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第28話 いざ、遺物管理区域へ


     4.


「上手くいきましたね」

 図書館で合流したダンウィッチが言った。

 鳩原はとはらも表情を緩まる。

 ドロップアウトの陽動が上手くいくか不安だった。まるっきりドロップアウトに任せるわけにもいかなかったので、こちらもできることはやっていた。

 ダンウィッチが図書館に通うようになってからの一ヶ月間、いろんな生徒とコミュニケーションを取ってきたが、徹底的に生徒会に関わる人物を避けてもらっていた。生徒会のほうもダンウィッチを警戒こそしていたが、近づいてくるような真似はほとんどなかった。

『ダンウィッチのことを認識している』程度であってほしかった。

 もし、ダンウィッチと仲良くなっていたら、魔女に扮したドロップアウトと入れ替わっても気づかれる恐れがあった。

 ほかにも挙げれば気になる箇所はいくつもあった。

 だから、それぞれにできるだけの対策をしてきた。

 それが上手くいった。

 ダンウィッチがこちらに突き出してきた拳に、こつん、と拳を合わせた。

「行こうか。あまり時間はかせげないって言っていたし」

「三十分ですね。それ以内に見つければ何の問題もありませんよ」

 三十分、とはいったものの、この『三十分』は生徒会が駆けつけてくる『三十分』である。

 オリオン・サイダーは別だ。ドロップアウトの対応外である。

 鳩原とダンウィッチは急ぎ足で図書館内を移動して、背の高い両開きの分厚い扉の前までやってきた。

 地下に――『遺物管理区域』に降りるための扉である。

「……『児童文学型模倣術式ロングロングアゴーズ』」

 鳩原は折り畳まれている画用紙を取り出して、開いた。

 そのページには『白雪姫』のワンシーンがえがかれている。

 白雪姫と、七人の小人が出会ったシーンである。

 鳩原でも出力が可能な、少しの魔力で、この魔法は発動した。その証拠に手元にある画用紙が一瞬だけ燃えるようにして消滅した。『児童文学型模倣術式ロングロングアゴーズ』はそれぞれ使い切りの魔法である。

 物陰から小人こびとがひとりずつ現れる。合計で七人。

 小人の身長は、鳩原のおなかのくらいの位置である。見た目こそは似ているが、仕草や見ている方向がみんな違う。それだけこの小人にはひとりずつ個性があるということなのだろう。

「えっと……」

 こちらの指示を待つ小人たちに、鳩原はお願いをする。

「僕たちはこれから地下に潜るから、みんなにはこの館内のことをお願いしたいんだ。もし、何かあったらしらせてほしい」

 こくり、と揃って頷いて、小人たちは各々散らばって走って行った。

 本来、『白雪姫』において、七人の小人はこのような命令を受けて動く存在ではない。

 白雪姫と小人たちは仲良くしている描写が多いが、白雪姫は小人たちの条件を呑んで、彼らの家に住まわせてもらっている側である。

 こんなふうに命令関係が成立するわけではない。

 この辺りの認識を大雑把に歪められるのが、『児童文学型模倣術式ロングロングアゴーズ』の特徴である。霞ヶ丘かすみがおかゆかりによって、どんなふうに創作デザインされたのかに左右される。

 これは、邪悪なる女王から、何度も殺されかけた白雪姫のために奔走ほんそうする小人たちを見て、『まるで姫に忠義ちゅうぎを尽くす騎士のような印象を受ける』という部分を拡大解釈して描かれている。

(なんというか、都合のいい部分を抽出ちゅうしゅつしている)

児童文学型模倣術式ロングロングアゴーズ』は『再現』ではあるが、霞ヶ丘に言わせれば、あくまでモチーフにしているだけだという。

「よし、行こう」

 鳩原は扉の傍らのスチールの台に置かれているオイルランプを手に取った。

 点火用のマッチも置かれている。一本取り出して、火をともした。

『遺物管理区域』につながる扉を開く。

 扉を開くと、先にあるのは闇だった。

 異質な空気が溢れてくる。それはほこりっぽいという意味でもあるし、よくない空気が充満しているという意味でもある。

「私が先を行きますよ」

 ダンウィッチは鳩原に手を出した。

「もし、何かあったらすぐに引き返してください」

「……わかった」

 鳩原はオイルランプをダンウィッチに手渡した。

 ダンウィッチは階段を降り始めた。

 古いままの石造りの壁と床。天井が低いので、少し身を屈めながら降りていく。

 図書館だというのに、火を扱わせるというのはなかなかどうかと思うが、瘴気しょうきの影響で電気工事の業者が這入はいれないし、そもそもの話、火を放って消失するくらいなら『遺物』と呼ばれていない。当然、燃えて消える物もあるけど。

 オイルランプの頼りない灯りを頼りに階段を降りていく。



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