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用語解説 List 6




遺物【いぶつ】

 超自然的な現象を引き起こす物体のこと。

 魔法書や聖遺物、呪物などの全般を指す言葉。

 実際に魔法が発動するように術式が組み込まれている物から、崇拝などの対象になる偶像的な物も該当している。


鉄槌【てっつい】

 十五世紀に異端いたん審問しんもんかんによって出版された『魔法使い』に関する論文。

 十五世紀から十八世紀にかけての『魔女狩りの時代』で大きな影響を与えることになる。

『魔女の定義とその問題点』、『魔女の悪行』、『魔女狩りと魔女裁判の心得と手引き』について記されているが、その実態は魔女を都合よく捏造ねつぞうして、魔女裁判を都合よくり行うための方法が記載されている。

 魔女裁判の最終工程である『処刑』の段階で用いられてきた。

 この『遺物』に魔法が仕掛けられていることが発覚したのは十八世紀の頃だった。

 審問官がこの『遺物』に微量の魔力を込めることで術式が作動して待機状態になる。審問官に魔力を込める行為が『方法』に記載されている。これによって審問官が知る知らない関係なく魔法が待機状態になる。そこで対象者の魔力を感知した場合、『首を締め上げる』という魔法を実行する。魔法使いが処刑される際に魔法を用いて抵抗するケースがあって、それの対策であるともされている。処刑の際に問答無用で殺すための魔法である。


ホプキンスの手引書【ほぷきんすのてびきしょ】

 魔女狩り将軍ことマシュー・ホプキンスが魔女狩りの際に手に持っていた手引書。

 後年になってからそれに着想を受けて魔女狩りのために作られた『遺物』。これが作られたイングランドでは拷問が禁止されていたため、そこに違反しないような術式が組み込まれている。

 尋問じんもん中に相手を疲弊ひへいさせる魔法で、疲労と共に肺の中に水が満たされていき溺死できしするというものである。

 前述の『鉄槌てっつい』は審問官が魔法を使えるか使えないかを関係なく作動するように作られていたが、こちらは審問官が魔力を送りながら使われることを前提とした『遺物』である。


大司教の血【だいしきょうのち】

 コルクでふたがされた茶瓶。

 トマス・ベケットという十二世紀に聖人と呼ばれた聖職者。彼が暗殺されたときに流れ出た血を飲んだ者がいて、『血を飲んだら病気が治った』と言われるようになり、奇跡だと騒ぎになって血を水で薄めたものが配られるようになった。

 アラディア魔法学校の『遺物管理区域』に保管されている『遺物』には微量の血は混じっているものの、特別なことはなく、伝え聞くような奇跡はないとされている。

 偶像崇拝の危険性を指摘されて保管されている。


神託【だるく】

 十五世紀の百年戦争。

 ジャンヌ・ダルクというフランスを救った少女にして英雄。十二歳の頃に『神の声』を聞き、啓示けいじに従う。十七歳で戦地におもむいて奇跡とも言える快進撃を成し遂げる。その後、異端審問にかけられて十九歳で火刑に処された。

 当時十七歳のときにオルレアン解放のために掲げたとされる旗の複製。後年になってから複製され、これらを所有していた人物が『神様の声を聞いた』と言い始めた。それが異端審問の対象となった。そのときに回収され、処分されずに残っていたもの。

 伝え聞くようなことはなく、ただの複製であるとされている。


魔女の福音【ごすぺる・おぶ・ざ・うぃっち】

 魔女から伝授でんじゅされた古代の魔法が記されているという書物。

 ある民俗学者が『イタリアのいる魔法使いが「古代魔法」の秘伝を記した写本を持っている』という噂を伝え聞き、現地に足を運んだ。

 そのときに見聞きしたものを記したのが『魔女の福音ゴスペル・オブ・ザ・ウィッチ』という書物である。

 しかし、これが『古代からの伝承を収めたものかどうか』は疑わしいとされている。

 民俗学者が実際にその写本を見たわけではなく、魔女が述べる内容を記録しただけである。更には魔女が民俗学者に対して内容を話して聞かせたという事実は記録されておらず、記されている内容さえ偽物の可能性が高い。

