「はい。ようやくなんとかなんとか( ゚д゚)氏のペット化も成功して、特別配信もお終いですね」
「|ー〻ー)全部砂嵐でしたけどねー」
開幕お詫びの前に、近況をパパッと報告する。
あれから一度私達は別れて、本日は私とスズキさん二人で詫び配信を行っていた。
『見せられないよ!』と書かれたプラカードを持ったスズキさんが合いの手を入れる。
掻い摘んで言えば、ファフニール討伐は時間はかかったけど可能だった。
だが後追いのプレイヤーにそれが可能かと言えば無理だろう。
なんせ、
「いやあ、もりもりハンバーグ君無双でした」
ベルト持ちの能力、神格召喚ありきのスーパークトゥルフ大戦の様相故の討伐だったので。
神格が囲んで古代獣をいじめてる映像だ。
グロテスクでさえなければ砂嵐は映らないが、映ったら映ったで品性を疑われかねない。
結果だけ見れば圧勝だけど、それが他人にやれるか聞かれたら無理なわけで。
取り敢えず代替え案としてはベルト持ちになる事が前提のゴリ押しだった。
じゃあ私はと言えば? 一応頑張ったのですが力及ばず。
いえね、全力出すと他の皆さんを誘った意味がないので活躍のチャンスを与えつつサポートに回ってタというのが正解です。
でもソロで討伐できたかと言えば怪しいんですよね。
何せ目的は討伐ではなく、( ゚д゚)ぽかーん氏のペット化がメインでしたし。
ちなみに眷属化出来る古代獣は一匹までなのでティアマットを解除して九尾を再度眷属化しなおした。
なんだかんだ彼とは思い入れがあるのだ。
「|◉〻◉)肉の芽強すぎですよね~。クトゥルフ様も敵対しないようにしようとこれから仲良くするよう心がけるみたいですよ?」
「彼でも手強く感じるんだ?」
「|ー〻ー)仲良く出来るならしておきたいが心情ですから」
いつのまにか鯛の着ぐるみに着替えたスズキさんが『ギョギョッ』と気さくな挨拶をしながらクトゥルフ陣営トークをかました。
ちなみにこの配信、生ではない。
詫びなら生でするものだそうだが、なにぶん公開する情報が情報だからね。
事前に公開出来るかどうかを吟味する必要があった。
どうもそこら辺の判断は神格と身内の私たちだと緩くなってしまう。
なのでここは一つ第三者としてオクト君あたりに視聴してもらって公開出来るかどうか決めてもらおうと思っていた。
娘のシェリルに見せてもいいけど、( ゚д゚)ぽかーん氏が敵陣営に塩を送るのはやめておけと言うのでね。仕方なくだよ。
彼なら多少の恨言を言われるかもしれないが、快く引き受けてくれると確信してるからね。
スズキさんはまず間違いなく心労を訴えると言ってくるが、これも社会勉強だよと言ったらニヤリと口角を上げていた。
とても悪い顔をしている。器用だよね、彼女。
それはともかくとして攻略の話だ。
さてかの古代獣、10番目の侵略者ファフニールについて語っていこうと思う。
かの邪龍は10種類の解除不能な呪いと状態異常攻撃を耐久ゲージの割合に応じて行ってくる。
ただでさえ通常攻撃の豊富さで厄介なのに、その対応呪いがこっちの想定を覆してくるのでシェリルも二の足を踏んでるらしい。
10番目でこれだ。11番目と12番目も非常に気になるよね?
しかしそれまで私が関わる必要はないと思うんだ。
本来ならこれらはギミック込みでプレイヤーに乗り越えさせるものだ。
チュートリアル世界と呼ばれたこの場所での試練。
間違いなく本来の世界でこれ以上の試練が我々プレイヤーに降ってかかるのが目に見えている。
そちらに行くにしろ行かないにしろ、彼らの伸び代を私の善意で摘み取るのはもったいないと思った末の配慮だ。
それに神格召喚者は能力でのゴリ押しだから努力はしてないんだよなぁ。
話は遡って呪いの話。
耐久100%で呪いで聴覚を奪いつつ、鈍化の状態異常。
これは動きを制御するもので、確実に獣人、ムー陣営特化だ。
テレポートを使えるアトランティス陣営やレムリア陣営には対処可能。
ムー陣営はこの段階で篩にかけられる。
ちなみにムー陣営もパーティを組んで手を繋げばレムリア陣営のワープについていけるので、ムー陣営だからと諦めるのは早計だ。
ムー陣営に拘って、その陣営だけで突撃をかけてきたら詰むのは確実だろうけどね?
