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第41話 VS精巧超人②

『いやいや、良い勉強をさせてもらった。本当の意味で君たちを過小評価していたのは私の方だったようだ。その事は謝罪するよ。自分の能力を過大評価していたことについてはね。さて、ウォーミングアップはこれくらいで良いだろう。そろそろ本気を出していこう』


 ぱん、と柏手を打って意識を変える。


『おいで、山田家。そして掌握領域──〝山田家+ミラージュ〟』


 現れた山田家はノーマルだ。しかしミラージュは残機を3回まで増やす効果を持つ。

 その意味を知って明らかにシェリル達の様子が慌ただしくなる。良い反応だ。そう言う驚く表情を見たかった。


[随分と趣味が悪いな。まるで実験をしているようではないか]


 実験? 確かにそうかもしれない。

 私は実際にこの能力を持て余してるからね。

 戦闘のプロに探索の第一人者の私がどこまで食いつけるか。

 非常に興味がある。


『アレはまずいぞ、シェリル!』

『わかってるわよ。三回まで残機を持つヤマタノオロチ。本当に厄介な能力だわ』


 いかに彼女達の撃破タイムが30分以内であろうと、それは6人居てようやくと言ったところだ。

 LPを三回まで全損させても復活する古代獣とかどんな悪夢だ、とシェリルは息を呑む。


 ただでさえ神格武器の出鱈目な力でチームは半壊。九尾戦の最終局面で持ち込んだアイテムのほとんども使い込んだ後に、この始末。


 連戦するならまだしも、倒したところで手下の一つを潰しただけの労力でしかないのだ。

 まぁ完璧に嫌がらせで出したからね。


 掌握領域で一度取り込んでるので私自身にも対ビーム装甲もついている。九尾君も同様にね。

 なんだかんだ私に意識を向けることは成功したが、急に思い出したように九尾君に意識を向けられても困ってしまうからね。


『ここはいっそ平等に行こう。君たちが三人なのに私は一人と一匹じゃフェアじゃない。出番だよ、ピョン吉そして掌握領域──〝ピョン吉+重力操作+風操作〟』

『同時に三つも!? 一体いくつまで合体させることができるんです?』

『さぁ? それは私にもわからないな。そういう検証はそちらが得意だろう?』


 意識がピョン吉と山田家に向いたのを見越してショートワープ。ヒャッコ君とすれ違いざまに抜刀攻撃。

 しかしこれは同じビームソードで相殺されてしまう。


『相変わらず勘のいい』

『ふふ、俺のところに来るように義父さんに呼びかけて誘い出したんですよ』

『成る程、さすがプロフェッショナル。ならばこちらも、掌握合体──〝レムリアの器+水流操作〟』

『水のように形を変えるビームウィップ……これまた厄介な』

『君のボディは対ビーム装甲なのだろう? ではこれは悪手だったかな』

『これはお人が悪い。対ビーム装甲が制限式である事を知らないとは言わせませんよ?』

『ほう、それはいい事を聞いた』


 ビームソードを振り抜く!


『情報を引き出されてしまったか!』

『人聞きが悪いね。君が勝手にしゃべったんじゃないの』


 私はハリセンの形に組み替えたビームソードを振り抜き、ヒャッコ君の頭をスピンと打ち抜いた。


 ダメージは大した事なさそうだが、兵器としての側面しか持たないビームソードがしなりながら自らの頭頂部に叩きつけられたヒャッコ君は呆然としながら私を見た。


『えーっと……ここ、油断した俺がバッサリいかれる場面じゃなかったですか?』

『え、なんで?』

『いえ、なんでもないです』

『さては私が仮にも娘の夫を無慈悲にも手にかけると思った?』

『さっきまでの悪役ロールはどこいったんだとは思いましたが』

『まぁそれでも、思うがままに形が変わっても使い心地がイメージ通りに動くかは検証したいよね?』

『気持ちはわかりますよ。でも今しなくても……』

『意外とこのスーツに袖を通す機会って無いんだよ。悪いけど付き合ってもらうよ?』

『こちらもデータが取れるので一石二鳥ですがね!』


 やはりこの子は転んでもタダでは起きないね。

 しかしここで入手したデータの使い道とかあるのかね?

