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第36話 魔女に与える鉄槌(2)


     5.


 鳩原はとはらは負け続けていても、最終的に『勝てればいい』と考えている。

 その辺りはダンウィッチと食い違っている部分で、ダンウィッチは負けることを『良し』とはしない。

 あらゆる状況において『負けること』は許されないと考えている。

 ひとつの敗北は、すべての敗北になる。

 崩れ落ちるように瓦解がかいして、崩壊して、そのまま壊滅するのだと。

 ダンウィッチの持つ異能は『ヴォイド』と呼ばれている。

 それはかつてダンウィッチに『ダンウィッチ・ダンバース』という名前が与えられておらず、『ヴォイド』という名前で呼ばれていた時代――兵器として育てられていた幼年期。

 七人の兵器には、それぞれの性質が与えられていた。

 ダンウィッチの性質は『変換』である。

 周囲に存在している力を『泡』に変換するという代物である。極彩色の泡は無限に増殖しているわけではない。周囲に存在しているエネルギーを『泡』に変換している。

 さっき、オリオンの一撃を顔面で受け止めたのも、これで変換して緩和したからだった。

 鳩原には、

「もしも、オリオンと対峙することがあってもギリギリまで『泡』を使わないように」

 と言われていた。

 だから、『泡』を直接の戦闘では使わず、周囲にある『遺物』を使った。

「だけど、一度でも使ったら、オリオンが『泡』への対応に慣れる前に勝て」

 とも言われている。

 既に極彩色の泡は使っている。

 だから、ここからは『泡』を使う。

(それに、きっと近くに『鍵』がある)

 周囲に充満していた瘴気しょうきが『泡』に少しずつ変換されていく。

 さっきまでは瘴気の気配で、どうにもわかりづらかったが、少しずつ鮮明になってくる。きりが晴れるような感覚だ。


 西暦以前。

 二十万年前にこの地に辿り着いた先史文明の『遺物』は、この通路のどこかにある。

 そこに辿り着くためには――今はオリオン・サイダーの撃破が優先だ。

 彼女がいる限り、そこに辿り着けない。


 ダンウィッチ・ダンバースとオリオン・サイダー。

 ふたりの覚悟は決まった。



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