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4.魔女狩りの時代


     4.


「アラディア魔法学校ってかなり古い学校なんですよね」

「そうだね、学校の創設は『魔女狩りの時代』だよ」

 と言ってから鳩原はとはらは思う。

 そう言えば『魔女狩り』なんて言葉は通じるのだろうか? ダンウィッチの格好はそれこそ魔女そのものだけど……。

「魔女狩りですか。こちらの世界にもあったんですね、とても痛ましい歴史です」

「そうだね、痛ましい歴史だよ」

 どうやらダンウィッチの世界にもあったみたいだ。

 頷きながら鳩原はティーカップのオレンジジュースを口にする。ダンウィッチの言葉に同意したものの、鳩原にとって『歴史』というものは『出来事』でしかない。

 歴史を学んでも、情報以上のものを感じない。

 まったくの無感情というわけでもないが、感情的になれるほどじゃない。『魔女狩り』も『戦争』も鳩原にしてみれば、生まれる前のことで、昔のことでしかないのだから。

「もっとあの学校について聞きたいんですけど、いいですか?」

「いいよ。何が聞きたい?」

 鳩原はカップをテーブルの上に置いた。

「アラディア魔法学校に伝わる、古代の魔法についてです」

「…………はい?」

 鳩原は首をかしげた。

「『魔女狩りの時代』に作られた古代の魔法のことですよ。その魔法を扱うためのアラディア魔法学校であり、その技術を後世に継承けいしょうしていくためのアラディア魔法学校だと聞きました」

「都市伝説だね、それは」

「えっ、都市伝説なんですか?」

「そうだよ」

「普通にがっかりですね、それ」

 まあ、アラディア魔法学校は人里離れた場所にあるし、廃れつつある魔法なんてものを専門にしている学校だから、そういう噂が立ってもおかしくはない。

「実際はどうなんですか? 火のないところに煙は立たないって言うじゃないですか」

「幽霊の正体見たり尾花おばなとも言うけどね」

 その火は本当にあったのか。その煙だって本当に煙なのか。『恐怖はオオカミを実際より大きく見せる』ということわざがヨーロッパにはある。

「うーん……。そんなことはないと思うけどなあ……」

 そんな『古代の魔法』はないと思う。

 学校が学校であると認められる際に、この手のことは徹底的に調べられる。学校の人間が意図的に魔法を施していないかとか、生徒に危険が及ぶような『遺物いぶつ』はちゃんと管理されているかとか、そういうのは徹底的に調べ上げられる。

 そういう『よくない魔法』が施されていれば、専門の人たちによって魔法は解体されるし、いわくつきの『遺物』は学校で管理してもいいが、そうではない――管理が困難な『遺物』はしかるべき場所に寄贈するようになっている。

 一応、アラディア魔法学校も『遺物』の管理は可能で、危険性が低いとされている『遺物』の多くは『その場所』で管理されている。

 そういう場所が、学校内にはある。

 このことをダンウィッチに話したら、

「『その場所』に『鍵』が保管されているかもしれませんね」

 と、嬉しそうに言った。

「いやあ、世界を外側とつなげてしまうような危険な『遺物』は残っていないと思うけど……」

 この学校にあった危険な『遺物』は大英博物館などに寄贈している。もし、そんな『遺物』があったなら、ミスカトニック大学のほうに寄贈されていることだろう。

「いやいや、わかりませんよ」

 ダンウィッチは言う。

「私の世界にあった『鍵』も、元々は危険なものではなかったと聞いています」

「そもそも――だ。ダンウィッチの世界には魔法がないんだよね? だったら、その『鍵』って?」

「私もよくわかりませんが――」

 くいっ――と、ダンウィッチは指を振った。

 その指先にはひとつの泡があった。


と似たようなものだと思います」


 それは赤色や緑色が不気味に波打つ、禍々まがまがしい極彩色ごくさいしきの泡。

 ひょいっ――と、ダンウィッチが指を動かす。

 ぱちん、とその泡は弾けて消えた。

(間違いない)

 鳩原は確信する。

(これは、魔法ではない、だ)






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