続いて耐久90%。
割と早い段階で訪れるこちらだが、100%の時の呪いや状態異常に重複する形でさらに発動する。
ファフニールの厄介なところはここなんだよね。
呪いや状態異常が重複することなんだ。
そして奪われるのが触覚。
手に触れる、舌で味わうなどの感覚が薄れる。
触ってる、握りしめてるのに感覚がなくなるのが怖い。
こうやって少しずつこちらの能力を奪ってくるのでダメージを与えすぎても詰むんだよね。
本当に厄介極まりない相手だ。
失った相手の耐久ゲージを見つつ、何を奪われたか考えて行動しなければならない。
だからと言ってファフニールそのものに状態異常攻撃が効かないと言うわけでもないんだ。
そこが唯一の攻略法だったんだけど、( ゚д゚)氏がペット化しちゃったのでさらに極悪になったよ。
ほら、彼の神格の権能って状態異常反射だから。
私達はそのお陰で状態異常は全然かからなかったので好き勝手やらせてもらったよ。
そのおかげで全部砂嵐になったんだけどね?
神格の権能ぐらいならライダーになれば出来るけど、それ以外の能力使うには神格の影響をモロに受けちゃうでしょ?
おかげで一面触手祭り。
どっちが悪者かって聞かれると絵面的にまずいから砂嵐でも仕方ないと思うんだよ、うん。
今頃シェリルが地団駄を踏んでる頃だろうなぁ、頑張って乗り越えて欲しいものだ。
お次は80%。
ここでようやくレーザー系統のバリアが張られる。
レムリア陣営にとってのダメージ源が没収されるわけだね。
もちろんビームソードの効きも悪くなるよ。
悪くなるだけで多少は通用するんだけどね。
重複する呪いは嗅覚の消失。
状態異常は手足の痺れが行動を阻害してくる。
これは感覚がなくても握れていたものが、割合で失敗する状態異常だ。
このように%毎に呪い、偶数%毎に状態異常付与と与えてくる。対処していれば戦線が乱れることはないが、初見殺しであることは確かだ。
どうにかして70%まで減らすと、今度は物理ダメージを軽減してくるようにボディが生成される。
相変わらずレーザー耐性のボディでもあるので上書きではなく更新だ。
付け加えて呪いはサーチ系等のスキルが通用しなくなる。
これによって突然使い始めるビーム攻撃の回避が難しくなるんだ。
レムリア陣営にはビームシールドなるものがあるが、それも回数制限がつけられてるからね。
故に70%からレムリア陣営殺しになる。
抜け道はあるが、エネルギー問題で連発は不可能。
どちらにせよ詰むのは確かだ。
ムー陣営も普通に敵わない相手だ。
巨大化したところで聴覚と嗅覚を潰され、フィジカルだって割合失敗。他にもスキルもあるが、お得意の物理攻撃も特殊な肌でダメージ緩和がつく始末。
それでも目が使えるうちは諦めないだろうね。
そこで満を持して60%。
ここで呪いが視覚が消失させてくる。
ムー陣営をいよいよ持って始末しにきてるね。
状態異常はスキルの割合発動失敗だ。
プレイヤーのスキルにまで直接影響を与えてくる中ボスは今のところこの相手しか知らない。
成功率は60%と高いが、連発する手合いだといざと言うときに失敗する確率も高くなって使用するのを躊躇わせる効果がある。
それをなんとかして乗り越えると50%。
ここで今までかけられていた呪いが全解除される。
失っていた視覚や聴覚や嗅覚、触覚が戻ってくるわけだ。
でも失った状態異常はそのままで、更に移動制限の呪いがかけられる。
テレポートなどが出来なくなる呪いだ。
空を飛ぶこともできない。
そうしようとする意思を奪い去るのだ。
プレイヤーを地面に縫い付けるのが目的なのだろう。
ここから脱落者がより多くなる。
まるで的あてゲームの様相で、礫攻撃を多用してくる。
