聞きたいこともたくさんあった。
だけど、それより先に言うべきことがあった。
思わず出そうになった言葉をぐっと呑み込んで、言う。
「こんにちは、ダンウィッチ」
また会えて嬉しいよ。
『Dunwich the Witch's Night』is the END