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後日談(1)




「……帰りたくないんだけどなあ」

 鳩原はとはらが空港に到着したのはお昼前だった。

 帰りたくないも何も、彼は既にアラディア魔法学校を離れ、生まれ故郷の空港にいる。

 手元にある紙に書かれた番号と、流れてくる荷物に貼られている番号を見比べながら自分の荷物を待っている。

 年末年始。

 生徒の多くが帰省する。鳩原は帰省しないつもりだった。

 いちいち飛行機で帰らなければならないのが億劫おっくうで仕方ない。飛行機に乗ると体調が悪くなるのだ。

 閉所へいしょが苦手というわけでもないけど、ひょっとしたら天気で頭が痛くなるのと関係しているのかもしれない。

 なので、今年は帰らないつもりだったのだが、実家から連絡があった。

 母親からだった。

 くどくどと説教のようなものが一時間続いて、最初は何を言いたいのかわからなかったが、どうやら『年末年始くらいは帰って来なさい』とのことだった。

 母親には従わなければならない。

 うんざりするような気持ちで、飛行機の席を確保して、クリスマスより少し前に出発した。

 飛行機内では案の定、気分が優れず、十五時間を超える移動は苦しかった。

 機内でのことを思うと、空港に到着してから、体調が回復してかなり調子がいい。

 とはいえ、これから実家に帰らなければならないというのが気分を沈ませる。久しぶりの日本の空気を懐かしく思う……と思っていたが、別にそんなことはなかった。

 しばらくしていると自分の鞄が流れてきた。

 赤色の少し派手なキャリーバッグだ。別に学校には二週間後には戻るのだからこんな大袈裟な荷物じゃなくてもいいとは思ったが、実家に帰っているあいだ、ひたすらぼうっとしているわけにはいかない。

 課題も出ているし、それに予習と復習をしておかなければ、年始からの授業についていくのに四苦八苦することになる。

 空港から駅までシャトルバスが出ているので、そちらに乗り込んだ。バスの中に荷物を入れてもらって、少しの手荷物だけを持って座席に座る。しばらくすると出発した。

 窓際の席だったので都市の景色が見える。

 別に懐かしくも何ともない。

 見たことがある景色だな、くらいにしか思わなかった。

 アラディア魔法学校のある場所なんて、かなり地方のほうだから、こうしてみると、日々科学技術は目まぐるしく発展を遂げているのだと思う。

(ダンウィッチの世界はどんな景色をしていたんだろう……)

 あの少女のことを思い出すと、少し懐かしい気持ちになる。





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