 しかし、これの出版をきっかけに魔女崇拝が起きている。


影の書【ヴぁり・あんて】

 学んだことを自ら書き記す書物。

 二十世紀におこった魔女崇拝におけるマニュアル。

『魔女狩りの時代』に処刑された魔法使いたちの多くは無関係であるとされているが、少なくは無関係ではないとされている。『魔女狩りの時代』自体は異端審問から起きている出来事である。その迫害は西暦の始まり頃から続いている。

 西暦以前の古代魔法の文化を扱う魔法使い。

『「魔女狩りの時代」より以前より迫害を受けてきて、それらの迫害を何世紀も生き延びて西暦以前の古代魔法を継承し続けてきた魔法使いたちがいる』――この書物の作者はその集団と一九三九年に出会った。

 そこで作者は自分専用の『影の書ヴァリ・アンテ』の写本を授かることに成功する。古代魔法はこうして現代にまで伝えられてきたのだ――と。

 魔法のこと、参入儀式のこと、満月の夜エスバットの儀式のこと、呪文のこと、七芒星のこと、女神の召喚のこと、歌と踊りのことなどが記されている――というのは、この作者による作り話である。

 二十世紀に興った魔女崇拝では当初写本のようにして記されてこそいたが、現代では白紙のものが渡され、学んだものを自ら記録するというものになっている。

『遺物』として保管されているのは魔女崇拝と関係する資料だからである。


馬の頭【うまのあたま】

 ハンガリーで古くから語られる民話に登場する『遺物』。

 馬の怪物によって山地が荒らされた。その怪物はあらゆる水を飲み干してしまうため、周辺の地域は渇いていた。そこに巡礼者が現れた。ある母親が『子供が死んでしまう。その前に洗礼をしてほしい』と懇願こんがんした。

 巡礼者は怪物の洞窟におもむき、水を分けてもらうようにお願いをした。だが、怪物は聞く耳を持たず、巡礼者に襲いかかった。次の瞬間、大きな音と共に怪物の姿が消えてなくなった。あとに残っていたのは馬の頭の形をした石だけだった。

 毎日正午になるとその『馬の頭』から清水せいすいが湧き出るようになった。

 東欧にはこうした巡礼者が怪物などを調伏ちょうぶくしていく伝説が多く残されている。

 この伝説を持つ『馬の頭』が盗まれて、商品として出回っていた。この『馬の頭』の石像は本物ではなく贋作だが魔法が施されていた。大気中の水分や、接触している地面に含まれている水分を吸い上げて濾過ろかされた状態で排出されるようになっている。


ババ・ヤーガの頭蓋骨【ばば・やーがのずがいこつ】

 中欧・東欧で伝わるババ・ヤーガという老婆にまつわる『遺物』。

 ババ・ヤーガは子供を誘拐し人を喰う恐ろしい老婆だが、同時に真面目で素直な子供には優しく、助言や魔法の品を授けるという。この頭蓋骨もババ・ヤーガが授けた魔法の逸品で、眼窩がんかの奥は炎で燃えている。その複製。


栄光の手【あるべーる】

 絞首刑を受けた罪人の死体の脂肪から製造する手の形をした蝋燭ろうそくで、『その手に灯っている火を見ている人物は身動きが取れなくなる』や、『蝋燭に火を点けると姿が見えなくなる』などの現象を起こす『遺物』。

 十六世紀から十八世紀にかけてその『遺物』の製造方法を記載した書物が行商人の手によってヨーロッパ中に運ばれた。十九世紀頃まで犯罪で用いられて大流行していたが、二十世紀頃には取り締まられて数を減らした。

 製造方法を記載した書物も、製造された蝋燭もどちらも『遺物』として管理の対象になっている。

『遺物管理区域』で鳩原はとはら那覇なはが使用していたのは十八世紀中頃に廉価れんか版として出版されたものである。自分自身の手を代わりとして見立てることで疑似的に近しい現象を起こすための魔法が組み込まれている。




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