2.
『
ひとつの
それはそういう文学作品である。
『
『書店に檸檬を置いて立ち去る』と、『その書店が木っ端微塵に吹き飛ぶ』。
これを、『置いて立ち去る』と『その建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ』と解釈して創った――『再現』した。
内側から炸裂して、肉が、脂が、骨が、臓が、筋が、血が、血が――周囲に飛び散る。
元からただの肉塊でしかなかったが、木っ端微塵に吹き飛んで、もはや残骸となった。
この爆発によってどす黒い液体と、
救助に来たハウスの手をしっかりと握っていたウッドロイだったが、その爆風と飛び散った残骸の煽りによって、そう高くない位置から落下した。
それらがクッションになったので、怪我はなかった。
周囲の悪臭に嫌悪感を表情に見せた。
ずるずると這っているときは、まだどうにか人の形に見えなくもなかった『
(よもや、このまま動くかもしれないと思っていたが、
これの後片付けは大変になるだろうけれど……それはまあ、そのときに考えるとしよう。
ひとまず、ハウスに回収してもらって、結果報告をしなければならない。
空を飛んでいるハウスに救助をしてもらおう。
「――――」
このとき、ウッドロイの気は緩んでいた。
だから、このときに起きたことに対して瞬時に対応できたのは、ただの幸運だった。
嫌な予感。嫌な気配。嫌な空気。
空にいるハウスに手を挙げて合図をしているウッドロイ。そんな彼が見たのは、どす黒く血で染まったハウスの
(どうしてそんな表情をする?)
――なんて考えるよりも先だった。
ウッドロイのそう離れていない位置に、
それは、まるで深海に
二メートルもない、地面から
何か、起きようとしていた。
それよりも先にウッドロイは動いていた。
『かちん』――と、一気に距離を詰めて、杖を引き抜いた。
ウッドロイの家系に代々受け継がれてきている素質がある。
それを『ドヴェルグ』と称している。
『
北欧の小人の最大の特徴は『鍛冶匠』だということである。北欧の小人は鍛冶の技術を持ち、優れた道具を作り出す才能に
ウッドロイ・フォーチュンは、その魔法の性質を持つ。
彼は『錬成』と『再現』の二種類の魔法を組み合わせて扱う。
彼の『錬成』は現代に作ることのできない神話大系の妖精の技術である。当然、魔力を尋常じゃなく使うため、剣やら
だから、『錬成』するのではなく、彼は『加工』する。
杖を――加工する。
これに加えて、彼は『再現』を得意としている。
『起きている出来事をもう一度行う』というものである。魔法を使う際に
それを身体に
『再現』と『錬成』を組み合わせてひとつの攻撃方法にしている。
再現するのは、彼の経験――彼が見てきたものである。
『錬成』で杖には剣――いいや、刀の性質が加工されている。『再現』するのはかつて見た達人の剣術だ。
魔法使いでも何でもない、ただの人間が振るった剣術。
抜刀や、居合と呼ばれている――
音速に等しく、斬り終わる頃には杖は
そういう一撃だった。
それを――何かが受け止めた。
どばっ! と、どす黒い濁流のような影の中から青白く不健康そうな腕が伸びてきた。
その片手の五本の指で優しく受け止められていた。
白刃取り。
「…………っ」
ウッドロイは焦りの表情を見せた。
白刃取りに――ではなく、その痩せ細った青白い手に触れられた杖の外殻を覆うようにしていた加工が消滅し始めたからだった。
ぽこぽこ、ぼこぼこ――と。杖の周辺には泡が出現する。
極彩色の泡。玉虫色の
慌てて杖を引いて、後ろに跳んだ。
今度は一気に距離を取る。
「はあっ、はあっ……」
息ができていなかったことに気づいた。
悪臭が気になってできることならしたくなかった呼吸を、これでもかと行う。
「██――」
真っ黒な濁流の影は、内側からぐっと膨らんだ。
爆発するのかと身構えたが、違った。
ザ、ザザザザ、ザザザザザザザザッッッッ――! と。
地面に触れている部分から、真っ黒な液体が流れ始めた。内側から吐き出しているみたいに見えた。
勢いはそんなに強くないが、その濁流は学校中に拡がっていく。
その生暖かい濁流はウッドロイの足首辺りまで
「██――█h███」
学校中に拡がった濁流は、今度は引き潮のように、その影に集まっていく。
「████h█――hh――――███h██、██████████████████████████hhhh██hhhhhhhh██████████hh██████████――!」
それは唸り声のようだったし、咆哮のようにも聞こえた。
あるいは、
泥は――悪魔の角みたいな帽子になった。
闇は丈の長いローブになった。
それは――少女の姿だった。
この一ヶ月間、学校で見かけた魔女の少女だった。
その少女の腰の辺りから玉虫色の触腕が生えていた。
それは数え切れないほどで、常に
『円』から出てきた『何か』は受肉し、
少女の姿に、