2.
この地方の日没は早い。
十月末というこの時期だと午後四時には薄暗くなってくる。
陽が暮れ始めて、青空は朱色に染まりつつある頃、オリオン・サイダーはグラウンドにいた。
「…………」
と、オリオンは退屈そうに座っていた。
現在、ご
オリオンがここにいるのは、このあと、午後五時から行われる魔法と
スポーツ観戦にほとんど興味のないオリオンとしては、心底つまらなくて、学校内の模擬店や催しものに興味がある。
それでも、彼女は名家の出であって、この学校内の屈指のエリートである。だから、こういう場面では生徒代表として挨拶をさせられる。
『そんなの生徒会長のウッドロイでいいじゃないか』とはオリオンも思っているが、そんな意見は言わずに黙ってその役割を引き受ける。
それに、昼間の箒リレーにも断れず参加させられていた。『箒リレーに出たから』と、どうにか午後の球技への参加は断ることができた。
ただ、この昼間の箒リレーで優秀な結果を残したということで、開始前の挨拶を任されることになった。
しばらく待っていると、順番が自分に回ってきたので、オリオンは立ち上がった。
昼の部に戦った者として、夜の部に意志のバトンをつなぐ挨拶をした。当たり障りのない言葉でエールを送った。
やることをやったオリオンは自分の席に戻ってきて、ひと息吐いたところだった。
「ふう……」
このあとの球技がひと通り終わるのは午後八時くらいだ。閉会の挨拶が終われば、
「お見事です、オリオンさん」
「うん、ありがとう」
彼女の隣に座っているのは、クアンタム・ピースサインという同学年の友人である。
身長が高いが童顔で、髪の毛を耳の上辺りでまとめている。それも左右。いわゆるツインテールだ。十七歳でするには、なかなかギリギリか?
「(ドロップアウトの連中に何の動きもありません)」
クアンタムはこそっと小声で言った。
それには眉をひそめるオリオン。
魔女の夜の前日まで
細かいところを見れば、催しものに
ドロップアウトは必ず何かをするとは思っている……。
だけど、オリオンが気にしているのはそちらではない。
ドロップアウトのしようとしている目的はわからないが、
(問題なのは――あのダンウィッチさん)
問題視しているのは、あのふたりだ。
あのふたりは、何をしようとしているのか――それこそわからない。
鳩原と
(あるいは利用してくる……か)
だからこうして、クアンタム・ピースサインから情報をもらっている。
彼女は生徒会の一員である。生徒会は鳩原とダンウィッチ、そしてドロップアウトに対して警戒している。
とはいえ、現状、あのふたりが『遺物管理区域』に行きたがっていることを知っているのはオリオンだけである。生徒会と共有してもいいかなと思った瞬間もあったが、あんまりそういうことはしたくない。
自分からしゃしゃり出ていくようなことをしたくないのだ。
(忠告はしたけど、それで諦めないはずだ)
鳩原那覇は
変な人間に好んで近づいていくのは、そういうところの表れなのかもしれない。
(『負けず嫌い』というのは、きっと、あのダンウィッチさんも――ね)
『負けず嫌い』なのは共通している。それに『右と言われたら左』で『意見が一致している』というのがあのふたりから感じる印象だ。
必ず反発してくるはずだ。
そのための
ドロップアウトの行動を隠れ
それが彼らにとって一番勝手がいいから。
だから、ドロップアウトに注意していれば、尻尾を掴めると思っていたのだけど、読みが外れたのか。
(違和感……)
オリオンはそう感じた。
「あれ、どうしたんですか。急に立ち上がって」
違和感でしかなかった。
だけど、オリオン・サイダーを動かすには十分だった。