「はい、こんにちはアキカゼです。今回も前回に引き続きみくるさんとあかりさんをプロデュースしていきます。と、その前に今回は特別ゲストを呼んでいます。ほら、自己紹介して」
私は配信を始めると共に、待ち伏せしてた孫とそのお友達に自己紹介するように促した。そしていつの間にか合流した癖の強い子にも目配せする。
「フェアリーテイルのマリンだよ、今日はよろしくね!」
「改めまして皆さま。フェアリーテイルのユーノと申します。ちょっとマリンちゃん、一応アイドルとして参加してるんだからもっとちゃんとして」
「えー、良いじゃん。お父さんはそのままの私で大丈夫って言ってくれたよ?」
「私が困るの!」
「分かったよー。本当ユーノは小言が多いんだから」
「拙者は村正、侍を志し、その過程であいどる道なる道に迷いし者。以後よろしく頼む」
「よろしくね! 村正ちゃん!」
「承知!!!!」
「……………」
「……………」
自分達より癖の強い新人達を前に、みくるさんとあかりさんが絶句している。
マリンは家にいる時と同じく私にべったりなのを早速ユーノ君に指摘されていたし、村正君も変わらずあの時のままだ。
完全に行動が迷子になっているが、リーガルさんは娘さんがこのままでいいのだろうか?
チラリとカメラの外に視線を送ると、団幕を持って娘を応援する過保護すぎる父親と、見知らぬ少年がいた。
見ない顔だが、表情から本気で村正君を応援している事がわかる。
もしかしたら彼の認めるファンがついてくれたのかもしれない。
「ヨシ!」
:よし、じゃないが?
:特別ゲストの存在感で両名の霊圧が消えましたぞ?
:完全にゲストの個性を食いにきてるんだよなぁ
:いや、この子達は自然体でこれだから
:1人アイドルとして可笑しいのがいる突っ込んでいいか?
:ダメ
:受け入れよ
そのあと意識を取り戻した二人は、表情を引き攣らせたまま三人の新人に挨拶をした。
「せっかくだし、今日はこの五人でパーティを組んで討伐に挑んでもらおうか? アイドル同士、切磋琢磨してね」
「お爺ちゃんが言うなら、良いよ!」
:お爺ちゃんにべったりなマリンちゃんは可愛いなぁ
:お爺ちゃんに言われなかったらダメって意味じゃないのか?
:そりゃ明らかにお荷物だし
:お荷物言うな
:可愛いやろがい!
「どう、ユニゾンスクエアのお二人さん? 個性の強い子達を前にしてまだ自分を通せそう?」
今回は偶然に偶然が重なったけど、上手い方向で彼女達の危機感を煽ることができた。
それをどう受け取ってくれるかが今日の課題だ。
「そうね、絶望の淵に立たされているのを自覚したわ。この子達の前じゃ、たしかにあたし達は個性が強いとは言えない」
「みくるちゃん、どんまい!」
「あんたも同じ境遇なのに他人事!?」
「然り!!!!」
「村正ちゃんだっけ? あんたには聞いてないから」
「……!!!!」
村正君は答えに窮したのか、言葉は交わさず、凄んで見せた。
それを真正面から受け止めたみくるさんは泣きそうになっている。
「はいはい。脱線はそこまで。村正ちゃんもそんな風に凄んだら怖がらせちゃうでしょ? もう少し威圧を取り払ってお話しなきゃだめよ?」
「加減を間違えた。済まぬことをした」
「次からは気をつけようね」
「承知」
ユーノ君にあやされ、シュンと耳を垂らす村正君。
こうやって並ぶと姉妹のよう……には特に見えないね。
唯一の獣人はアイドルとしても相当に目立つ。
どちらかと言えばマスコットに近いかもしれないが、親バカなリーガル氏にそんなことを言おうものなら鉄拳が飛んできそうだ。
「それじゃあお題を発表します」
ドキドキしだす孫に対し、みくるさんとあかりさんはそわそわし出した。ユーノ君は何がきても不動の姿勢で構え、村正君に至ってはよく分かってないように目を瞑っている。
「では今回は、このパーティでヘビー、もといヨルムンガンドと戦ってもらいます」
「特効武器の使用は?」
「もちろんありだよ。なんでも縛ったら楽しくないし、クリアするまでの過程。つまりは協力し合う事が今回の議題にある。アイドルは例えライバルだとしても表向きは仲良くしといて損はない。みくるさんやあかりさんにとってはチャンス到来だ」
「私にとっては?」
「マリンにとっては得られることは少ないかもしれない。でもね、逆に教えられることだってあるんだ」
「教えられる事?」
「そうだよ。人は生きていく上でどうしたって自分だけの生き方、固定観念が生まれるものだ。自分とは違う他人に酷く不安を覚えてしまう。けどね、そこで他人を否定するのは簡単だけど、それはすごく勿体無い事なんだ。他人というのは自分と違うことを考えられる人なんだ。そういう人との繋がりをたくさん作っておくと、自分が困った時に助けてくれるものさ。お爺ちゃんはそうやって多くの人たちに助けられながら生きてきたよ。私はマリンだってそれが出来ると思っている。今回のテーマはアイドルとしてだけじゃなく、マリンが生きていく上で広い交友関係が持てるようにするものなんだ」
「よくわからないけど、わかった!」
:アキカゼさん、マリンちゃんに言い聞かせるときだけめっちゃ優しい目するよね
:そりゃ祖父と孫だし?
