7.
ダンウィッチは気づいたときには、そこにいた。
『鍵』が呼応して、『門』が開いたとき――確かにダンウィッチという存在は消滅した。
それはダンウィッチ自身も憶えている。
なのに、気がついたら、そこにいた。
意識を失っていたとは違う。今、生まれたとさえ感じる瞬間だった。
『遺物管理区域』跡の中腹の辺りの
そこから這って出て、起き上がった。
場所はクレーターの中間部分の位置だった。
「…………ああ」
溜息か吐息か。それくらいの息が口から漏れた。
彼女の愛用していた悪魔の角みたいな真っ黒な帽子は見当たらず、丈の長い真っ黒なローブは着ているがずたずたになっている。全身が薄汚れて、見えている皮膚からも流血している。
そんなことが気にならないくらいに――目の前の光景に絶望した。
『遺物管理区域』だったと思われる建物の瓦礫と、毎日通った図書館の一部だと思われる残骸が周辺にはあった。
空を見上げると、まるで自分の世界に戻ってきたのかと思った。
上手くは言えないけど、ダンウィッチはこの学校にある建物を美しいと思っていた。それに自分の世界とは比べられないような平和な光景がここにはあった。
なのに、炎が燃え盛り、黒煙に
そんな自分の世界と同じ光景が広がっていた。
ぐっと熱が上がってきた。
冷静さを奪ってしまうこの感覚は――怒りだ。
この光景は――自分のせいだ。
ダンウィッチは理解していた。
(私の――せいだ)
怒りの矛先を探すも、自分の顔しか浮かんで来なかった。
呆然とした気持ちの中で、気になったのは鳩原那覇とオリオン・サイダーのことだった。巻き込んでしまったあのふたりは、この瓦礫のどこかに埋まっているのだろうか。
まさにそんなとき、すぐ目の前を落下していく自分と同一の姿を見た。
そこら辺の瓦礫やら鉄骨やらに全身を打ちつけて、ぐちゃぐちゃになりながら、それは底に向かって落ちていくのを見た。
思わず身を乗り出して、落ちていった影を追う。
その先に見えたのは――『円』で、その前に立つ人の姿も見えた。
――そして。
ダンウィッチ・ダンバースと魔女は
鳩原に迫りつつあった魔女の手を掴んだ。
すべてを泡に『変換』する手に――触れた。
ダンウィッチと魔女は
故に――その影響はお互いに起きない。
「
この異変に、その魔女はまるで驚いたような反応を見せた。
その意外そうな表情を浮かべている魔女の顔面に、ダンウィッチは掌底を叩き込んだ。
ぐるん! と首が一回転する。
それと同時に魔女は蹴りを放っていた。
その蹴りはダンウィッチの腹部に直撃する。
仰け反ったときに、丁度真後ろにいた鳩原にぶつかった。鳩原はその衝撃で掴んでいた『鍵』を手放した。『円』の周辺は少し傾斜になっていたので鳩原は転がり落ちて、『円』の三メートルの範囲の外に出た。
ダンウィッチは、魔女の手をがっちりと握って、その場に踏み止まっていた。その手を掴んだまま、魔女を一気に自分のほうに引き寄せる。
ぱちゅんっ! と、瑞々《みずみず》しい音と共に魔女の首は
捻じれていた魔女の首は、今の衝撃で捩じ切れた。
転がり落ちた鳩原が身体を起こして、ダンウィッチと魔女の姿を見たときは丁度そのタイミングだった。魔女の首から噴水のように血みたいなものが噴き出していた。
しかし、首がなくなったくらいでは魔女の動きは止まらない。
ぎぎぎぎぎぎぎぎ……と、骨と骨を擦り合わせているような鈍い物音を立てながら、首を失くして立っている魔女の胴体が動いた。
ぐわんっっ! と、魔女の身体が開いた。
食虫植物のように縦に開いて、ダンウィッチに食らいついた。
手を握り返されていたダンウィッチは避けられず、その口のように開いた魔女の身体に取り込まれた。
丸飲みされた。
「あ――――ああ……」
ほんのごく数秒の出来事だった。
鳩原は理解が及ばないその光景に呆然としていた。
ダンウィッチを身体に取り込んだことで、魔女の身体はばんばんに膨れ上がっていた。
「██――████」
「██████████████████████――――」
獣のような咆哮が響き渡る。
それはまるで
魔女に対して機械的だという見解は別に間違いというわけではない。
だが、魔女は機械でもなければ機構でもない。
そういう部分が
魔女は泡に『変換』をするという工程の際に、対象物の魔力などのエネルギーを
受肉するまでは『遺物管理区域』に充満していた
人間としての知性や感情を獲得するための栄養が足りなかった。
その足りなかったエネルギーも、この何度かに及ぶ戦闘で補給できた。
感情の
満たされていく高揚感、満たされていく充実感。
「████████――――」
首がなく、ぱんぱんに膨れ上がっていた魔女の身体は再構成されていく。
身体は少しずつ細くなっていき、
「████――■■■■■■■■
高揚感。充実感。
今までなかった表情を浮かべている。
成長を遂げて、感情が芽生えた。
自我が芽生えた。
溢れ返る感情によって
感情の
だけど、込み上げてきたのは感情だけではなかった。
「――――
人ならざる概念にして、人の枠から外れた存在。
その
魔女は、まるで気分が悪いみたいに
「ぐ、ぶぶ――っっっ!
魔女の口から大量の泡が――いや、