6.
魔女の行動はどうにも機械的である。
オリオンが戦闘時に感じていたことだった。ウッドロイに対しての攻撃も、オリオンに対しての攻撃も、加えては触腕による攻撃も、再構成に到るまで機械的である。
確かに一度受けた攻撃を学習している。
だけど、そこに知的生命体らしさの『感情』みたいなものがない。
目の前にいる相手をただ攻撃していた。
倒れていたオリオンの前に現れたとき、何もしなかったのはそれの
殺すにしても生かすにしても、そこには魔女の感情がない。
魔女はあくまで機構的に行動をしている。
それが
オリオンとの戦闘がひと段落し、
このとき、魔女の姿を遠くから観察していた生徒会の生徒が言うには『初めて生き物みたいな反応をしたのを見た』と述べていた。
跳び上がるように図書館跡のほうに振り向いたのだという。
全身を
クレーターの真上まで行くと、そのまま降下した。
突き出している柱や鉄骨などに全身を打ちつけてぐちゃぐちゃになって、泥みたいになってクレーターの最深部に落ちてきた。
『円』の前で、『鍵』を握り締めている少年がいる。
こちらに気づく様子はない。
魔女は一歩前に踏み出した。
その一歩で、一気に鳩原の背後に迫った。
――ここで流石の鳩原も背後に現れた魔女の存在に気づいた。
消滅したはずのダンウィッチと同じ見た目をしているこの存在を見て、彼がどう思ったのか。何を感じたのか。
ひょっとするとダンウィッチが生きていると勘違いしたかもしれないし、明らかに違う雰囲気に気づいて身構えようとしたのかもしれない。
だけど、そのすべてが遅い。
鳩原の手は『鍵』を握り締めていたままだったし、振り向いただけで逃げようと足さえも動いていなかった。
決定的に間に合っていなかった。
鳩原に届こうとしている魔女の手は、あらゆるすべての泡に『変換』する。
魔女との戦闘を実際に見ていない鳩原がその異常性を知るはずもない。警戒することもできなければ、対策することもできないし、何よりも身体が動いていないのだから逃げることさえもできない。
「――……」
少年は、言葉をひとつとして発することなく、そのまま泡に変えられて、存在しなくなるはずだった。
その魔女の手を、別の手が握り返した。
少年と魔女のほんのわずかな隙間に――それはギリギリのところで飛び込んできた。
それは気配を消して、駆け足でやってきた。
ひとりの少女だった。
『円』の出現時に跡形もなく蒸発したはずの少女だった。
少女は、あらゆるものを泡にする魔女の青白い手を握り返していた。
悪魔のような角の真っ黒な帽子は被っていないけど、その少女は紛れもなくダンウィッチ・ダンバースだった。