:マリンちゃんはええ子やな
:芯が強いし他者には冷たいけどな
:そりゃ見知らぬ人は怖いだろ
:現代社会の教育が他人を信用するなですし?
:特にアイドルのような偶像はファンに紛れたアンチに心へし折られるからな
:人間不信待ったなし
:マリンちゃんの笑顔は家族にだけ見せるスマイルなんやろな
:アキカゼさんはいつもこれを見れるのか
「羨ましいかね?」
:めっちゃ羨ましいです
「ならば家族を大切にしなさい。子供達を大切にしなさい。回り回ってそれは自分に返ってくるものだ」
:深い言葉ですね
:そして現状俺たちには実現が遠すぎる道のりでもある
:草
:お前の現状を俺らの代弁として語るな
「さて、みくるさん」
「なに?」
彼女は突然話を振られて不機嫌そうに口を尖らせて返事をする。
「パーティーリーダーは君だ」
「えっ」
「意外かね? この中ではたしかに君の個性は薄い」
「言われなくたって自覚してるわよ! 嫌味!?」
「でもね、本質を忘れては困るな。私の配信は君とあかりさんのプロデュースにある。個性の強さでは特別ゲストに軍配が上がったが、社会に出たらそんな癖の強い部下をまとめ上げなければいけない時だっていつか回ってくるんだよ」
:経験者は語る
:アキカゼさんは癖の強い部下の方だったんでは?
:草
「だからって今やるの!?」
「それが確実に今の君をレベルアップさせるものだと信じているからね。決定権は君にある。君が嫌がるのならば無理にとは言わないよ。だったらリーダーはマリンに任せ……」
「やるわ! 勝手にあたしが断る前提で話を進めないでくれる?」
「失礼。今までの君を見ている限り、拒否をするのだとばかり。成長したね?」
「そうよ。アキカゼさんのおかげでファンとの距離も近くなったし、コメントだけじゃなく、ちゃんと接して人間だってわかったもの。そこら辺は感謝してるのよ、一応?」
そっぽを向きながら怒り肩でぷりぷりしながら素直になれない言葉を口にした。
「ならば私からのアドバイスは要らないかな?」
「一応聞いておくわ」
「良い心がけだ」
私は語る。社会での経験を。
上の立場になり、自分より高いスペックを持つ部下と上司の関係性を。
ついついその能力に嫉妬してしまうこともあるだろう。
しかし、部下もまた上司の行動を見て敬意を払ってくれている事もあるんだ。
実力は行動で示せ。
そして報告、連絡、相談を欠かすな。
良いアドバイスを出し続けていれば、部下も自分を信じてついてきてくれるようになる。
能力が劣るからと卑屈になるのは時間の無駄である。
ならばその時間を使って違う分野で上に立ちなさい。
絶対に勝ち目のない能力で競うから卑屈になるのだ。
そう諭してやると、不安に押し潰されそうな瞳から光明が差し込んだような光が灯った。
「為になったわ。そうよね、勝てない分野で競うほど無駄なこともないわ」
「君は案外周囲を見れるし、指示も的確だ。人の上に立てる人間だと思ってるよ」
「そ、そう? でもどこでそんな姿を見たのかしら? あたしアキカゼさんの前でそんな姿を見せた事なかったはずよ?」
「そりゃ君の配信を逐一チェックしているからだよ。結構コメントを打ち込んだんだけど見てくれてなかったかな?」
:あの上から目線コメントアキカゼさんか!
:どこぞの後方腕組みニキかと思ったが
「み、見てくれてたの? 自分の配信以外で?」
「そりゃ見るでしょ。一度取り組むと決めた以上、君のサポートに全力を尽くすよ。ちなみにあかりさんの配信もチェックしてるよ。彼女にはまだリーダーは早いかな。もう少し時間が必要だと思う」
「えー、そんな〜」
「そ、そう。じゃあ仕方ないわね。リーダーをやってあげてもいいわ」
言葉では悲しげに言うが、彼女は心底ホッとしたと表情を作る。あかりさんはようやく他人と向き合えたところだ。功を焦れば余計な混乱を生むだろう。
計算高いと言う事は、他人を信用しきれない心の弱さの現れでもある。そんな彼女が他人に向き合えてる今、潰すような真似をしたら可哀想だ。
そしてマリンに向き直る。
今までずっと自分が中心で、コンビを組んでたユーノ君も私を見上げた。
リーダーにマリンを置かなくて大丈夫なのか、と。
「マリン、人の下につくのもまた経験だ。見ていられなかったらと言って進言なく前に出てはダメだぞ?」
「相談すればいいの?」
「そうだね。相談しあって決めると良い。失敗することで見えてくる事だってある。失敗しなきゃいつまでも見えないものもあるんだ」
「そっか。お爺ちゃんが前から言ってた失敗は成長の素っていうのはそう言う事なんだね?」
「マリンは賢いね。ユーノ君もマリンを頼むね?」
「いつものことですから」
「村正君も、スタミナを考えて動こうね? 今日はモーバ君は来ていないんだ」
「はい。どうも私は彼の前だと甘えてしまうようでいけません」
誰?
と一瞬思った。姿形は村正君なんだけど、纏う雰囲気が明らかに変わっていた。
「ここは最年長としてチームを陰から支えていく所存です」
だから誰?
ポカンとする私に、村正君はふふふと笑った。
どっちが本当の彼女か分からなくなる。
普段のあの姿はスズキさんのような役作りなのかと思うと、不思議と複雑な気持ちになった。