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第50話 九の試練/追憶⑤

 レムリアの民と敵対しない方法は以外や意外。

 武器を全部外して地面に置く事だった。

 そしてレムリアの器を胸の前に掲げる。

 これだけでいいそうだ。

 どおりで戦闘を始める前に少しの間だけ猶予があると思ったら、こんな抜け道があったとは。


 今回はライブ配信せずに、回すだけ回して編集する。

 何せこれが表に出ればなにがなんでも七の試練をクリアする必要性が出てくるからだ。

 私達はともかくとして、戦闘特化組には正式な攻略をしてもらいたい。

 じゃなきゃ上には進めないと思うからね。


 今はまだ、私達の方が上にいると娘に言われているが、それもすぐに抜かれてしまうだろう。

 その時に立ちはだかる彼らが難関としていてくれたらいいなと思うのだ。

 今回は初戦からレムリアの民と初戦から当たったので試してみた。

 すると……


『ふむ、レムリアの礼儀を知るものが居たか。対話の価値ありと捉えて良いか?』


 金の指輪を嵌めることで解読できるので頷いておく。

 彼らは基本的に戦闘は回避したい主義の様だ。

 しかし飛びかかる火の粉は払うらしく、いざ戦闘となったら一切の容赦なく処理しにくるらしい。

 怖いなぁ。


「はい。私達は敵対の意思はありません。そもそも勝ち目がありません」


 両手を上げながら降伏する。

『そうか。しかし貴様の持つ器は些か別物の様だ』



 レムリアの民は目敏く私のレムリアの器が改良されているのに気づき、指摘してきた。


「これは壊れていたのを他の方に直していただいたのです」

『その存在の名は?』

「名は聞いてません。ですがアトランティスの民の穏健派であるとお言葉を頂いてます」

『穏健派……彼か。すると貴様は彼からの使者であると、ふむ?』


 どうやら彼はキーパーソンであるのは間違いない。


『取り敢えずはそうだな。器をこちらに貸してくれるか?』


 言われた通り貸し出すと、なにやら打ち込み始めた。


『返そう』

「今のは何を?」

『これは我らに宛てたメッセージだった。それらを取得し、情報を同胞達へ拡散した。これで同胞も同様に貴様らを仲間として迎え入れる事だろう』


 つまりは今後戦闘しなくていい?