 勿論私は今後使う見込みはないよ。

 あくまでも検証だ。

 性能テストなんだ。

 意外と山田家+ミラージュはいい感じに戦力を削いでくれてるな。次は九尾君にミラージュつけて特攻させてもいいかもしれない。


 私の思案中を狙ってヒャッコ君ともう一人のメンバーがブラスターで一斉掃射をしてくる。

 勿論それらはクトゥルフの鷲掴みで対消滅させてそこへ向けて無限に伸びるビームウィップで一掃する。


 ただ向こうもワープ持ちなのですぐに回避されてしまった。

 しかしワープ用のゲージは燃費が悪い。

 師父氏はその燃費の悪さを縮地なるスキルでカバーしてたけど、彼らはどうかな?

 案外専用の回復アイテムとか発見してるかもしれないね。


 しかし山田家ばかりに気を取られてると足を掬われてるよ?

 飛行能力を得たピョン吉はと言えば、侵食領域を拡大しながらその巨体で空を駆け回っている。

 ビーム攻撃は相変わらず弱点だが、その場合は重力操作で無理やり自分の体を重くして回避する。実に上手いやり方だ。

 私もテイマーからライダーへとシフトしながら援護する。


 向こうが協力プレイならこっちも協力プレイだ。

 九尾君もチャンスを窺いながら攻撃に参加する。

 それでもヒャッコ君は手強く、全ての攻撃をいなされてしまう。プレイヤー個人能力トップ勢は伊達ではないと言う事だ。


 それにシェリルの雷神化も地味に厄介だ。

 ワープに追随する移動速度。

 触れるだけでその身がレーザーに触れたように焼き切れてしまう。あっという間に山田家のライフが尽きているあたり、古代獣との相性は良いようだ。


 本当にベルト持ちプレイヤーと言うのは規格外の能力者が多くて参ってしまう。

 ただでさえ戦闘センスが高いのに、同じような能力を持って張り合ってくるんだからね。

 でも……


『私も同じように成長することができるんだよ。いつまでも弱いままだと思われてるのは困るな』


 腕を振り上げながら、潮の香りを放つ空気の層を掴んで引き寄せる。空間を引っ張る事で一瞬の隙を作れば、そこを九尾くんが各種鞭で追撃する。

 勿論それが防御されることもわかってた。

 防御させるために自由にさせたのだから。

 こちらが接近戦に弱いように、そちらも張り付かれるのは苦手だろう?


『ぐっ! 雷の力が……』

『掌握領域、便利だよね?』


 シェリルの纏う雷の力を奪って纏う。

 防御さえされなきゃ九尾君も活躍のチャンスだ。


『破壊の相、ルドラぁぁぁあああああああアアアッッ!!』


 ──が、彼女もまだ諦めるつもりもないようだ。

 シヴァのもう一つの顔を見せ、破壊の力を振りまいた。


『壊滅の腕!』


 全てをズタズタに焼き尽くす破壊の光が周囲に散った。

 この一撃の被害はテイムモンスターへと向けられた。

 私に意識を向けながら、周囲を実によく見ているものだ。


『が、その能力すらも掌握領いk』

『させません!』


 シェリルと私の間に差し込むような自爆特攻。

 これはヒャッコ君ではない。

 するともう一人のメンバーか。


 身体中に光る紋様からそれが霊装だとわかるが、あいにくと見ただけでどんな効果を持つのまでは判別できない。

 ここには説明役が少なすぎる。

 こう言う時こそオクト君の出番なのに。

 そんな彼女のタックルは光の速さで私の鳩尾で突き刺さり、


『ぁああああああっっ!!』


 クトゥルフの鷲掴みで受け止められた。

 そして握り締められる。


『フィルアン!』


 ヒャッコ君の悲痛な声。

 フィルアンと呼ばれたプレイヤーはそれでLPを消失させたのか握り締めた腕の中で光の粒子を散らしていた。


『よくも!』

『はい、おつかれ様』


 誘い出されたヒャッコ君が私の身に纏う雷の力に当てられてLPをだいぶ持っていかれる。表情は見えないが、ふらつく姿から相当のダメージ量だろう。

 PVP時、彼はすぐに反撃に出てきたことからダメージのあるなしは判別がつくようになった。

 決して敵対する能力ではないからその威力の程を知らないらしい。しばらくしてヒャッコ君も戦闘不能になった。

 どれだけ威力高いのさ、この雷。

 そこで満身創痍のシェリルが呼びかけてくる。

 どうやらルドラモードは制限時間付きなようで、今ではシヴァの姿に戻っていた。


『父さん、少し大人気ないのではなくて?』

『何を今更。私を討伐すると言ってきたのは君たちなのに?』

『だとしてもよ』

『ではどうすれば君たちは納得するのだろう? 言っておくが九尾君を諦めろと言うのはなしでお願いするよ?』

『分かっているわ。だから一時的に停戦協定を組まないかしら?』

『それって私が組む意味あるの? 劣勢であるのは君たちだ。私はいつでもひっくり返せる』

『組んでくれるならしばらく九尾に戦いを挑まないわ』

『ふむ。それだと君のメリットが見えない』

『出来れば私のクランと敵対してくれなければ良いわ』

『そりゃ、うちのクランの傘下だ。こうやって勝負を挑まれるでもしない限りは勝負を挑むことなんてないよ? 今回のことは全て君たちの起こした行動だ。私に不備は一切ない』

『そう。じゃあ私は帰るわ』

『全く、戦うと言ったり帰ると言ったり変な子だ』

[生きて返して良かったのか?]


