5.
その日は休日だったので、ダンウィッチが
ビーフのサンドイッチを手土産に。
この日は天気がよかったので、埃っぽい廃屋の中ではなく、外で話をすることにした。
ダンウィッチはその辺りにある塀の上に座った。
鳩原はその近くにあった切り株に座った。
「……今更かもしれないけど、『鍵』を手に入れたらどうやって『門』を開けるんだ? 帰りは気にしないでもいいって言っていたけど」
霞ヶ丘が提案した『三十分』という時間で、果たして『鍵』を見つけることができるのか。
ダンウィッチの『
そこはしっかりと見極めておかないといけない。
作戦の中核になるのは、一度も踏み入れたことのない空間での捜索活動だ。
『遺物管理区域』では大量の『遺物』がある。
それらの中から果たして『三十分』という時間制限だけで目的のものを見つけることができるのか。
それらの中から『鍵』というだけの情報しかない『遺物』を見つけ出すことができるのか。下手をすれば、そんな形の『遺物』はいっぱいあるかもしれない。
「『鍵』さえ手に入れば、それで大丈夫です」
ダンウィッチは答えた。
「『門』はどこか特定の場所にあるわけではないんです。世界の至るところに
「そんなことで『門』を開けられるなら、とっくの昔に誰かが『門』を開いているんじゃないのか?」
「いえ、それはあり得ません」
「ふうん……?」
妙にはっきりとした物言いだった。
どこにでも偏在しているという『門』が開いていないという確証があるのだろうか。
「それに『
むしゃむしゃ、とダンウィッチはサンドイッチを食べ終えた。
行儀悪く指を舐めている。
「それだったら尚更、僕たちが『鍵』を見つけても、開くことができないんじゃないのか? それ相応の準備が必要になるんじゃないのか? だとしたら、『遺物管理区域』で『鍵』を見つけた上で、それを没収されないように回収しなければならないんじゃないのか?」
「質問攻めですね」
うーん、とダンウィッチは腕を組んだ。
「正直、その辺りは『鍵』を実際に手にしないとわからないというのが本音です。でも……」
「でも?」
「たぶん――私ならいけます」
「その根拠は?」
今までなら、そこで流していた。
でも、行動に移すとなれば、その部分は曖昧でいてはならない。
「……私のこの泡なんですけど」
ダンウィッチの人差し指の先には、泡があった。
しゃぼん玉のように見える泡。その表面は玉虫色の極彩色。陽光に照らされて
「これは『
その極彩色の泡は、ぱちん――と割れた。
「『
「…………」
「私の本質は、『門』の向こう側にいる概念の一部なんです。私なら――『鍵』があれば『門』を開くことができます。だから『
そこまで断言されると、追及はできなかった。
鳩原としては納得できるような根拠ではなかったが、本人が『開けられる』というのならば、それでいい。それに、開けなかったとしても、そこにあるリスクは大したものじゃない。
(怒られる人間がひとりからふたりに増えるだけだ――)
それに『よくわからない』というのが鳩原の本音だ。
ダンウィッチは鳩原にも伝わるように言葉を選んでくれているみたいだが、どうにも不明瞭だ。ダンウィッチは説明が下手というわけでもない。きっとダンウィッチ自身がよくわかっていない部分なんだろう。
「わかったよ、いいよ。ダンウィッチがそう言うならそれを信じよう。それに、失敗したら失敗したらそのとき考えよう」
「縁起でもないことを言わないでくださいよ」