 やはりこの情報は公開しない方がいいな。


『さて、時間が来た。我らとの盟約、違えてくれるな?』

「精一杯頑張らせて頂きますよ」

『期待しているよ』


 その言葉はどこか平坦で心情が一切感じ取れないものだった。

 彼らにとっては言葉よりも意志の伝達も全て器で送受信しているのだろう。


「さて、これでレムリアの民は私達の敵ではなくなった」

「|ー〻ー)つまりどういう事だってばよ?」


 ノリノリで聞いてくるスズキさんに相槌をうつ。


「うん。さっきのやり取りでの話を掻い摘むと、レムリアの器を介して同胞認定してくれた様だ」

「|◉〻◉)それって僕たちも?」

「いや、あの言い方だと少年だけっぽいよ」

「またハヤテさんの事案ですか?」

「それはともかくとしてアトランティス戦はどうするんです?」


 妻の声でハッとする。

 目の前にはアトランティスの民が仁王立ちで待っていた。

 ダメ元で同じように武器を置き、レムリアの器を差し出した。

 すると……問答無用でキルされた。


「ちょっと何やってんですか!」

「いや、ほら。さっきの今で通用するかなって思うじゃない?」


 ★ミラージュを消費しつつ、追撃をショートワープで回避し、ジキンさんと合流したところで悪態を吐かれる。


 レムリアの民と違い、アトランティスの民は一戦目でも強敵だ。しかし、二戦目だと空間そのものを武器とする。


 一戦目は★風操作や★水操作だったのが、二戦目はそれも含めて一~六の試練の称号スキルを余す事なく使ってくる。

 その上で空間や地形を意のままに操る。

 これがアトランティスの民の標準装備だと言うのだから冗談にして欲しい。


「ほら、来るわよ!」


 妻の声で気付き、ショートワープでその場所から移動する。

 床が無理矢理形状を変え、針のように中心を尖らせた円錐状になる。

 それが意思を持つように波打ち、私達に向けて放たれる。


 各員が回避行動を取ると同時にアトランティスの民が動き出す。

 一戦目もそうだったが、周囲の空間が水に纏わりつかれる様に身体の自由を奪い、彼の武器を中心に渦を巻く。

 巻き取られる様な吸い込み攻撃。

 その到達部に氷を作り出し、ぶつけながら雷の元を作り出した。

 私以外がそれに巻き込まれ、機転を利かせた探偵さんが氷の塊を無理矢理くっつけて雷の発生を抑えた。


 パッシブスキルの『海の目』と『ハイクリティカル』反応。

 次いでナビゲートフェアリーが起動しているのを感知した。

 そして網膜内に見えない攻撃意識を感じ取る。

 これは6まで契りを重ねた視覚強化の影響か?

 何もない場所に妙に意識を惹かれた。


「見えない攻撃、来るよ!」

「なんでわかったんです?」

「地の契りの視覚教科で判明した!」

「ナビゲートフェアリーでも見えるわ!」

「それぞれ回避お願い」

「|◉〻◉)オッケーです」


 水の中で活躍できるのはそっちだけじゃないぞと専売特許を掲げるスズキさんが上空に泳ぎながら体の表面に光の紋様を描く。


 アトランティスの民戦は基本的に目に見えない水を向こうの意のままに操られるが、実際にその場に水があるわけではない。

 だからこちらが向こうの水を扱うと言う事はできず、スズキさんのあれは【霊装】である事を知る。


「|◉〻◉)ノ一番槍行きまーす」


 槍を構えて直下行でアトランティスの民の首を狙うスズキさん。

 しかしわざわざ来てくれるならありがたいとばかりに雷の仕掛けを施す。


「させませんよ?」


 探偵さんがレムリアの器に★氷作成を乗せて雷発生装置に干渉して周囲一帯を氷漬けにする。

 役に立たないと察したアトランティスの民はそれを壊し、腕をクロスにして首を守った。


「|◉〻◉)チィ、浅かった!」


 直撃はした。

 けれど硬い皮膚に阻まれて穂先が筋肉に押し返されてしまったのだろう、スズキさんは好感触とは言えない表情で着地した。


「足元がお留守ですよ」


 そこで足元を払う様に探偵さんが近接して足払い。

 しかし払おうと引っ掛けた足は浮くどころかまるで地面から生えてる様な強靭さを探偵さんに向けている。その表情は強張っている。


「はい、よそ見は厳禁です」


 サブマスターの腰の入ったフルスイングがアトランティスの民の頭にクリーヒットする。

 流石にそれはどうなのと思わなくもないが、ヘイトを稼ぐのには貢献してくれた。


 みんなからナイスですと言われながら逃げ惑うジキンさん。

 一人が注意を引いて、他全員が攻撃、又はヘイトを剥がす役割だ。

 攻撃に攻撃を差し込めるのはレムリアの器ならでは。


 しかし防御の役割は持たないので回避は自分の能力のみで行わなければならない。


「勝つ必要はないよ。でもやれるだけのことはしよう!」

「そりゃ勿論!」

「|◉〻◉)なんだか自分たちの戦闘を見られるのって恥ずかしいですね」

「貴女はもう少し自分の闘い方が異端だと気づいた方がいいと思いますよ?」

「|ー〻ー)ひどーい」


 サブマスターとスズキさんのやりとりを見つめつつ、アトランティスの民の隙を伺う。


「攻略方法見つかりそう?」

「七の試練からのアイテムとか使えないだろうか?」


 六の試練までは称号スキルだったにも関わらず、七の試練以降はクラフトアイテムが攻略に影響を与えた。

 報酬獲得とはまた違い、スキル以外の対処法もあるはずだと意気込む。

 そしてアトランティスの民がエネミーの生みの親なら、と想像した。


「ダメ元でいいならやってみなくもないけど」

「勝算なしでやるにはリスクが大きすぎるけどね。何も打つ手がないと手をこまねいているよりはいいさ」


 一人悩む私の元に探偵さんと妻、ランダさんが並ぶ。

 今はジキンさんとスズキさんが罵り合いながらヘイトをとってくれていた。


「さて、少しでも怯んでくれたらいいが」


 私達はレムリアの民よりは劣るが、それでも立ちはだかる強敵を前に、勝ち目のない闘いに身を乗り出すのだった。

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