 向こうにどんな事情があるにせよ、ここで追撃する意味もないし。その事を後でネチネチ言われる方がダメージがくる。

 妻は彼女の夫婦に世話になってるのだから。

 そのとばっちりを受けさせるわけにはいかないよ。


 私も妻も娘達に世話になってる身。

 ゲームの中のことをリアルに持ち出すことはないと思うけど、あの子は思い込みが激しいから心配なんだ。


[ふむ。事情があるのなら仕方がない。だがああも負け惜しみを吐き捨てられては気分も優れんだろう?]


 なんだかんだあの子も負けず嫌いだからね。

 私の能力を把握することに途中から意識を変えてたし、痛み分けってことで良いんじゃない?

 掌握領域で入手したことによってある程度の解析はできたでしょ?


[敵に情けをかけるとは何とも甘いことだ。だが、その甘さは余には無いものだ。勉強させてもらった]


 私はその甘さを大事にしていきたいと思ってるよ。

 それに娘に指摘されたように少し大人気なかった。


[そうか? 合理的な戦術に思えたが]

『|ー〻ー)確かにラスボスの様相でしたけど』


 おや、ルリーエ。途中からいなくなってどこ行ってたのかと思った。


『|◉〻◉)ネクロノミコンの様子を見守ってました。ほら、あの子放っておくと360°喧嘩売りそうだったので』


 そりゃご苦労。

 で、くま君は彼女とうまくやれそうな感じだった?


『|ー〻ー)どうでしょうかね? 姉さん女房って感じですっかり尻に敷かれてましたよ。まぁ今のところ無害ですね』

[ネクロノミコンか。驚異度は如何程か?]

『|◉〻◉)と、言っても彼女の能力で僕たちをどうこうすることはできませんけどね。せいぜいハスター様が強制送還させられるくらいでは? エルダーサインも特に僕たちには効きませんし』


 じゃあ今のところ業務に影響はなさそうなんだ?


『|◉〻◉)はい。クトゥルフ様のお手を煩わせるほどでも無いですね。ただ過去改竄に関わられると厄介ですが』


 でもくま君、ムー陣営だからティンダロスの猟犬は追い払えなくない?


『|ー〻ー)腐ってもネクロノミコンですからね。便利な術がたくさんあるんですよ。一応そこら辺の意味も込めて監視の強化はしてます』


 なるほどね。

 陣営トークをひと段落させてから九尾君の特訓を開始する。

 今日の戦闘を思い出しながら改善点を追求していったら早くも九尾君は尻尾を振って降参した。

 前の世界線よりも随分と卑屈な性格だ。

 もしや世界を改竄するたびに性格に変化とかあるのだろうか?

 そこら辺は要検証だね。


『|◉〻◉)単純にハヤテさんの戦闘見てたからじゃないですかね?』


 えー。普通でしょ?


『|ー〻ー)あれを普通と言い切れるあたりがハヤテさんらしいですけど。十分クトゥルフ様の領域ですよ?』

[うむ。余も力の使い方を感心しておったのだ。直接教えずともあそこまで使いこなして見せる発想力。見事である]


 えー、何ですか急に。

 いきなり褒め出して気持ち悪いなぁ。

 なんだか辺に褒めてくるのに身体中が痒くなってくる。

 私もすっかり悪役サイドに慣れ切ってしまったのか、彼女の仲間を屠った時、少しだけ胸がスッとする思いだった。

 自分の中で九尾君の仇を取れたと言う感情でも湧いたのかな?


 特にそう言った感情を込めたつもりはなかったのに、ただ技の一つとして繰り出したはずなのに、やってやったぞと言う気持ちが強かったのだ。

 ブーメランで屠った時は数が減って負担が減るぞくらいにしか思わなかったのにね。


 いかんな、最近意識までクトゥルフさんに引っ張られてるみたいだ。

 やめてよね、私は普通に家族とゲームで遊びたいだけなのにさ。

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