遊んでいるのかもしれないが、動けなくなることによるデメリットに悲壮感がより強くなる。
ちなみに魔法にも耐性がつくボディに変わるため、いよいよ持って全ての攻撃が通用しなくなる。
肉の芽? 全く問題なく貫通したよ。
ほんと恐ろしいね。クトゥルフさんが危険視するのもわかるよ。
そこを生き残って40%まで到達すると、不動だったファフニールがようやく動き出す。
敵として認めて貰えたようだ。
でも積み重なった呪いや状態異常は一切消えない。
追加される呪いは回避行動の鈍化だ。
これによって逃げようとする意思がプレイヤーから奪われるのだ。最後まで抗って見せろとファフニールからの強い意志を感じる。
状態異常は消耗毒。
1秒間にSPとスタミナを1%消費させる毒を噴霧し、確定で受ける。もうスキルを使わせる気もないらしい。
潔く倒れろとでも言わんばかりだ。
30%を切ると発狂モードに突入し、出鱈目にレーザーと魔法、身体中から触手鞭を振るってくる。
追加される呪いは防御行動の失敗確率増加。
潔く受け取れとでも言うのか?
倒される気はないみたいだね。
20%は小休止。暴れていた肉体は活動を休め、それでも頭は休まずプレイヤーを狙い続ける。
呪いは全ての行動においての確率失敗。
状態異常は食事による回復無効だ。
肉の芽は20%まで貫通し続けた。
ちなみに20%行った頃に( ゚д゚)ぽかーん氏がペット化に成功したので私の知る状態異常の蓄積はそこまでだったりする。
詳しいことはシェリルの方が知ってるかもしれないので彼女に任せようかな。
そんな説明にあれこれ『これなら多分平気だろう』とモザイクをかけた映像と攻撃パターンを解説した。
それらをオクト君に見てもらい、公開できるかどうかを聞いた。
「お義父さん」
「なんだい?」
「これ、本当にプレイヤーが討伐できるものなんですか?」
開口一番、図星をつかれる。
「うーん、ちょっと自信ないな。ギミックは都市を使うものが通例だ。テンスリバーには行ったことないんだけど、そう言うギミックが眠ってる可能性は?」
「僕もまだ到達してないんで分かりかねますが」
「そっか。11もまだ開通して間もないと聞くものね」
「ええ、義姉さんが先導して僕ら一般プレイヤーを導いてくれてなんとか。それ以外でしたらきっと全プレイヤーの2割も到達してるか怪しいですよ?」
「陣営に所属しても?」
「まずお義父さんは一体何名のプレイヤーが陣営に与しているかを把握した方がいいと思いますよ。多分全体の3割か4割です。それ以外はまだ陣営にたどり着けてすらないと思いますよ?」
「そんなものか」
「そんな物なんですよ。クランに参加してようやくですからね。このゲームって思ってる以上にエンジョイ勢が多いので」
「私もその一部なのだけど?」
「それを言われたら攻略班がキレ散らかすと思うのでそれ以上は言わないであげてください」
「はいはい、どうせ自覚はありませんよー。それはともかく、公開は可能かな?」
「クリア出来るかはともかく、情報としては伝わるかと」
「良かった」
OKが出たので早速アーカイブを投稿すると、すぐに反応がついた。やはり生配信がことごとく砂嵐に見舞われたのもあって何をやっていたのか分からなかった者たちが多いようだ。
しかし配信が終了に近づくにつれて コメントが加速していく。やはり討伐の難易度の高さに対するクレームが多いようだ。
問題があるとすれば眷属化させた相手が( ゚д゚)ぽかーん氏だと言うのもあるか。
ロールプレイでも人気だからね、彼。
彼に対する恨みつらみが加速して、投稿して間も無く炎上した。
うん、これから生放送は控えよう。
特にベルト関連のやつは。
私がそんなふうに意識を改めたところで怪異は向こうからやってくるのだけれどね、やれやれだ。