3.
そして、同じ頃。
生徒会側の警戒はより厳格なものだった。
警戒しているのは、魔女――ダンウィッチ・ダンバースの動向だった。ダンウィッチの行動は午前中から常に監視されていた。
不可解な行動を取らないかどうか。
不審な行動があったとき、すぐに対応できるように準備もしていた。
ダンウィッチの監視。
午前中はひとりで行動していたダンウィッチは、お昼頃に
そんなふうに一部始終を監視していた。
――
そんなにびったりと張りついて監視していたわけではない。
午前から午後にかけて監視しているといっても、変化のないものを見ていれば
とはいえ、ダンウィッチは目立つ格好をしている。
それを監視し、見逃さないようにしていた――はずだった。
午後四時三十七分。日没のときだった。
真っ赤な空は、深い
そんなとき、生徒会内で用いられている連絡用魔法で混乱が起きた。
学校内の見回りしていた生徒会の人間がダンウィッチを見つけて、その行動を監視していた。交わされた定期連絡で、
それも全員、別の場所で。
ダンウィッチを監視している全員が、それぞれダンウィッチに近づいて気づいた。
自分たちが監視していたのはダンウィッチではなく、ドロップアウトの生徒が扮装した姿だった。
魔女の格好に、仮装していた。
(どこで入れ替わったんだ……?)
生徒会長のウッドロイは思案していた。
彼がいるのはグラウンドの裏側である。関係者が控えている席に彼はいる。
生徒会が監視していた範囲でわかっていることは、ダンウィッチは学校内の誰とでもコミュニケーションを取っていたということだ。
目立つ格好をした彼女に面白がって声をかける生徒は多かった。
そこでのコミュニケーションに
最初のうちはこれらのことがあったので、生徒会は『鳩原
それでも、時間が経てばわかってくる。
ウッドロイは『鳩原那覇』と『ダンウィッチ・ダンバース』につながりがあることを看破していた。
根拠があったというよりは、あらゆることの積み重ねだった。
『そうなんだろうな』を積み重ねてきて、確証はないまま、確信していた。
ハウスが侵入者騒動の出来事を黙り続けている以上は、決定的なものにはならなかったが、ウッドロイはウッドロイで、『副会長は何か隠し事をしているな』と気づいている。
別に暴く必要はない。
確証はなくとも、確信しているのだから。
「会長! 鳩原那覇を見失ったとの報告です!」
ウッドロイの元に駆けつけてきた生徒からそう報告があった。
お酒を飲んだ生徒同士で掴み合いの喧嘩が始まり、そちらの対応をしているうちに監視していた鳩原を見失ったとのことだった。
(これは……これは――)
ウッドロイは密かに確信する。
生徒が騒ぎを起こすのは、まあ、こういうお祭りでは仕方がないと思っている。それは、まあ、いいとして……。
このドロップアウトの生徒が魔女衣装に
(ドロップアウト側と連携していていなければ、こんなことは起きない……!)
となると、どうするべきか。
鳩原を見失った際に起きた生徒同士の掴み合いの喧嘩というのも、ドロップアウト側が用意したものの可能性がある。
ここは大事な局面だ。
「霞ヶ丘ゆかりの所在地は?」
ウッドロイはその報告に来た生徒に訊ねた。
「現在、カフェテリアにドロップアウトの生徒と三人でいます!」
「私はこれから向かう」
既に鳩原とダンウィッチには先手を打たれている。
今から動いても後手に回ることになる。
(だから、あのふたりは捜索を続行させて、見つけてから対応する)
現状でまだ『動いていない』のはドロップアウト側だ。
(――そちらには先手を打てる)
ウッドロイがグランドの傍らにある控え室から外に出たときだった。
空気を引き裂く音が聞こえた。
箒で飛ぶときの音が聞こえた。
『それ』は、ウッドロイから見てグラウンドの反対側から飛び立った。
(あれは、オリオン・サイダー……)
この時間は薄暗くて周りが見えづらくなる。
それでも、ウッドロイには、その箒に乗る人物がしっかりと見えていたのだった。