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第04話 ハウス・スチュワード


     1.


 防犯魔法。

 それは侵入者を発見次第に『打ち上げ花火同然の閃光せんこうと爆音を放つことで危険をしらせる』というもので、科学が台頭し始めた現代にも使われる場面の多い魔法である。

 アラディア魔法学校の防犯のひとつとして、この魔法を採用している。

 防犯について生徒たちにも理解を深めてもらうための取り組みとして、生徒会が中心になって行っている防犯委員会という活動がある。

 それの担当者が副会長――ハウス・スチュワードである。

 彼女は現生徒会の副会長にして、次期生徒会長であると言われている。

 高い責任感と正義感を持つ人物である。

 彼女はこの防犯に関する取り組みを始めてから『この学校に備えつけられている防犯魔法だけでは不十分である』と感じていた。

 防犯魔法が作動してから動いても遅い。

 ハウス・スチュワードが防犯委員会でいくつかの問題点を挙げて、学校を介して専用業者に相談した。

 そうして学校の数か所に設置されたのが感知魔法である。

 それは『消灯後に学校内に侵入者があった場合に反応する魔法』である。


 ある日の夜のこと――これは鳩原はとはら那覇なはとダンウィッチが出会う、ほんの十数分前のことである。

 学校に仕掛けてある感知魔法に反応があった。

 それは侵入者側には伝わらず、担当者であるハウスの元に届くようになっている。

「…………」

 ぱちり、と。

 ハウス・スチュワードが目を開けた。

 今まで目をつむって寝たふりをしていたんじゃないかと思うような目覚めだった。

 侵入者を感知したとき、ハウスの眠る枕元にあるランプの豆電球が『かちかちっ』と点灯するようになっている。か弱い灯りだが、神経質なハウスの目を覚まさせるには十分だった。

「…………」

 ベッドから降りて部屋を出る。ハウスはこの数秒間で部屋着から制服姿に着替えていた。入口の壁にかけてあるほうきを手に取って、寮の二階にある飛行用の窓を開いて――飛び立った。

 一分とかかっていない、圧倒的な速さだった。

 それを可能とさせているのは、もちろん――魔法があってのことだ。

(……感知したのは、あっちのほうね)

 学校の敷地内はかなり広い。

 こうして箒で飛び回れるくらいにはいくつもの校舎が並んでいる。

 学校の敷地は広い。周りは木々に囲われて森や林のようになっている。なので『侵入者』が野生動物の可能性もあるが、人間と野生動物を誤って感知はしないように工夫している。

 感知魔法は『消灯後の時間から夜明けまでの時間』に定めていて、感知した『物体の大きさ』や、心拍数や脈拍などから、それが『人間かどうか』を判断して感知している。

(反応があったのは北――植物園がある辺りね。校舎からは離れている)

 ハウスは校舎と同じくらいの高さ――地上十五メートルの高さを自動車と変わらない速度で飛行している。これは彼女が第一種魔法運転免許を取得しているからである。

 さっきまで降っていた小雨こさめはもう止んでいて、空をおおい尽くしていた雲は晴れつつある。

 びゅうう……、と吹いている風は冷たい。周囲の空気はひどく冷たい。

 寒くても弱音をかず、それをぐっと堪えるくらいの辛抱強さがハウスにはある。

「…………」

 植物園にやってきて、反応のあった学校の外壁の辺りに移動する。

 この辺りの外壁には植物が使われている。魔法によって剪定せんていされた植物が壁になっている。

 その一箇所が、れていた。

 小動物くらいならば、あるいは通れるくらいの隙間ができていた。

(この枯れ方は……除草剤をかれている)

 この『侵入者』が大きい動物、この時間帯にうろうろしていた生徒が誤って感知魔法に反応してしまったの――何か企みの元で行動しているのだとハウスは確信した。

(まあ、どうせ、ドロップアウトの連中でしょうね。どうしてこんなことをしたのか――いえ)

 この寒さがハウスの思考を冷静にさせる。

『どうしてこんなことをしたのか』なんて捕まえて聞き出せばいい。

 本心を喋るとは限らないので、聞き出す必要もないとも言えるが……何にしても今ハウスが考える必要のないことだ。

(理由なんてわざわざこちらが考えなくていい――)

『かちん』――という音と同時に腰のベルト部分から杖が引き抜かれた。

 杖の先端から光の球体が三つ放たれる。いずれもテニスボールほどの大きさで、ふわふわと浮いていて、周囲を明るく照らし始めた。

 侵入者を探すために。



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