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Interlude III




 ――これは二十万年前の記録である。


 先史文明の『遺物』である『鍵』は、先史文明の『遺物』の研究を専門としているミスカトニック大学の蒐集しゅうしゅう対象だった。

 陰気や根暗と呼ばれている奇人変人揃いの連中は『鍵』の蒐集を中断した。

 それは危険な代物だったというわけでも、学校側が拒んだわけでもなく、研究対象にならないと判断され、類似の『遺物』がいくつも存在していたからである。

 それらに共通しているのは、用途が不明という点である。


 二十万年前――ヒュペルボレイオス文明は北極海と北大西洋の辺りに存在していた。そこの文明人が作った『遺物』のひとつが『鍵』である。

 ヒュペルボレイオスに存在していた――現代で言うところの使が開発した『遺物』は、人類にとって創造主に該当する存在と接触コンタクトを取るための手段だった。

 それはのちの時代に――『神』とも表現されることになる。


 生命という枠組みよりも更に上の高次なる存在。

『それら』に接触コンタクトを取るための方法は常に模索されてきた。

 これは西暦以前も西暦後も同じである。

 二十万年前の時点でも同じだった。

 際たる違いがあるとすれば、ヒュペルボレイオス文明は、接触コンタクトを取る手段に到達していたという点である。

 その手段は文字を読んで、知恵を育んで、技術を極めるという時間のかかるものだった。


 窮極きゅうきょく

 行き詰まるところまで極めて得られる手段。

 それらの方法が確立したあとに文明人が作り出したのは、》という手段だった。

 その手段のひとつが『鍵』である。


『鍵』は、外側へ通じる『門』を開いてしまうようなものだった。

 ただ、『鍵』が『研究に値しない』と判断されたのは、用途が不明だったからである。

 使い方がわからないものだった。

 この『鍵』はどう使えばいいかわからなかった。


 二十万年前――ヒュペルボレイオス文明は氷河期に包まれた。

 氷河から逃げるように彼らは共に後退して、今のヨーロッパの土地に辿り着いた。その際に持ち込まれた代物がこれらの『遺物』である。

 このとき、文明の崩壊にともなって多くの知恵が失われた。

 だから、この『鍵』という『遺物』はただの鉄に過ぎなかった。

 この現代じだいでは、それに意味をもたらすことはないし、今後それはあり得ない。

 時間というものは連続的に積み重なっているものであって、後ろに流れているわけではない。どれほどの文明が発達しようとも、技術テクノロジーによって未来に干渉することも、過去に干渉することもできない。

 それができるのは――それこそ、創造主に相当する存在である。



 ダンウィッチが生まれた世界では、『支配者マスター』と呼ばれる人間が、それを成し遂げた。

『鍵』の使い方の真理に到達した。

 見えるはずのないものが見えた。それによって『鍵』が呼応した。

 その際に発生しているものは『円』のようなもので、その『円』の前で、『支配者マスター』は胡坐あぐらをかいて、じっと見つめている。

 その『円』の向こう側を――じっと、睨んでいる。



 こちらの世界で、予想外の事態が起きたのは、周囲に瘴気しょうきという魔力に相当するものが存在していたことによるである。

 本来ならば、ただそこに発生するだけの『円』である。

 世界の外側から浸食してくる『何か』に瘴気しょうきが反応した。

 ただ、それだけである。




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